第88話 隠せない気持ち ※一部香里奈視点
怒っている香里奈に僕は戸惑っていると、シズカが近寄ってきた。やっと僕達に気づいたのか、恥ずかしそうに顔を伏せている。
『今の見た?』
僕は顔を横に振る。はっきりと見ていたが、ここは首を横に振るべきだと脳内に警鐘が鳴っていた。
香里奈だけでもどうしたらいいのかわからないのに、シズカも怒ったら取り返しがつかない。
シズカに関しては香里奈と違い、物理的に勝てる自信もない。
『見てないの?』
僕は首を縦に振る。金棒を引きずって近づいてくる姿が、今まで出会った人物の中で一番怖い気がした。
まさにホラーゲームで追いかけてくるやつにそっくりだ。
『なんで見てないのよー!』
どうやら僕は選択肢を間違えたらしい。シズカは僕の服を掴むと上下左右に揺さぶってきた。
「うぉ……うおおおお!?」
いくら痩せたからって、高校男子を片手で持ち上げるとは思いもしなかった。どこから見ても女性には見えないだろう。
「シズカ、私の分もやって!」
『わかったわ!』
ここは妹として止めるはずが、まさか香里奈も乗ってくるとは思わなかった。止まることのない浮遊感に次第に吐き気が襲ってくる。
「ごっ……ごめん」
急いで謝るが時すでに遅かった。シズカに降ろされた僕は急いでトイレに駆け込む。
「おえええええ!」
狂いまくった三半規管に刺激されるが、食べてから時間が空いているため何も出ない。
僕はそのまま便器に抱きついた状態で吐き気が落ち着くまで座り込んだ。
♢
まさかあんな兄の姿を見るとは思いもしなかった。むっつりスケベだとは思っていたが、頭の中は女性の裸でいっぱいだ。
そもそもあの杏奈という、元幼馴染の存在が気に食わない。今になって兄の前に現れたかと思ったら、兄に"彼氏になれ"と言い出したのだ。
私が今まで言えなかった言葉を、あの人はすぐに言ってしまった。付き合えなくても、近くに居れるだけでも良いと思っていた。だけど、実際に目の当たりになると胸が裂けるかと思った。
『香里奈大丈夫? またやってこようか?』
そんな私をシズカは心配そうに覗き込んでくる。
「私……お兄ちゃんが好き」
誰にも伝えていなかった気持ちが溢れ出てしまう。
血が繋がっていない兄妹でも、そんなことを言ってしまったら気持ち悪いと思われるだろう。そんな気持ちがいつも私を止めていた。
シズカも驚いた顔で私を見ていた。
『なら私もライバルだね!』
「えっ!?」
シズカの言葉に私は息を詰まらせた。まさかこんな近くにライバルがいるとは思いもしなかった。
確かに兄のテイムされた魔物なら、それもあり得るだろう。だって、私でもテイムできなかった魔物を弱い兄がテイムできるわけがない。
『
シズカは必死に首に付いている、気持ち悪い首輪を外そうとしていた。
その姿にさっきまで不安定だった感情が、落ち着いてくる。
「シズカ!」
「グギャ?」
「私もシズカのこと大好き!」
私は手を広げてシズカに抱きついた。あの言葉は彼女なりの応援なんだろう。
あともう少しだけ。せめて高校を卒業するまでは、この気持ちを閉じ込めておこうと思った。
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