第60話 応接室


応接室で睨み合う今回の加害者釣川歩と被害者澤木圭介。


澤木両親は「わーわー」文句を言ってるし収集がつかない。


この場を取り仕切っている会長は、お互い譲らない物言いにどう対処しようか思考を巡らせてるはずだ。


会長をみたら………


魂抜けた感じになってるし、まるで考えてないわ、うん。


………


職員室では


「校長先生、接客中ですって。お嬢様」


「困りましたなぁ、早くしないと間に合いまへん」


「まだ、午前11時ですよ。ここからなら秋葉原まで30分もあれば着きますよ」


「皐月はん、3時間前には行って並んでないと限定品は手にはいりまへんよ!お母様からの手紙を直接校長先生に渡せ、という約束ごとがなければさっさと誰かに渡して行けますのに」


神代院京香は、己の目的の為に焦っていた。


………


応接室では


これって、釣川さんが謝ればどうにか落ち着くと思うんだけど、本人的にはファンである柚子がバカにされた事で未だその怒りは納まっていない。


そうか、柚子本人から言ってもらえば落ち着くか?


俺は早速柚子にメッセージを入れた。休み時間まであと5分、それまで耐えればこの空間から出られる。


………


職員室では


「お嬢様、校長先生は応接室にいるようです。どうしますか?突貫しますか?」


「皐月はん、もう5分ほど待ちまひょ。終わるかも知れへんし」


「わかりました」


………


そして、5分後


「全く、何のつもりだ!たくみのやつは……」


せっかくの休み時間に呼び出された霧坂柚子は、ぶつぶつ言いながら校長室の隣にある応接室の前まで行くと、ドアの前でウロウロしている見慣れない学生服を着た二人の女子がいた。


困ってる風なので声をかけてみた。


「何かお困りですか…………お、お前は神代院京香!」


「あなたは、霧坂家の蔵敷はんの護衛の……」


お互いパーティーなどで顔を合わせたことはある。

最近では、車を横付けされていきなりたくみの許嫁と言って帰って行ったわけのわからない女だ。


「ここで何をしてる?」


「あら、そちらこそ何かここに御用で?」


「私が先に質問しているのだ」


「うちの用事を貴女にとやかく言う必要はあらしまへんわ」


「「ぐぬぬぬぬ」」


……………


応接室では


「柚子、何やってんだ。早く来いよ」


思わず声を出してしまった。


「会長、収集が付きません。とにかく何とか纏めないと」


「拓海君、今日のお昼はカツカレーがいいと思うんだ。ここの学園の食堂は美味しいんだよ。拓海君は食べたことあるかい?」


現実逃避してやがる……


目の前では、物凄い言い合いをしている。


「私の推しの霧坂柚子様は空手の有段者です。お前のようなチンケな小男などけちょんけちょんにしてやるんだから」


「貴様こそ、僕の家は神代院家の縁の家だ。お前のような一般庶民では想像もつかない権力を持っているんだぞ。僕が頼めば二つ返事でお前の家を潰してやる」


その時、応接室のドアがバタンと開いた。


「うちは権力を振りかざすのは好きではありまへん。誰ですか、そのような事を言うてはるのは!」


「私の空手道は、無闇にふるうものではない。誰だ、私を使って相手を懲らしめると言ったのは!」


あんなに騒がしかった応接室が富士の樹海に迷い込んだみたいに静かになった。


「貴女は神代院京香様。どうしてここに?」


「ああ、憧れの霧坂柚子様ーー!助けに来てくれたのですね」


「「へ!?これどんな状況(どすか)?」」


俺が聞きたいわ!!





あれから、事情を説明して柚子が暴力はいけないと釣川さんに説明をして謝らせた。そのあと、柚子が「庇ってくれてありがとう」と釣川さんに言ったもんだから釣川さんは感極まって泣いて喜んでいた。


一方、澤木家の方だが、突然現れた本家の中の本家である神代院京香の登場で、何も言えなくなり釣川さんが一応謝罪したので丸く納めてスタスタと帰って行った。


そして、謎の登場の神代院京香は、校長に手紙を渡して「蔵敷はん、うち急いでますからまた今度」と、言って颯爽と帰って行った。


「何だったんでしょうね?」


会長に尋ねてみたが、


「そうだね。タバスコいっぱいかけたナポリタンもいいかもしれない」


まだ、現実逃避していた。


大丈夫か?





那須近郊の別荘地帯にある家を、パトカーから降りて来た二人の警官が応援が駆けつけて来るまで待機していた。


「近所の住民が見たっていう青年は、まだ居るでしょうか?」


「分からん。だが、見かけたら絶対に応援を要請しろと言われている。それまで、俺達はここで待機だ」


「発砲許可まで降りてるって、どうなってるんですかね?」


「連続強盗事件の犯人だ。殺してでもこれ以上被害を出すなって意味だろう?」


パトカーの中で待機する二人の眼はその青年が入って行ったという家を見ている。


その家は、近所の人が言うには東京の人が所有する別荘らしいが、今現在その人は老齢になってしまった為、施設に入っているそうだ。


「売却の依頼を受けた不動産業者の人かもしれませんよ」


「それなら、それでいい。だが、油断はするな。実弾を確認してあるな」


「はい、実装してます」


すると、パトカーがいきなり宙に舞った。

その側には青年のような人影がある。


その高さは二階建ての住宅をゆうに超えていた。

パトカーは一回転半して舗装道路に落ちて激しい音を立てた。

中に乗っていた警官二人はどうなったのかわからない状態だ。


「はあ、つまんね〜。もっと骨のある奴いねえのかよ」


そんな言葉を残して、人影は消え去った。





「疲れた……」


「そう言わず食べたまえ。ここのカツカレーは本当に美味しいんだ」


お弁当があるので、と何度も断ったのだが、会長に食堂に連れて行かれ今カツカレーをご馳走になっている。


「会長はナポリタンなんですね」


「何故かタバスコをいっぱいかけたい気分なんだ」


カツカレーを頬張ってぱくぱく食べる。

確かにカツは衣がサクッとしてて美味しいし、カレーもスパイスが効いてて美味しい。


「拓海君、カツカレーを考えた人は天才だと思わないか?一度に二度も別の種類の美味しさを味わえるんだよ」


「会長はナポリタンですけどね」


『ゲホン、ゲホン!』


会長はナポリタンを食べてむせてしまった。


タバスコかけすぎだよ!


「拓海君、ティッシュを持ってないか?」


何だろう?介護してる気分になってくる。


「ありますよ………はい」


ポケットからティッシュを取り出して会長に渡した。


「ありがとう、タバスコはほどほどが良いね」


「ええ、そうだと思いますよ」


「拓海君には世話になったよ」


「いいえ、どういたしまして。でも、今回上手くまとまって良かったですね?」


「ああ、それなのだがどう解決に至ったのかはっきり覚えてないんだ。それに僕は幻覚が見えるようになったかもしれない。あの場所に神代院の京香さんが来てた気がするんだ」


「それ幻覚じゃなくて、実際来てましたよ。何しに来たのか謎ですけど」


「拓海君は優しいね。こんな僕に付き合ってくれるなんて。今から行けば清水先生に見てもらえるかな?薬を飲めばきっと良くなると思うんだ」


この人、ストレスに弱いのかも……


「会長は病院に行く必要はないですよ。見たものは全て実際に起きた事ですから」


「そうなのかい?拓海君が言うなら、病院に行くのは今度にするよ」


会長、壊れちゃったのかな?


「それと、今回は仕方ないですけど、俺は生徒会役員ではないですからね。今度は正当な役員達と一緒に解決して下さいね」


「何だろう?拓海君が僕を突き放そうとしている感じがする。もしかして、これは夢かな?」


「会長、訂正があります」


「何だい?」


「さっさと医者に行ってこい!」


俺は食べ終わったカツカレーのトレーを持って食器置き場まで運び、そのまま会長を放っておいて食堂から出ていくのだった。


「拓海くーーん、COME BACK!」


何か聞こえたけど、きっと幻聴だろう。



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