第4話 勇者を入れてみた

「ケッ、底辺が」


 吐き捨てた勇者の言葉が頭の中でこだまする。

 許せん!


 が、一瞬考える。

 腹が立ったぐらいで穴に落としてもいいものかと。

 やつは勇者だ。たしかにクソヤロウだが、難解な依頼も解決しまくっている。それで助かっている人がいるのも事実じゃないか。

 やつがいま持っていった依頼だって、普通の冒険者じゃ絶対に解決できな……。

 ――ヤバイ。俺が困るじゃねえか。


「てい!」


 勇者の足元に穴を出現させる。

 一番大切なのは、わが身なのだ。


「おわっ!」


 勇者は穴へと吸い込まれていった。


「え?」

「ニャ?」

「ご主人様!!」


 はっはっはー。さよ~なら~。

 しかし、なんということでしょう。勇者は空を飛び、穴から浮かび上がってきたのでした。


「誰かは知らねえが、ナメた真似を」

「ゆうと!」

「無事だニャ!」

「さすがご主人様!!」


 ヤバイ。

 穴、がんばれ!

 やつをもっと吸い込むんだ。


 俺の思いに答えたのだろう。穴は謎の吸引力で勇者を引きずりこもうとする。

 だが、勇者も負けてはいない。さらに強い力で空に浮く。

 やがて、穴と勇者の引っ張り合いになる。

 やるじゃねえか。

 この吸引力に対抗するとは。いや、むしろ勇者が優勢まである。


 だが、勇者よ。勝負はこれからだ。

 こちらには奥の手ならぬ青白い手があるのだ。


「う! なんだこれは!?」


 勇者の体に巨大な手が絡みついた。

 それは勇者の体を穴へと引き込もうとする。


「クソ! 離せ!!」


 いやだね。そのまま落っこちちまいな。

 さらにダメ押し! おててイッパイ!!


 青白い手は数を増す。

 それらは勇者の体をより強い力で穴へと引きずり込もうとするのだ。


 はっはっはー。さすがにもうムリだろ。


「がああああ、ウイングブレイド!!」


 ところが勇者がワケの分からない言葉を発しながら剣を振るうと、青白い手はバラバラに切り裂かれてしまった。


 え? マジ?

 あの手斬れるの?


 宙に浮いたままの勇者はこちらを見ると、ニヤリと笑う。


「オマエだな」


 ヒエ! ばれた。


「オマエタダで済むと思――」


 勇者はスポンと穴に消えていった。

 そうなのだ。やつの頭上にもう一個穴を開けてやったのだ。

 下に吸い込まれるのに抵抗して飛んでいたのだから、上に穴を開ければそりゃあものすごい勢いで上に吸い込まれるよね。


 さあ、勇者はあの穴からでてこられるのでしょうか?


「ゆうと!」

「ニャニャ!!」

「ご主人様! いや~」


 穴にむかって取り巻きどもが何やら叫んでいる。

 しばらく待ってみるも、勇者は帰ってこない。やっぱムリだったか。

 穴の中がどうなっているか分からないが、完全に吸い込まれたらたぶん脱出不可能なんだろう。


「ゆうと、ゆうと、ゆうと!」

「危ないニャ、それ以上近づいたらニナも吸い込まれるニャ」


「ご主人様は私が助ける!」

「ダメニャ! 中に入ったらおしまいニャ。それより外からどう助けるか考えるニャ」


 穴を開けたまま事の成り行きを見守っていたが、取り巻きどもは誰一人として穴に入ろうとはしなかった。

 とにかく入らなくていい理由を探しているみたいだった。


「そうか、術者を倒せばゆうとは助かるかも」


 え!?


「そうよ、そうに違いないわ。たしか、ゆうとはこっちの方角を見て……」


 なにやらひらめきやがった。

 ヤバイ! みなの視線が俺に集まる。

 これはなんとかしないと。


 なにかないか……頭をフル回転させる。

 そうだ! あれでいこう!!


 俺は声を張り上げる。


「魔王だ。魔王の仕業だ!!!」

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