第7話 魔王を入れてみた

「ジェイ!」


 倒れた金級冒険者を誰かが呼ぶ。

 ジェイか。そういやそんな名前だった。やっと覚えたと思ったらもう死にそう。


「ブラスディー、どういうことだ!!」


 どうやら刺したのがブラスディーらしい。こいつとは会話をしていないから、名前などまったく記憶に残っていない。

 そういえば、一歩引いてみなの様子を眺めていたのはコイツだったか?

 慎重なだけかと思ったら、なにやらたくらんでいたということか。


「ククク、案内ごくろうだったな。これで魔王はふたたびよみがえる」


 ブラスディーとやらはご満悦だ。

 コイツはマジの悪者っぽい。まさかパーティーの中にこんなクズがいたとは。


 ……しかし、あれだな。刺されたのが俺じゃなくて本当によかった。


「きさま! 魔王の部下か!?」


 部下か。なるほど。封印を解くチャンスをうかがっていたということか。

 確かによく見れば、コイツが持っている剣は地面にブッ刺さっていたやつだ。

 引っこ抜いて刺した的なやつだろう。なかなかにエゲつない。


「リック、二人でやつを仕留めるぞ。挟撃だ」


 金級冒険者たちがひそひそと話し合う。

 リックがベテランの方で、もう一人はわからん。

 とにかく二人で対処してくれるらしい。助かった。


「フン! もう遅いわ! 封印はもう解けた。お前たちの相手をするのは魔王だ」


 よく見ると魔法陣に血が流れている。

 そこからひび割れるように何かが姿を見せようとしている。


「しまった!」

「血を吸って復活するのか!」


 周囲の気温が急激に下がってきた。

 続いて響くのは地鳴りのような声。


「よく来たな人間ど――」

「てい!」


 超巨大な穴を開けてやった。

 それはひび割れごと魔法陣を吞み込んでいく。


 ゴゴゴゴ。

 そして、静寂。


 それっきり魔王は姿を見せることはなかった。

 あっさりと片づいてしまった。

 いや~、よかったなー。完全に復活する前に対処できて。

 体がでてきてたら、たぶんメンドクサイことになってただろうし。


 しかし、スゲーなこの穴。

 回避はできても脱出はマジ不可能みたい。


「な、なんだと……」


 ブラスディーは呆然ぼうぜんとした表情で穴を見つめる。


「倒した……のか?」

「おまえが? まさか……」


 他の金級冒険者たちは信じられないという目でこちらを見る。

 おう! 俺がやってやったぜ。

 お前ら俺がいて命拾いしたな! 感謝しろよ!!


「いったいどんな魔法なんだ? 地魔法とも違う。こんな魔法は見たことがない」


 だろうね。

 俺もよーわからん。

 そもそも魔法かどうかすら怪しいし。


「ちょっと待って!」


 褒められていい気分だったところをジャマしてきたのは、やっぱり取り巻き女子だ。

 命の恩人と言っても過言ではない俺に、なにやらケチをつけてくる。


「この穴、ゆうとを呑み込んだものとソックリ。やっぱりアナタが!」


 うん、そうだよ!

 ウソついてごめんね!


 だが、ここは話題をそらす。

 ちょうどいい感じで憎まれ役がでてきたのだ。

 これを使わない手はない。


「そんなことを言っている場合か! 他にしなきゃいけないことがあるだろう。ブラスディーだ。やつをつかまえるんだ。すべての罪はアイツにある!!」

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