第5話 真実を入れてみた

「魔王だって!?」


 冒険者ギルドは騒然となった。

 ヒソヒソと会話する者、こちらを凝視する者、身構える者などさまざまだ。

 みな警戒しているのだろう。魔王とはそれほどの存在なのだ。


 魔王は人に仇名あだなすモンスターの頂点に君臨しており、よく人類に戦争をしかけていた。

 人類は多大な犠牲をだしながらも、これを何度も退けてきたらしい。


 だが、はっきり言って底辺冒険者の俺には関係なかった。

 エラい冒険者が駆り出されて、ギルドの依頼の競争率が下がってラッキーぐらいにしか思っていなかった。


「まさか、魔王が……」


 事態を深刻に見たっぽい冒険者が不安をあおってくれる。

 よかった。

 うん。ほんと、まさかだよね。

 魔王だって、まさか俺のせいに!? って思っているかもしれん。


「そんなハズないわ!」


 しかし、いい流れのところで取り巻き女子が口をはさんできた。


「魔王のしわざなワケがない!」

「そうだニャ」


 残りの取り巻きも、その意見に賛同している。

 たしかにその通りなんだけども。

 でも、なんでそんなことが言いきれるのさ。


「だって魔王はゆうとが封印したもの」


 え? そうなの?

 マジかよ。あの勇者、魔王を封印したのかよ。

 スゲーやつだったんだな。

 しかしまあ、だからなんだつー話だけどな。


「復讐だ! 魔王が復讐に現れたんだ!!」


 すかさず先手を打つ。

 こちらが疑われる前に畳みかけるのだ。


「そんなバ――」

「勇者がやられてしまった! おしまいだ!! 誰が魔王を倒すんだ!?」


 取り巻き女子がまだ何か言っていたが、大声でかぶせる。

 こういうものは声の大きい方が勝つのだ。


「ここは危険だ! 狙われている!! 逃げるんだ!」


 そう言って出口を指さすと、何人かがつられて冒険者ギルドから飛びだした。

 その姿を見てさらに数人、ギルドから逃げていく。


「逃げろ、逃げろ」


 そう言いながら、俺も冒険者ギルドから飛びだした。

 さらば、勇者よ。

 真実とともに穴の中で眠っていてくれ。




――――――




「これから封印を確認しに行く」


 逃げ切ったと思ったが甘かった。

 ギルドより緊急招集がかかり、ギルド所属の者は全員かりだされたのだ。

 俺もしぶしぶながらギルドマスターの話を聞いている。


 しかし、ムダな労力だよなあ。

 魔王とか復活してねえから。今もスヤスヤ眠ってるんじゃない?


 とはいえ、それを指摘できようはずもない。

 なるべく目立たないように後ろの方で、時間をつぶすよりほかはない。


「封印の場所は彼ら三人が知っている。それに同行する冒険者をギルドより五名選抜する」


 ギルドマスターは勇者の取り巻き女子を指さしてそう言った。

 五名選抜ね。順当にいくと金級冒険者が選ばれるだろう。俺は上がったとはいえ、まだ銀級だ。

 順番が回ってくることはなさそうだ。

 ほんとムダだよな。早く終わらねえかな~。


「リックにジェイにブラスディー……」


 金級冒険者の名前が順番に呼ばれていく。


 まったく、勇者も中途半端だよな~

 封印なんてメンドクサイことせず、スパっと倒してくれたらよかったのに。


「そして、あと一人」

「待って!」


 ギルドマスターの話に割ってはいってきたやつがいる。

 取り巻き女子だ。

 ゆーとーゆーとー言いながら、一番勇者にベタベタしていたやつだ。


「最後はあの人にして!」


 なんということでしょう。

 取り巻き女子はそう言って俺のことを指さしたのだ。

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