第79話 戦闘狂はスーパーヒロインだった

 ビックホーンラビットの死体の上をゴロゴロと転がり華麗に着地する。だが、誰もそんな僕の姿を見ていない。


「あのー、お二人とも?」


「あっ、お兄ちゃんおかえり」


「グギャギャ!」


 香里奈とシズカは女子トークで盛り上がっていた。流石にその会話に入れない僕は一人でビックホーンラビットを探すことにした。


「ねぇ、お兄ちゃん? さっきあんなことあったのに一人でどこかに行く気?」


『ご主人様は馬鹿なんですか? 脳みそ詰まっているんですか?』


 女子トークをしていると思っていたが、どうやら僕を貶していたようだ。やはり女性二人に男一人では勝ち目がない。


 いつかゴブリンの男、シズオが仲間になることを夢見て頑張るしかない。


「お兄ちゃんって自分の世界に旅立つことが増えたよね」


『この世界に来た時からご主人様は少し変わり者でしたよ』


「変わり者ってところは否定しないけどさ」


 いい加減僕の話はここまでにして欲しい。いくら精神耐性の耐性スキルを手に入れても流石に辛くなってくる。


「そういえば、あいつの近くにいたら眠たくなったのはなんかあるのか?」


 ビックホーンラビットにもたれた瞬間、眠気が襲ってきたのはあの柔らかいボディのせいだと思っていた。実際におかしいぐらい眠気が強くなったのだ。


「たぶん睡眠の状態異常が付与されたんだと思うよ」


 状態異常とは麻痺とか毒のことを言っているのだろうか。確かにゲームでは敵に眠らされることはあったが、実際に眠らされると恐怖にしか感じない。


「あまり近づかないようにして倒すのがオススメかな。きっと壁に擬態していると思うから一度物を投げた方が良いかもしれないね」


 そう言って二人とも僕を見ていた。正確に言えば僕が持っている手裏剣だ。ただ、問題なのは投げてビックホーンラビットではなかった時だ。


 家の外壁に穴を開けたら住んでいる人にとっては大迷惑になる。


 それを感じ取った香里奈はスマホを取り出した。


「壁に向かって一度投げてもらってもいい?」


 僕は香里奈が言った通りに手裏剣を壁に向かって投げる。見事壁に刺さった手裏剣は大きな穴を開けていた。


「これ本当に大丈夫なのか?」


「私に任せて!」


 香里奈はスマホを操作すると、鏡の中に来た時に使ったスキルを起動させた。


 スキル:スマホ時計は現実世界と鏡の世界の時間を調整するスキルだったはず。


「このスキルって初めは物の時間経過を調整するスキルだったけど、巻き戻すこともできるんだ」


 どうやら物の時間調整もできるらしい。料理にも便利なスキルだろう。スキルを使うと穴が徐々に閉じていく。ここで疑問に思うのが、なぜ家の玄関はお金を使ってまで修復したのか。それが疑問に残った。


 香里奈に確認すると、なぜか我が家だけはスキルの対象にならないらしい。魔物が家の中に入ってこれない理由と関係があるのだろう。


「これでお兄ちゃんは自由に手裏剣が投げれるね」


 僕はビックホーンラビットを探すために手裏剣を投げ続けた。





 1時間ほどビックホーンラビットを探すと、やつらは基本的に壁になっているか、地面に擬態していることが多かった。


 地面にいる時も踏んだ瞬間に睡眠の状態異常がかかる仕組みになっていた。


 その中で一番活躍したのがシズカだ。


「ねぇ、僕必要ないよね? シズカだけでよかったよね?」


『ご主人様めんどくさいです』


「だって状態異常効かないじゃん」


 ビックホーンラビット達に出会う度に眠らされる僕とは違い、シズカは全く眠る様子がなかった。そのことを香里奈に聞くと、シズカは全ての状態異常に耐性があるスーパーヒロインだった。


 それならシズカが先頭で戦い、僕達が補助をすれば良いと思っていたがそうはいかなかった。


『私だって戦いたくて戦っているわけではないわよ』


 今まで楽しそうに金棒を振り回していたのに、今頃になってこの展開だ。どこから見ても戦闘狂にしか見えないシズカが無理やり戦っていた。


「今までのあの姿は――」


「だってシズカって潔癖症だもんね。魔物の血が付くのが嫌だから大きめの武器を持っているんだよ? 得意武器って確かに槍だもんね」


「グギャ!」


 どうやら目の前にいるシズカの入浴シーンも遠い未来ではなさそうだ。

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