第21話 命懸けの選択
玄関の扉をゆっくりと開けた先にはゴブリンが一体だけ歩いていた。きっと窓際にいたゴブリンだろう。
僕はゆっくりと背後から近づく。ゴブリンは気づかないのか、背を向けたまま歩いていた。
今なら倒せると思った僕は、背後からホーンラビットのトングで背中から突き刺す。今はしっかり目が見えているため、ゴブリンの左側の胸に向かって押し込むように倒れた。
第三肋骨と第四肋骨の間に10cm近くナイフが刺されば心臓に到達すると調べた時には書いてあった。
ホーンラビットのトングの先は10cmあるかどうかわからないほどだ。だから体重をかけて思いっきり倒れれば、僕の体重で小柄なゴブリンを押し倒せると思った。
【クリティカルヒットしました!】
脳内に響くデジタル音が僕の心をざわつかせる。クリティカルヒットってあの大ダメージを与えるクリティカル判定のことだろう。
わずかに息をしているゴブリンからトングを抜き、再び同じところに向けてトングを刺しこむ。
【クリティカルヒットしました!】
再び聞こえるデジタル音に胸が高鳴る。足の間には血を流して倒れたゴブリン。きっと心臓を突き刺したことでクリティカルヒット判定になったのだろう。
ついに自分の力でゴブリンを倒した。
「僕は強く――」
だが、ゴブリンを倒して油断していたのが間違いだった。近づいてきたゴブリンに気づかず、肩にゴブリンの重い一撃を受けた。
きっと今の攻撃で肩が外れたのだろう。痛みで視界がチカチカと光が点滅している。
僕は急いでポケットから薬草を取り出し丸めて飲み込む。同時に肩を元の場所に戻すように内側へ押さえつける。
目の前にいるゴブリンは夜とは違い、僕の居場所がわからないのか辺りをキョロキョロとしていた。
痛みに息を堪えて、必死にただ耐える。今声を出したらそれに反応して追いかけてくるだろう。
次第に肩と顔の痛みは治まってくる。前回も同様に薬草を飲んだ後に顔が痛かったのと、現実世界で肌が綺麗になったのは関係しているのだろうか。
ゆっくりと立ち上がると、やはりゴブリンは音に反応して走ってきた。きっと夜は目が見えているが、明るくなると視界が悪くなるのだろう。
見つかってしまえば僕が勝てる自信はない。それをさっきのゴブリンの一撃ですぐに理解した。
今は逃げるしかない。僕はあの広い道路に向かって全力で走った。
♢
道路に着いた時には視界のカウントダウンは二十分を切っていた。後ろから追いかけてくるゴブリン達。今の時点で後ろには4体いる。
そのまま横断歩道に向かって走ろうとするが、僕の足は立ち止まった。本当に渡ってしまってもいいのだろうかと頭をよぎる。
横断歩道の信号機の色は今は青色だ。だが、どこか胸騒ぎがする。
「今は本当に青で合っているのか?」
鏡の中と現実世界はリンクしていた。選択を間違ってしまえば僕は轢かれて死んでしまうだろう。
ふと家の中での出来事を思い出す。家にある時計は時間の進み方が反転していたが、外の明るさは関係がなかった。
ゆっくりと僕を探しながら近づいてくるゴブリン達。
その時、信号機が青から赤に変わる。
走るのは今だ!
「お前ら早く来ないと逃げられ――ゴホッゴホッ!」
僕はあえて分かりやすく反応しやすいように大声を出した。久しぶりに大きな声を出したからか、咳き込んでしまった。
だが、ゴブリン達は見事に反応した。
立ち止まったことで僕を見失っていたゴブリンは、僕の存在に気づき走ってきた。
僕は勢いよく赤信号を渡った。
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