8. 華毒

帽子を被るあなたの顔に影がおち

ふと挨拶をされたとき

恋愛という神話の一端を垣間見て

健康を知ればまた病気も知られるように

あなたを知ればその不在を感じるほかないので

もとより欠けていたのかはともかく

日々会わないときの心細さはさながら

己の欠落を指でなぞるよう


愛神というものは

あなたの涙にいったい何を混ぜたのでしょう

恐るべき毒薬の一滴は

形なき私を欠かしたのですから


動かさずして鼓動を速める唯一の人よ

日常を飛ぶひとりの男を射貫き

底なしの幽谷を下らせて

放ったそれなど気にも留めず

崖の上で歌うとは何事ですか


すべてを掌中にしながら

気づきもしない恋神の愛娘

風圧で眠れるというのなら夢をみて


その胸に抱かれ

あつい春に純白の花園から立ち上るように

素肌を重ねて祈り

桜色の口の中

四季混淆の華々しい色情に

舞い踊り

四肢溶け悲喜去り……

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