第65話 あれ? どこにあるんだ?

 香里奈を抱えながら急いで自宅に戻る。それまでに何度もイーヴィルアイの精神干渉系魔法に誘惑されるが、それでも香里奈が大事だという気持ちは変わらない。


 そして、何度も出てくる優樹菜にうんざりしている。正直言ってあいつのことは苦手だ。


 あれだけ僕に文句を言っていたのに、今はベタベタとくっついてくる。


 玄関の扉を開けると香里奈を急いでベッドに寝かせる。ついでに薬草を口に詰めると気持ち悪そうな顔をしていた。


 クエスト討伐数のイーヴィルアイを倒しに行くために、再び向かおうとすると香里奈に手を掴まれた。


「お兄ちゃんいかないで」


 意識が戻ってきているのかと思ったが、香里奈の目は閉じていた。きっと無意識に一人になるのを嫌がっているのだろう。


「すぐに戻ってくるから大丈夫」


 優しく頭を撫でると力は抜け、再び眠りについた。


 僕は玄関の扉を開けると、今度はシズカがイーヴィルアイに囲まれていた。


「大丈夫……そうだな」


 中央にいるシズカはなぜか笑っていた。きっと彼は嫌なことでも楽しめる性格なんだろう。


 僕に気づいたのか、金棒を大きく振り回すとイーヴィルアイは一瞬で飛んでいく。


「ナイスショット!」


「グギャ!」


 シズカはこっちを見てニヤリと笑っていた。


【デイリークエストをクリアしました】


 頭に響くデジタル音がクエスト終了を知らせる。ほとんどシズカだけでクエストをクリアしていた。


 それでもシズカはまだ遊び足りないのか、自らイーヴィルアイの集団に突っ込んで行った。


 スキルや職業に戦闘狂や狂戦士バーサーカーを持っていてもおかしくない。何度も思ったが一番戦いたくない相手はシズカだ。


 その後もシズカが飽きるまで安全圏から、新しい武器の手裏剣の練習をしていた。やはり魔力が上手く扱えないため、手裏剣は戻ってくることはなかった。


――ガチャ!


 玄関から音がすると思ったら、香里奈が目を覚まして出てきた。


 今玄関から近いのは僕ではなくシズカだった。


 香里奈は突然現れたシズカに驚いた表情をしている。シズカは金棒を担ぎ、香里奈の元へ走っていく。やはりあいつは戦闘狂で間違いないだろう。


 必死に走るが後ろに敵がいないため、スキル:逃走は発動しない。


 ひょっとしたらシズカは香里奈に戦いを挑むかもしれない。僕の頭の中ではその可能性がよぎっていた。だが、結果は違った。


「リンコ久しぶり!」


「グギャグギャ!」


 香里奈とシズカはお互いに抱きつきながら、キャキャとはしゃいでいた。


 ああやって見るとシズカもどこか女の子に見えてくる。


 僕は遅れて香里奈に近づくと、僕の存在に気づいた。


「なんでお兄ちゃんがいるの!?」


「いや、それはこっちのセリフだよ。それにリンコって……」


「私の一番の親友で戦友のリンコちゃん・・・だよ!」


「リンコちゃん? そいつ男だぞ?」


 香里奈とシズカは声を出して笑っていた。どこから見てもシズカは男だ。エプロンの下にも胸はない。


「何を言っているの? リンコちゃんは立派な女性だよ」


 シズカは僕の手を取ると、自身の股間に手を触れさせる。どうやらシズカは本当に入浴シーンを再現できる女性だったようだ。

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