第6話 見えない壁
部屋に引きこもり始めて5日間が経過した。
引きこもりって言っても日中家族がいない時間帯に鏡の世界に入り込んではダイエットをしている。
鏡の中は現実世界の時間帯と同じだと思っていたが、あれから向こうの世界に行くたびに暗く深夜のようだった。
大きな変化は称号"ホーンラビットの敵対者"を手に入れてから、ホーンラビットを簡単に倒せるようになってきた。
クエスト内容は倒す個体数と制限時間に変化があるだけで、特に中身自体に変化はない。ただ、デイリークエストよりも多めに倒すと稀に特別報酬をもらえることがあった。
そのため多くのホーンラビットを倒していると称号名が変化した。
ちなみにステータスと体は大きく変化している。
――――――――――――――――――――
《ユーザー》
[名前]
[種族] 人間/男/童貞
[年齢] 17歳
[身長] 161cm
[体重] 68kg
[
《ステータス》
駒田 健 Lv.7
[能力値] ポイント0
[固有スキル] キャラクタークリエイト
[スキル] なし
[称号] ホーンラビットの殺戮者
――――――――――――――――――――
身長と体重はステータスに比例していると思っていたが、変化する時としない時があり、その関係性は謎に包まれている。だが、明らかに体重が-10kg減ったことは僕の中で大きな変化となった。
止まっていた身長も160cm台になれば、少しは自信がつく。
他の項目にポイントを振ってみたら、変わるかもしれないが、まだ使う機会がない僕の息子はひとまず保留でいいだろう。そして、今日も僕は玄関の前で制服を着て立ち止まっていた。
自信がつけば変わると思っていたが、現実は違っていた。
「今日も無理か……」
靴を履いて玄関に立つ僕の足は思うように動かず、鉛のように重い。まるで地面と一体化しているような気分だ。
あれから外に出ることも辛く、時折嘲笑う声が聞こえて来るような気がする。
実際に聞こえてはいないが、精神的に追い詰められているのだと僕は感じていた。
「お兄ちゃん?」
そんな僕を心配そうに妹の香里奈は近くで見ていた。
「あっ、今から学校だね」
僕は部屋に戻るために靴を脱いだ。
すでに時計を見ると10時を過ぎていた。
こんな時間まで妹が学校に行っていないとは思ってもいなかった。
「今日は卒業式の準備で学校がない日だよ」
中学三年生の香里奈は明日が卒業式で今日は休みらしい。
きっと今後控えている再試験に向けて勉強をしていたのだろう。
僕が住んでいるところでは高校受験の一般は3月上旬に試験があるが、香里奈は希望校を落ちてしまったらしい。
諦めていたところ、まさかの再募集がありその枠を狙って勉強していたらしい。
「あっ、そうだ! 勉強の息抜きに私とデートしない?」
「デデデデーット!?」
突然の妹の言葉に僕はあたふたとしてしまった。
今までデートというものをしたことはないし、どうしたらいいのかもわからない。
「こんなに可愛い妹とデートできるなんて光栄なことだよ? さぁ、このまま行くよ!」
どうやら元々外に出る予定があり、その予定のために玄関に来たらしい。
玄関で立ち止まっている僕を引っ張るように妹は自宅から連れ出した。
鏡の世界が静かだったからだろうか。
あれだけ鏡の世界でしか出られなかった家の外は 話し声や鳩の鳴き声で賑わっている。
そんなごく当たり前だった日常がどこか新鮮な感じがした。
そして、ちょっとだけ強引な香里奈の優しさに僕の心は少し暖かさを感じる。
「ありがとね」
知らない間に出たのは、香里奈に対する感謝の気持ちだった。
小さく呟いた声に香里奈は振り返った。どうやら聞こえていたようだ。
「さぁ、お兄ちゃんには何を買ってもらおうかな?」
その笑顔はいつもの満面な笑みだ。やはり香里奈は昔から変わらない甘え上手の妹だった。
香里奈は僕の腕を組むと再び歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます