第22話 特殊なゴブリン

 全力で横断歩道を渡る僕。後ろからゴブリン達が追いかけて来ていた。タイミングはちょうど合っているだろう。


「きっと歩行者はいる」


 ぶつかったりはしないが、小さく僕とゴブリンの足音ではない靴の音も聞こえる。


 横断歩道を渡る前に、青信号から赤信号に切り替わるタイミングで信号が点滅していないことに気づいた。


 普通であれば早く渡り切るために、青信号が点滅するはずだ。


 そして今現在、赤信号で点滅する信号機。


 周りから聞こえる足音もどこか早くなった気がした。きっと信号が赤になるため、走っているのだろう。


――ドン!


 横断歩道を渡り終えた時に聞こえたのは衝突した音だった。車の運転手には申し訳ないが、これでゴブリンを全て倒したはずだ。


 僕が振り返るとそこにはニヤリと笑うゴブリンがいた。


「生き残っていたやつがいたのか!」


 一部のゴブリンは交通事故に巻き込まれたが、1体は生き残っていた。


 交通事故作戦はもう使えない。現実世界では、きっと謎の交通事故の後処理で道路が封鎖されてしまう。それを踏まえると、あとは逃げ切って他のゴブリンを倒せばいいだけだ。


 僕は足を動かし再び走り出した。最近はダイエットで走っていたため、まだ少しは体力が残っている。


 以前は体調と体の問題で走れなかったが、走るのってこんなに気持ちが良いものだとは知らなかった。


 ただ、ゴブリンに追いかけられていなければ楽しかっただろう。


 前回と同様に歩道橋に向かう。家の周りにいるゴブリンを倒して、そのまま家の中に入る予定だ。


 視界の端に映るカウントダウンは残り十分程度。


 歩道橋に着くと急いで駆け上がる。今まで階段を一気に登ったことがなかった僕は途中で足がパンパンになってしまう。


「足が限界に――」


 一度足を止めると、階段下にいたゴブリンは再びニヤリと笑った。何か嫌な予感がする。


 あのゴブリンだけ他の個体とは異なり、僕の動きを読んでいるような気がした。それでも今は走るしかない。僕は再び足を動かす。


「ギヒヒ!」


 ゴブリンの笑い声が聞こえたと思った瞬間、大きく飛び上がり僕の目の前に突然ゴブリンが現れた。


「えっ?」


 咄嗟に振り返るが後ろにはゴブリンはいなかった。目の前にいるゴブリンは歩道橋の下から階段を勢いよく駆け上がり、僕の頭の上を飛び越えて目の前に来たのだ。


「どんな脚力なんだよ!」


「ギヒヒ!」


 ゴブリンは嬉しそうにニタニタとしていた。それでもこの目の前のゴブリンを倒さないと僕は家に帰れない。


 ゴブリンの心臓の位置は把握している。あとはそこを目掛けてトングを突き刺すだけだ。


 僕にできるのはこれしかない。


 ホーンラビットのトングを構えて勢いよく走る。


「いけー!」


 ゴブリンはニヤリと笑っていた。動きを予想していたのだろう。ゴブリンは横に動き、あっさりと僕の一突きを避ける。


 それでよかったのだ。受け止められたら僕の計画は狂ってしまう。


 僕は姿勢を崩しながらも、そのまま再び走り出した。


「グギッ!?」


 ゴブリンはさっきまで自分を殺しに来たと思っていた相手が、実際は背を向けた状態で走り出したから驚いているのだろう。


 あのゴブリンが何かしらの能力で、本当に僕の考えを読んでいると予想した。それなら、ゴブリンを倒すつもりでぶつかったらどういう反応をするのだろうか。


 そう思った僕はゴブリンを倒すことだけを考えた。それが僕の思いついた作戦だ。


 名付けて"殺すと見せかけて全力疾走したら相手はどう思うのだろう作戦"だ。


 ゴブリンは一度動きが止まると、足をバタバタとして地面を蹴っていた。ゴブリンは怒っていた。


 動けないなら頭を使えばいい。


 昔から運動ができなかった僕にできたのは、誰よりも考えることだ。実際に考えて学校の成績も上の下にとどめて、目立たないように生きてきた。


 あとは家まで走ってゴブリンを倒すだけだ。


 歩道橋の階段を急いで降り、家に向かって突き当たりを曲がる。


 その瞬間手に違和感を感じた。


「あっ……」


【クリティカルヒットしました!】


 曲がった先にはゴブリンが立っており、そのままホーンラビットのトングはゴブリンの頭に刺さっていた。

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