第59話 会員
「〜〜というわけなんだ」
帰宅途中、生徒会長から聞かされた話をみんなに伝えている。
三人寄れば文殊の知恵と言うらしいし。
「放っておけばいいと思うよ。どうせなるようにしかならないから」
アンジェの言葉には奥が深いのか?適当なのか?わからない。
「そんな問題が起きてたんだね。外部生だの、内部生だの分け隔てても意味はないと思うけど」
渚の言う通り俺もそう思うが、そう思わない我の強い生徒がいるんだよ。生徒会長みたいな人が……
「昔からそんな話はありましたわ。今現在解決には至ってないと考えると……無理ですわね。時代は変わっても人の傲慢さは変わりませんから、おほほほ」
何だろう、良いこと言ってるのにアンジェと意味は変わらない気がするし腹が立つのは……
結局、三人に意見を聞いても解決策は見つからない。
三人、いや俺を含めて4人だけど文殊様の知恵には程遠いようだ。
「まあ、そのうち収まるんじゃないかな。生徒達だってそんなに暇じゃないだろうし」
その時はそう思っていた。
☆
次の日、学校に着いて直ぐに生徒会長から呼び出された。
生徒会室に行くと机に肘をついて頭を抱える会長がいた。
「あのーー帰ってもいいですか?」
「拓海くん、恐れた事が起きてしまった!」
全く、聞いてないね。
「何が起きたんですか?」
「一部の内部生がある外部生を煽ったんだ。その煽られた外部生が内部生に暴力を奮ったらしい。今、保健室で治療を受けている」
「どこの学校でも、生徒同士のいざこざなんてありそうですけど」
「拓海くん、何を呑気な事を言ってるんだ。この映えある英明学園がバイオレンス蔓延る学園になってしまったんだぞ。もうおしまいだあ〜〜」
生徒会長は打たれ弱いのかな?
「わかりましたから、直接の原因はなんなのですか?煽るにしても相手の怒りを買うほどではないと暴力事件には発展しませんよね?」
「わかった、説明しよう。実は……」
会長の話では、煽った生徒は神代院家の縁のある者で親は文部化学省の役人らしい。
教育熱心な人らしく、度々学園に来ては学園の至らないところを指摘して帰って行くそうだ。
そして、今回暴力を奮った生徒だが一般家庭の生徒で成績が優秀らしい。
そういうところも気にさわったらしく、霧坂柚子をネタにして煽ったそうだ。
「何故、柚子が出てくるんですか?」
「ああ、それは暴力を奮った生徒は、霧坂くんのファンクラブ、会員ナンバー2の人らしい」
は?ファンクラブ?
「ファンクラブなんてあるんだ」
「何を言ってるんだ。あるに決まっているだろう!」
怒ってるの?興奮してるの?どっち?
「会長も誰かのファンクラブに入っているんですか?」
すると、ゴソゴソと生徒手帳を取り出して金ピカのカードを俺に見せた。
「控えおろう!これが目に入らぬか。このカードこそ、竜宮寺琴香様のファンクラブ会員番号ナンバー3のVIPカードだぞ。頭が高い!」
そういう事らしい。
明日香ちゃんのお姉さんである琴香さんには、まだ会ったこと無いけどイギリス留学から帰って来たら会う機会もあるだろう。
「因みにナンバー1と2は誰ですか?」
「ナンバー1は竜宮寺将道様、ナンバー2は霧坂修造お爺様だ」
「みんな身内じゃねえか!」
「拓海くんも今ならナンバー4のVIP会員になれるぞ」
「謹んで遠慮しときます」
「拓海くんは、まだ推し活の良さを知らないな?」
「はあ〜〜」
「推し活とは、私の場合、琴香様だが全身全霊を持って応援し、場合によっては全財産どころか自身の命までも捧げる活動をいうんだ!」
「こえーよ!ガチで」
「良いツッコミありがとう。まあ、それぞれの気持ちの問題なのだがそれくらいの意気込みで推す相手にファンは本気なのだよ」
「それって柚子を推してる今回の加害者もそうなんですか?」
「勿論だ。だてにファンクラブナンバー2を名乗ってるわけではない」
「それで何と言われて煽られたんですか?」
「霧坂柚子は冴えない男、蔵敷拓海にお尻を叩かれて嬉しそうに媚びてるメス猫だ、と言われたらしい」
「ガッツリ俺が絡んでるじゃないですか!」
(柚子にケツを蹴られてるのは俺の方なんだが)
「そうだ。だから拓海くんを呼んだんだ。これから被害者の親が学校に来るらしい。君とその対策を考えようと思ってね」
「マジかよ」
「マジだ」
解決できんの、これ……
☆
「大きな学校どすなぁ」
「東京は海を埋め立てすれば土地が増えますから、京都とは違いますよ」
「この辺は昔海だったんどすか?」
「いいえ、古い地図で確認すると林だったみたいです」
「皐月はんは、相変わらずいいかげんどすなあ」
神代院京香は、転校手続きの書類を自ら英明学園まで足を運んで持ってきた。
「京香様、書類なら私ひとりで構いませんでしたのに、それか他の使用人にでも持って来させればすみましたのに」
「皐月はん、今日は何の日か知ってはりますなぁ。今日は『くるくるパッキン魔法少女くるんちゃんのDVDBOX発売記念で秋葉原で午後3時からイベントが行われる日どす。限定ポスターと限定キーホルダーはその場所、その時しか手にはいりまへん。これを逃したら一生悔いが残ります」
「わかってますけど、いいのですか?鈴音様に蔵敷拓海との縁を深める為、学園まで転入手続きの資料を持って行きたい、とおしゃってまで秋葉原に行くなんて、バレたら私鴨川に沈められますよ」
「鴨川にそんな深い場所はあらしまへん。それに同じ学園の空気を吸えば縁を深めたのと同義どす。さあ、行きまひょ」
「それって、鈴音様に問い詰められた時の言い訳ですよね?」
二人の女学生は、足早に職員室を目指すのだった。
☆
「拓海君、来たようだぞ」
真っ白なベンツから、眼鏡をかけた中年の男女が降りたった。
「さあ、校長室の隣にある応接室に行こう」
結局、今回の件の対策を話し合ったのだが、良い案が出ず行き当たりばったりの方針で望むことになった。
校長も同席するようだが、話し合いは生徒会主催で行われるらしい。
「大人が丸投げするな!」と、会長に言ったのだが、生徒同士のいざこざはこの学園では元来生徒会の仕事らしい。
俺は応接室に行く前にトイレに寄ることにした。
会長と相談してる時から行きたかったのだ。
………
「広くて迷いますなあ」
「お嬢様、きっとこっちです」
「わかりました。先におトイレに寄ります」
………
「トイレ、トイレっと」
………
「おトイレ、おトイレ」
………
『ドンッ!』
「あっ!」「おひょ!」
「すみません、良く見てなくて」
「こちらこそ、えらすんまへん」
「じゃあ」「ええ」
違う制服を着た女子とぶつかってしまった。よく見なかったけどどこかで会った気がする。あ、トイレ。
………
「よそ見をしてぶつかってしもうた。うちのとこは女子校だったさかい男子はみな同じに見えるわー、あ、おトイレ。
………
応接室は緊迫した空気が流れていた。
その空気を生み出しているのは、一応被害者である澤木親子だ。
「私達の息子に暴力を奮うなんて言語同断です。どう責任者をとるつもりですか?」
いかにも教育ママという出立の女性が興奮して話し出した。
「伝統ある英明学園も品が落ちましたな。これでは安心して息子を預ける事ができなくなりますね」
いかにも教育パパと言った出立ちの男性がそれに続いた。
「うむ、生徒同士のトラブルは、基本生徒会に任せています故、生徒会長の立科君にこの場は任せます」
校長、それでいいのかよ!
俺、生徒会ではないのだが、なんでここに……
「今代の生徒会長の立科孝志です。まずは澤木圭介君、怪我の状態はどうなんだい?」
澤木圭介2年1組の男子生徒であり、今回の被害者か。
ほっぺを冷やしているところから、そこを殴られた?
「幸い怪我の状態は軽傷ですが、僕の心は非常に傷つきました。加害者には適正な処罰をお願いします」
頭が良いだけしっかりしている。
ちんちくりんだけど……
「では、加害者である釣川歩さんは何かありますか?」
「こちらこそ澤木くんの言いがかりで心が傷つきました。それに、ほっぺに平手したのは事実ですが私はてっきり避けるものと思ってました。私はそんなに力はないですし」
釣川歩、2年1組の女子生徒であり外部生でもある。
女の子にピンタくらって、こんな大騒ぎになってるのかよ。
「まあ、なんてことでしょう。謝罪するどころか圭ちゃんを侮辱するなんて、許せません!」
これ、解決するの無理じゃね?
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