第6話 息苦しそうだったので入れてみた

 こうして俺は封印を調査する旅にでることになった。

 今まで顔も見たことないやつらと一緒である。

 急造も急造、パーティーの雰囲気がいいはずもなく、まったくもってつまらない道のりだ。

 それでも、なんとか俺たちは封印のある魔王の城へと到着した。



「ここが、魔王の居城よ!」


 取り巻き女子がエラそうに城を指さした。

 ムカつく!


 しかし、これが魔王の居城なんだ。

 へ~、初めて見た。


「なんかボロっちいなあ~」


 石造りの城はなかなかの大きさだが、ヒビ割れてるし欠けてるし、みすぼらしさ満点だ。

 魔王も人間なんかにチョッカイかけてないで、城の補修でもすればいいのに。


「魔王の魔力がなくなったからよ。魔王が封印されるまでは、絢爛豪華けんらんごうかそのものだったわ」


 取り巻き女子は俺のつぶやきに答えた。

 チッ、聞こえたか。

 コイツはやたらと俺に接近してくる。最初は俺に乗り換える気か? みたいに思ったが、どうやら逃げられないように見張っているっぽかった。

 ほんとうに感じが悪いやつだ。


「だとすると、魔王の復活は怪しいな。城がこのありさまだということは、封印がまだ生きている証拠でもある」


 金級冒険者の発言だ。

 なるほど。鋭いな。さすが金級だけはある。


 俺としては封印が生きていようがいまいが、どうでもいい。

 そもそも封印だのなんだの言いだしたのは俺じゃないからな。

 とにかく勇者を穴に落としたことがバレなきゃそれでいいのだ。


「それにしても、ずいぶんとここに来るまで時間がかかってしまった。想定外だ」


 金級冒険者は続けて言った。

 その通り。ほんと、すっげえ遠かったんだよ。山や川をいくつも超えてさ。


「誰かさんのせいでね!」


 ギクッ!

 みなの視線が俺に集まる。


「銀級だっけ? よくそれで銀級になれたわね」


 とってもエラそうな取り巻き女子は俺にイヤミを言う。

 そんなこと言ったってしょうがない。

 俺の体力はしょせん銅級冒険者なのだ。みなより遅くて当たり前だ。

 銀に昇級したのも、穴の力のおかげでしかない。

 ……まあ、行くのがイヤでゆっくり歩いてたってのもあるけど。


「べつに来たくて来たわけじゃないし~」


 ハナクソをほじりながらそう返すと、取り巻き女子の顔は真っ赤になるのだった。


「あんたが、あんたが、絶対何かしたのよ! それでゆうとは、ゆうとは……」


 せいか~い。

 でもまあ、やったのは俺じゃなくて穴なんだけどね、ははっ。


「おまえ、ブッコロしてやる!!」


 ニヤニヤしてたら切れられた。

 あわてて仲裁に入った金級冒険者に、取り巻き女子は取り押さえられるのだった。





「あれが封印よ!」


 城のなかを進むこと少し、なんか、だだっぴろい所にでた。

 中央には魔法陣みたいなものが描かれている。

 そして、そのまた中央には剣が突き刺さっており、いかにもあそこで封印しましたよってたたずまいだ。


「なるほど、あれが封印か」


 金級冒険者が剣に近づく。


「まて、不用意に近づくな!」


 他の金級冒険者がそれをとめる。

 近づいた金級冒険者も、制止する金級冒険者も、どちらも正解だろう。

 見るからに封印は解けてないし、危険はないに違いない。また、慎重になるのも冒険者としては必要だ。

 さらに、その様子をジッと見つめている一人の金級冒険者も、同じように正解だと思う。

 だって、勇者を呑み込む穴を開けたやつがいることは確かなのだから。


 ちなみにだが、旅のメンバーは、金級冒険者四人と俺、あとは勇者の取り巻き女子が一人だ。

 そう、女子は一人。


 ニャーニャー言っていたやつは、里に帰ると書き置きを残して消えたらしい。

 ご主人様ご主人様言っていたやつは、旅の途中で姿をくらませた。

 この、ご主人様女子がいなくなったことで真っ先に俺が疑われたが、べつに俺のせいじゃない。

 なんか首輪みたいなのをしていたから、それを穴で吸い込んでやったら、その日のうちにいなくなってしまった。

 なんでだろうね? 俺には皆目見当がつかないよ。



「ふむ、問題なさそうだな」


 いろいろ調査してみたが、封印が生きていることに間違いなさそうだ。

 ちなみに金級冒険者の見立てだ。

 俺は魔法使いだが、さっぱり分からない。

 見た目がキレイだから、そりゃそうですよねぐらいの感覚だ。


「じゃあ帰るか」

「そっスね」


 一同、帰路につこうとする。

 調査は終了したのだ。これ以上ここにいても仕方がない。

 ところが――


「待って!」


 それを止めようとする者がいる。

 取り巻き女子だ。なんだよメンドクサイ。


「封印が無事なら、ゆうとを穴に落としたのは誰なのよ!」


 うん、そうだね。

 けっきょくはソコだよね。


「さあ?」


 俺は首をかしげる。

 そりゃあ、認めるわけにはいかないからな。

 あ、俺です、とか言おうものなら、それこそ八つ裂きにされてしまう。


「とぼけるのもいい加減にして! コイツが犯人よ!! ゆうとはコイツに穴に落とされたの」

「そんなこと言われましても……」


 なんの証拠があるって言うのさ。

 俺は白目をむいて肩をすくめた。


「ぎいいいいい!!!」


 取り巻き女子は、歯をむき出しにして襲いかかってきた。

 きゃー、暴力はんた~い。

 すかさず金級冒険者の背中に隠れる。


「じゃまよ!」


 取り巻き女子と金級冒険者はもみ合いになった。

 なんと醜い争いなのだろうか。


「やめろ!」


 一番年長の金級冒険者が声をはりあげた。

 彼がもっともベテランで、みなをまとめてここまで来た。

 その彼の言葉に、さすがの取り巻き女子も動きを止める。


「魔王の復活を調査するのが今回の目的だ。穴うんぬんがたとえ彼の仕業だとしても、我々は関知しない。ただ、冒険者同士のイザコザでしかない」


 おお~正論だ。

 取り巻き女子は苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 ざまあみろ。


「そんな! だからって……」


 取り巻き女子は、なんかもにょもにょ言っている。しかし、どう考えても金級冒険者が正しい。


「……じゃあ、わたしがコイツを殺したって冒険者同士のイザコザよね。あなたたちはもちろん関知しないわよね」


 え!?

 ちょっと待て。


「いいや。まだ依頼の最中だ。調査の結果をギルドに報告して初めて依頼達成となる。その間の仲間同士の争いを見過ごすことはできない!」


 わ~い。超正論だ。

 ベテラン金級冒険者の言葉にグウの根もでない。

 取り巻き女子は、ものすごい目で俺をニラむことしかできなかった。



「うっ!」


 これで解決した、そう思った矢先。一人の金級冒険者がうめき声を上げた。

 なにやら、血を吐いてバタリと倒れこむ。


 え!? なに? どうしたんだ?


 その背後には別の金級冒険者。血がベットリとついた剣を握りしめている。


 なんだこれ? どゆコト!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る