第61話 休息


一日棒に振ってしまった学校での帰り道、疲れたので一人になりたいけどいつもの女子3人と一緒だ。


「拓海君、なんかお疲れだね」


「生徒会長に付き合わされて、少しね」


渚の話しかけられても良い返答ができなかった。

回復をこっそり使ったけど、体の疲れと精神の疲れは別物だ。

ストレスがない状態でゆっくり休まないと回復しない。


「あの状況なら仕方がないだろう」


「えっ、どういうこと?」


柚子はそう言ってみんなから質問攻めにあい、ことの成り行きを俺の代わりに話してくれた。


「たっくん、もしかして一人になりたい?」


そんな話を聞いてアンジェはそう言ってくれた。

さすがアンジェ、よくわかってる。


「できればそうしたい。でも、みんなのことがわずらわしいとか、嫌いとかではないから誤解しないでほしい」


「そうか……」


護衛として俺を一人にさせるのはいけない事だとわかっているのだろう。

柚子は少し考えている。


「わかった。何かあったらすぐに連絡を入れろ。それが条件だ」


柚子にしては破格の条件だ。


「すまん、俺のわがままで」


「誰だって一人になりたい時はあるよ」


「渚もありがとう」


「じゃあ、たっくん、私達先に帰るね」


こうして俺は久し振りに一人になれた。


俺は来た道を引き返して学校に戻る。

俺には他にも監視の目があるから、学校なら転移も使える。

旧校舎の空き教室に行き、行き先を決めて転移を発動した。


一瞬にして景色が変わり、川のせせらぎと虫の声が聞こえて来た。


「ここに来るのは3度目だな」


竜宮寺家の裏山にある釣りの穴場だ。

ここなら、静かだし滅多に誰か来ることもない。


岩に腰掛けて川面を眺める。

時たま魚が跳ねて水飛沫が舞う。


「こういうのって森林浴って言うんだっけ」


自然の音と空気が心を落ち着かせてくれる。

都会の人にとっては贅沢な空間だ。


その時、スマホが震えた。


会長からメッセージが来たようだ。

今日のお礼が書かれていたので、返信してスマホの電源を切る。


「会長に感謝しなくては」


スマホには現在位置がわかる機能がある。

スマホを切らなければ、一瞬でここに来た説明をしなくてはならない。


「説明できないよ」


自分でも普通じゃないと思っているのに、これ以上能力が増えた事を知られたら本当に化け物扱いされてしまう。


きっと、みんなは俺をそういう風に見ることはないだろうと思っている。

だけど、幼い頃に親に売られた記憶があるので不安感があり正直に話せない。


「怖いんだろうな……」


優しくしてくれた人達に裏切られたり罵られたりする事がなによりも怖いんだ。


「心が強くなる精神強化みたいな能力がないかな。あったら是非ともほしい」


みんなは心がすり減った時どうしてるのだろう?


世に中にはブラック企業に就職して残業手当も出ずに、休みなく働いている人もいるという。

上司のパワハラは日常茶飯事。

そんな中でも挫けないで働けるって凄すぎる。


きっと、精神が強いのだろう。

それに比べれば俺はなんて弱いのだろう。


過去のこともそうだが、今日起きた出来事でさえ心が疲れてしまっている。


そんな事を考えながら2時間ほどこの場所にいた。

その時、昼食時に食べなかったお弁当を食べた。





「うむ、今日は天狗が現れるかもしれんぞ」


霧坂修造は、竜宮寺家の本宅にて次女の明日香の勉強をみていた。


「天狗って、この前お山を飛んでたあれ?」


「ああ、わしの頭の中にあるセンサーが天狗が来とると言っとる」


あらゆる武術を収めた霧坂修造はただのエロじじいではない。

拓海が転移して裏山に来た気配を感じている。

それが拓海だとは気づいていないが……


「天狗さん見たい」


「わしも見たいのう。少し休憩して縁側で空でも眺めるか?」


「うん、天狗さん、今日も飛び回っていればいいなあ」


二人して縁側でお茶を飲みながらしばらく空を見上げていた。

だが、その日は天狗が空を飛ぶことはなかった。





『午後7時のニュースです。連続強盗殺人犯が逃亡しています。現在那須地域に潜伏している可能性があります。付近の住民の方は不審な人物を見かけたら警察までご連絡下さい。そして、犯人の足取りですが……』


「まだ、犯人捕まらないの?」


「そうね。警察の人達も頑張ってるからもう少ししたら捕まると思うよ」


「渚、陽菜、ご飯できたわよ」


「「は〜〜い」」


結城家では、今日も手の込んだ夕食がテーブルに並んでいた。


「美味しそうだね」


「最近のお母さんの料理は料亭の料理みたいでとっても美味しいよ」


「ふふ、二人ともありがとう。坂井さんからいろいろ教わったりしてるからそう思うのかもしれないわね」


お母さんはこのところイキイキしている。

仕事も楓さんと一緒にするようになって楽しそうだ。

そして、通信講座で司法書士の勉強もし始めた。


楓さんの仕事も順調らしく、二人だけでは忙しいくらいだと言っている。

もしかしたら、誰か雇うかもしれないと言っていた。


「私も何か資格取ろうかな?」


「そうね。どこかの企業に就職するのも良いけど、それも良いわね。拓海くんのところに永久就職する手もあるわよ」


お母さんはたまに拓海くんとの関係を匂わせる発言をする。

確かにそうなったら良いけど、今の何もない私に拓海君が振り向いてくれるとは思えない。


「今の私になんか無理だよ」


「今はね、でも将来はどうなるかわからないでしょう?」


「私も拓海お兄ちゃんなら良いよ。お姉ちゃんがダメなら私が頑張る」


「陽菜にはまだ早いよ」


「そんなことないもん」


「拓海君はモテるわね〜〜それにライバルも多そうだし、うかうかしてたら誰かに取られちゃうわよ」


確かに、拓海君の周りには素敵な女性が多い。

みんな綺麗で優秀だし……


「うう、自信無くなっちゃったあ」


「渚はそのままで大丈夫よ。周りと比べても良いことないわ。自分の気持ちに素直になって今できる事を頑張りなさい」


「じゃあ、お姉ちゃんはまず期末テストだね」


「陽菜、嫌な事を思い出させないでよーー」


拓海君ってどんな子が好きなんだろう?

もしかして、陽菜みたいな小さな子が好きとか?

そう言えば陽菜や竜宮寺明日香ちゃんに接する時の拓海君ってなんか優しさが溢れてる感じがする。


もしかして、ロリコン!?


テストのことより、拓海君のことで頭がいっぱいだった。





翌朝、朝の中走っている。

神社の前にたどり着いた。


人は迷った時や心の平穏を求めるときに神々の力を借りることがある。


「今日はお賽銭を3万円用意した。これだけ備えればきっと良い事があるはずだ」


この前は、1万円だったがもしかして少なかったからあのような答えが帰って来たのではないかと考えた

神様のお墨付きをもらえれば、きっとこの先平穏に生きられる。


相場をスマホで調べたら、賽銭に決まった金額はないらしい。


殆どの人がコインを入れるようだが、神社で祈祷してもらうと3000円から1万円からという金額が当たり前らしい。

3万円払えばきっと良い事が起こるはずだ。

 

境内に入りお宮の前に行く。

今日は若い神主さんは見当たらない。


3万円を畳んでお賽銭箱の中に入れて、お参りした。


「今日は、3万円入れたので是非とも穏やかに過ごせますように」


すると、前回同様声が聞こえてきた。


『無理』


「ああ、3万円ではダメなのか!」


『金額の問題ではない』


「じゃあ、どうして?」


『お主には近々厄災と女難がふりかかる。心せよ』


「待って、厄災と女難?何が起きるんですか?」


『お主に幸あらんことを……』


その後は、何を尋ねても何も聞こえなかった。


「何だよ!3万返せよ!」


近々起きる厄災ってなんだよー。

せめて、何が起きるとか内容ぐらい教えてくれてもいいじゃんか!


それに加えて女難って何?


もう、お参りに来るもんか!


その後、家まで走って帰った。





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