第89話 男子高校生は皆変態だ!
【デイリークエストをクリアしました】
僕の脳内では、クエスト終了の報告が流れてきた。同じパーティーとして認識されている香里奈か、テイムしているシズカがマッドドールを倒したのだろう。
吐き気が治まると、大事に抱きかかえていた便器から手を離して玄関に向かう。しっかり手と口を洗うのを忘れていない。
外に出ると周囲は水浸しになっていた。
「あっ、お兄ちゃん大丈夫だった?」
香里奈とシズカは家を出たすぐのところで待っていた。
「ちょっとした大雨が降っていたようだね」
僕の言葉に香里奈はビクッとしながらも、いつものように微笑んでいた。その目は少し赤くなっていた。
「えーっと――」
『私が水浴びをしてたら水が目に入ったのよ!』
シズカが金棒をシャワーのようにジェスチャーをしながら声をかけてきた。
その言葉に僕は驚いた。本当にあのヒロインと同じことをやっていたのだろうか。
もう少しタイミングが早ければ"タケルさんのエッチ"と言われていた。
それにしても水が目に入って、そこまで目が赤くなるのだろうか。
しかも香里奈の目に入ることはないはずだ。
「少し水属性魔法が暴走しちゃってね」
香里奈は水属性魔法を使って、マッドドールを一掃したらしい。確かに土の人形に、大量に水をかければすぐに倒せるだろう。
シズカはなぜか香里奈を庇うように言い訳をしていた。
僕のいない期間に何があったのだろうか。
それよりも気になっていることがあった。それは香里奈の服が水属性魔法で濡れて透けてしまっていたからだ。
僕は着ていた服を脱ぎ、香里奈に近づいた。正直言って、妹だとわかっていても白い服から透ける下着が、今日のことを思い出してしまう。
ただ単に服を着せて見えないようにするためだ。大事な妹のこの姿を他の人に見せるわけにもいかないしな。
「ちょっ、お兄ちゃん何する気!?」
「服が透けているから、これを着るといい」
「えっ……」
香里奈は視線を下に向けると、服が濡れて透けていることにやっと気付いたようだ。
「お兄ちゃんのエッチ!」
まさかシズカに言われるよりも、妹に言われる方が早かったとは思いもしなかった。
逆に言われると、僕の意識はさらに見てはいけなかったと思ってしまう。
『二人ともマッドドールが復活したよ』
どうやら僕の意識に反応して、再びマッドドールの大群が現れたのだ。
「本当にお兄ちゃんってエッチなんだから」
怒っているのか、呆れているのかわからない顔で僕の顔を見ていた。
年頃の高校生にでもなれば、頭の中はエッチなことでいっぱいだろう。ましてやまだ〇貞だ。ふと気がついた時にはそのことしか考えていない。
今日は杏奈の下着姿を見て、今は香里奈の見えそうで見えないチラリズムが目に入った。そんなのを間近で見たら、鮮明に記憶として残り脳内を駆け巡る。
「ちょ、お兄ちゃんマッドドールを増やさないでよ!」
どうやら本当に僕の頭と鏡の世界は連動していたようだ。
「すぐに着替えてくるから待ってて!」
香里奈は僕の服を強く握りしめると、少し嬉しそうに家の中に入って行った。
「グギャ!」
シズカは僕の顔を見ると、手で胸を隠していた。香里奈のスマホがないため、何を言っているのかはわからないが、きっとあの名言を言っているのだろう。
しばらく待っていると、香里奈は僕の服を着て戻ってきた。
「ジャーン! 似合う?」
手を広げてクルッと回っていた。
「お兄ちゃんの大きいから足りないね」
その言葉はエロ漫画に出てくる名言だ。ついこの間、隠れて買った電子コミックにも出ていた。
『おい、また敵を増やしてどうするつもりだ』
実際は袖に隠れた手を必死に出そうとしているだけだ。体格差があるため、上着だけで履いていたショートパンツが隠れてしまう。
これが彼シャツならぬ兄シャツだろうか。
庭から出た先には大量のマッドドールが優雅にランウェイで歩くようにポーズを取っている。明らかに今日の僕の頭はバグっているのだろう。
何かあった日に鏡の中に来るのはやめようと思った。
「ふふふ、本当にお兄ちゃんってムッツリスケベさんなんだから」
香里奈は武器のスマホを持って、マッドドールの中に飛び込んで行った。だが、否定しておかないといけない。
男子高校生は皆"変態"だ!
「おい、僕はムッツリスケベだけど高校生としては普通だ!」
上半身裸の僕も、香里奈を追いかけるようにマッドドールの大群に向かった。
『やっぱりあの二人って天然ね。わざわざ服を貸さないでも、家に帰ったなら自分の服に着替えてこればいいのに……』
戦っている僕達にはシズカの声は聞こえなかった。
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