第43話 能力者


放課後の帰り道、渚さんは部活の為、俺とアンジェと柚子さんで一緒に帰っている。


駅前の大通りを歩くと柚子さんの警戒が強くなる。

この場所は、前に車が横付けされた場所だからだ。


「柚子さんって、護衛として優秀なのね」


アンジェは柚子さんの立ち振る舞いを見てそう呟いた。


「この年齢でこれだけできるって、下手な大人より優秀だと思うよ」


そんな俺達の会話が聞こえたのか、柚子さんは口角を少し上げながら『油断するな、たくみ」と、声をあげた。


照れたのかと思っていたら、不審な車に目を向けていた。


そして、その車は俺達の傍に横付けしてきたのだった。


咄嗟に前に出て警戒する柚子さん。


車から大学生ぐらいの男女が降りてきた。


「君にお願いがあるんだ」

「ぼ、僕達と一緒に来てほしい」


そう言われて、柚子さんは空手の構えをとった。相手の動作ひとつで攻撃できる構えだ。


「あんた達、Aー18とBー38だよね。拓海に何の用なの?」


「あ、あんたはBー69じゃない。なんでCー46と一緒にいるの?」


「ほんとだ。Bー69だ」


相手が能力者とわかって、柚子さんは今にも攻撃する一歩手前だ。


「あんたら何のようなの。私、あなた達を見るとすごくムカつくんだけど。施設でさんざん私をイジメたの忘れてないから」


アンジェは、施設で育った古株なのだが、他の能力者達にイジメられていた。


毎日辛い実験に加えて、仲間であるはずの同じ能力者達は、行き場のない怒りをアンジェに向けてストレスを発散していたのだ。


「Aー18は、私が最後に食べようと思ってたプリンを取られた。Bー38は、私がイジメられてても隅っこで震えて見て見ぬ振りをした。私はあんた達を許せない!」


アンジェが施設でイジメにあっていたことは知っていた。

俺はみんなとは別の場所に監禁されていたので、治療の時しか他の能力者と会う事はなかった。


「どうしよう。マズイよ、Bー69がいたらCー46を連れて行けないよ」


「謝るから、昔のことは許してくれない?」


「無理!」


アンジェは、即答した。


この往来で何かをするわけではないと思うが、今の状況はマズい。

行き交う人々の注目を浴びている。


「何か話があるみたいだし、そこの喫茶店にでも入らないか?ここでは、少しマズいと思うんだ」


そう話すと、アンジェと柚子さんは反対していたが、2人の能力者は頷いていた。





喫茶店の奥の方の席で俺達4人は座っていた。

柚子さんは、カウンターに座り連絡を取りながらこちらを見ている。


「それで、何のようなの?」


「私達が用があるのはCー46の方よ」


「アンジェ、話ができないから、悪いけど少し大人しくしてて」


「うう〜〜わかった」


しぶしぶアンジェは、口を閉じて注文したアイスココアを飲み始めた。


「この前の施設の襲撃の時、Cー46が先にあの男と戦ってた時の事よ」


「途中から参戦して来たのは君達か。あの黒い半円状の結界みたいな物に弾き出されてしまったけどね」


「あれは僕の能力だよ。詳しくは話せないけどそういう機能もあるんだ」


「そうだったのか、それで風見屋は倒せたのか?」


「逃げられたよ。あの人形を盾にしてね」


やはり、あいつは生きている。


「それで、私達の襲撃はあの男を殺す3人と施設内に入る3人に分かれたんだけど、あの男、施設を爆破したんだよ。その時、Aー8の能力である場所まで移動したんだけど、その時能力の限界を超えた力を出してしまって、今では息してるだけの身体になっちゃったんだ。それを、貴方に治して欲しいの」


「Aー8ですって!!あいつは、私を蹴ったりぶったりしてたやつじゃない。いい気味だわ」


「そうだけど、今も粗暴のところはあるけど面倒見が良いからみんなから頼りにされてるの。お願い、どうか助けて」


アンジェにとっては、憎き相手だ。

俺もアンジェにされたことは許せない。

だが、話を聞くとAー8の能力は移動系の能力らしい。

俺には備わってない能力だ。

その能力があれば、誰かが困った時にきっと役に立つ。


正直言って俺は能力が嫌いだ。

だけど、この前の戦闘で風見屋玲二を殺すのは難しいと理解している。

何故か能力を消せるあいつには、試さないとわからないが直接の物理攻撃が有効かもしれない。


しかし、前回はAーONEシリーズとかいう人では無いものに阻まれた。

きっと、今度の戦いではあのシリーズが量産されていることだろう。

そうなると、決め手となる攻撃手段が今の手札では心許ない。

風見屋を殺す為に、俺は決断した。


「わかった。一緒に行くよ」


すると、アンジェは椅子から立ち上がり叫んだ。


「たっくん、どうして?」


「アンジェを虐めてたのは許せない。だけど、今のそいつはみんなから頼りにされてるようだ。治す報酬としてアンジェに謝罪して欲しい。それが条件だ」


「うん、わかった。そこにいるメンバーで良かったらBー69に土下座でも何でもするわ。だから、頼みます」


「ぼ、僕もBー69の好きなようにしていい。それに改めて謝罪もする」


「たっくん……」


アンジェにとっては複雑な気持ちだろう。

だけど、その能力はどうしても欲しい。


これは俺の我儘だ。





「たくみ、お前はバカなのか?」


「そうかもしれない。でも柚子さんまでついてこなくて良かったんだぞ」


「私はたくみの護衛だ。それと『さん』はいらない。柚子でいい。じゃないと咄嗟の時に判断が遅れる」


「わかったよ、柚子」


車の後部座席に俺を真ん中に柚子とアンジェが乗っている。

アンジェは、ご立腹で話をしてくれない。


「Bー69はアンジェって名乗ってるんだあ。誰につけてもらったの?」


「それは、施設時代に俺がつけた」


「そうなんだ。Bー69はたまに居なくなってたけど君のところに行ってたのね」


「君達も記号じゃなくて名前があるのだろう?何故それを名乗らない」


「仲間内ではそう決められてるんだ。社会に出て個人で行動する時は普通に名前を使ってるんだよ」


身元バレの対策か?


「それと、Cー46はさあ。治癒能力だけじゃないでしょ」


「俺はそれしかできないが?」


「エースナンバーは、みんな2つの能力を持ってる。中にはそれ以上の者もいる。不自然なんだよね〜〜あの人形達と素手で戦えるわけないしさ」


戦闘行為を見られていたか。


「いろいろ武術を習い始めた。隣にいる護衛の柚子のお爺さんに鍛錬の仕方を教えてもらった」


エロ爺さん、そういう事にしといて下さい。


「たくみ、そうなのか。じいさんは誰にも強さの秘密を教えてくれないんだ。たくみはどうやって教えてもらったんだ」


柚子の食いつきが止まらない。

エロじじいとか言いながら尊敬しているようだ。


「それは言えないよ」


スカートめくりとか盗撮とかしか聞いてない。


「そうか、私ではまだ未熟ということか」


そう言って柚子は落ち込んでしまった。


「ねえ、Aー18まだなの?」

「もうじきよ。アンジェ」

「お前にアンジェって呼ばれたくないわ!!」


怒り狂ってるアンジェと落ち込んでる柚子の間に挟まって、何とも居心地が悪い。


「そういえばみんなAとかBとか言ってるけど何か意味あるの?」


柚子は前から疑問に思っていたのだろう。

俺に向かって質問した。


「俺はエースナンバーが強いって事しか知らない」


すると、Bー38が教えてくれた。


「Aは攻撃系の優秀な能力者、Bは攻撃系若しくは補助系の能力者、Cは支援系の能力者だよ。僕は補助系統の方が勝ってるからBなんだ」


「数字はどんな意味があるの?」


「それは……」


Bー38は言葉を詰まらせた。

その代わりAー18が答えた。


「数字は一応100まであるの。だけど、能力が発現しても暴走して亡くなった子が多いんだ。その他にも自殺したり、仲間に殺されたり、研究員に実験体にされて死んだり、とにかく生き残ったメンバーの方が少ないの。今向かっているところには私達を含めて6人のメンバーがいるわ。その一人が治療対象よ。あの施設から逃げ出したメンバーはそう多くはないわ。人数は言えないけど、一人でもかけたら困るってことで判断してちょうだい」


「そうなのですか、すみません、余計な事を聞きました」


「謝らなくてもいい。私達は死をたくさん見てきているから気にしてない子も多いわ」


こいつらは所詮いじめっ子体質のメンバーだろうし、誰かにトラウマを与える側の人間だ。

自分が酷いことをされれば、誰かのせいにしてそいつに当たる。

そうやって自分の心を守る弱い人間だ。


アンジェは、こいつらのせいで今でも悪夢を見る程のトラウマを抱えている。


トラウマを抱えた人の痛みなどわかりはしない。


「アンジェ、ついてきてもらってすまなかった」


「いいよ、たっくんが行くとこならどこにでもついてくよ」


「ありがとう」


車は既に倉庫街に入っていた。

磯の香りと油の匂いが漂っていた。


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