第78話 となりのビッグホーンラビット
僕はあまりの心地良さに顔を押し付けて毛並みを楽しむ。自然と夢の中にいるのか、人をダメにするクッションに体が包まれているようだ。
体から力が抜けたタイミングで、勢いよく押し返される。弾かれた僕は少しずつ転がるように移動していく。
「ドゥオ、ドゥオ、ヴロロロー!」
突然の声に僕は閉じていた目を大きく開ける。あまりの衝撃に眠気も飛んでいく。
「トッ……ト○ロ?」
そこにはあの有名な映画に出てくる灰色の体が愛くるしいトト○がいた。お腹の上で寝ている僕は完全に主人公の気持ちだ。
「お兄ちゃんはどこからどう見てもメ○ちゃんにはなれないよ!」
『なれてもマックロク○ス○ぐらいよ!』
「えっ? シズカ知っているの?」
なぜか香里奈とシズカは二人で見つめ合っている。ト○ロに会えるなんてそんな機会は滅多にない。
だから僕はあのシーンを再現する。
「トト○! あなたト○ロって言うのね!」
僕としてはこれが出来ただけでも満足だ。どこか香里奈とシズカは呆れた目でこちらを見ていた。
やはりこれは名シーンだからな。主人公だけに……。
「くくく」
僕は一人で笑っていると、二人はどんどん冷ややかな目で見てくる。
「お兄ちゃん起きたなら早く降りてきてよ」
「はい、すみません」
お腹から降りようと、僕はそのまま転がりながら地面を目指した。だが、そうはいかない。
再び謎の眠気が襲ってきて、動けなくなってしまう。
「シズカもう一度やっちゃいなさい!」
『本当にいつまで寝れば気が済むのよ』
「ボオオォォン!」
大きな声でまた僕は目を覚ます。今度はト○ロのような鳴き声ではなく、しっかりと獣の鳴き声だ。
「お前ト○ロじゃなくて、ホーンラビットじゃないか!」
チラッと見えた額には大きな角と突き出た前歯。今にも噛みちぎろうと、歯がガシガシと音を立てている。
ビッグホーンラビットは、腹の上にいる僕を必死に食べようとお腹を凹ませては突き出してを繰り返す。
そうすることで少しずつ僕が転がっていくのだ。
それを阻止しようと必死にシズカが金棒でビッグホーンラビットのお尻を叩いている。
そう、敵の
さすがにト○ロみたいな声が出ても仕方ない。だが、夢を壊された僕も黙っていない。
僕はあのスキルを使うことにした。装備していればなんとなく魔力の繋がりを感じるのだ。
「戻ってこい!」
近くに落ちている手裏剣に向かって魔力を通す。それと同時にビッグホーンラビットに背を向ける。
「あとは逃げるだけ」
鈍い風切り音を上げて近づく手裏剣。僕は手裏剣を掴むことなく、足に力を入れて飛び込んだ。
「ブゥオオオオン!」
叫び声のバリエーションが多いことに驚きだ。手裏剣のスキル:回帰とスキル:逃走を使った新しい攻撃手段は見事に成功した。
手裏剣はビッグホーンラビットのお腹に刺さっており、何かに刺されば勝手に止まる仕組みになっている。
敵が背後にいると認識すれば、スキル:逃走を使うことで瞬時に動き出しができ、あとは向かってくる直前に避ければ良いだけだ。
それを何度も繰り返すと、ビッグホーンラビットは痙攣して動かなくなった。
新しい戦い方に僕は強くなった気がした。実際に逃げているだけだが、不意をつくには良いだろう。
そんな僕を香里奈とシズカが見ていた。
『ご主人様は本当に人間ですか?』
「いや、私はシズカが本当にゴブリンなのか気になっているよ?」
『私は正真正銘のゴブリンです』
二人は何かを話していたが、僕には"グキャ!"としか聞こえなかった。
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