2. 素描

星の湖に眠る蟹は

わたくしの手に揺り起こされて

矢のような風を受けつつ

寒空を藻掻きました


脚々から零れ落ちるものは

如何せん月夜でしたから

わたくしたち以外には

すい星と見えています


湖水の落ちる音

(りんりんと)

夜世界の水琴窟

(星空に響き渡る)


静かに水底に戻してやると

一夜の波乱はとうに忘れて

岩に寄り添い草を抱き

変わらず星々に愛されているようです


このようにして

わたくしの手には

星と湖と蟹という

一つの素描が残ります


目をつむるたびに

(思い出して)

筆をとるたびに

(色をたして)


どうしようもなく素っ気ない

鏡のような美学について

お空に上がることはなくとも

勇者のように覚えていたいものです

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