第38話 転校生


土日はいろいろあった。

竜宮寺家に行って、釣りしたり、治療したりと忙しかったけど充実した日々だった。


一緒に行った結城家も最初は緊張していたが、楽しんでくれたみたいだ。

それから、神代院家のことだが、将道さんから会議で神代院家の当主である鈴音さんから俺がほしいと言われたそうだ。

その場で断ったのだが鈴音さんは、娘を薦めてきたという。

こればかりは俺の意思に任せると言うしかなかったと言うわけだ。

許嫁と正式に決まっているわけではなく、相手が勝手にそう言っている自称許嫁ということらしい。

そういう事なので俺も安心した。


朝の登校は、少し憂鬱だ。

できれば、一人で行動したいのだが霧坂さん的には無理だそうだ。

だから、こうして3人で登校している。


「信州良かったね」

「釣りが最高でした」

「お屋敷広いしすごいご馳走だったし」

「私はお爺ちゃんを皆様に合わせたくなかったですわ。腕は確かなのですけど言動と行動が身内の恥ですわ」

「そんな事ないよ、柚子ちゃんのおじいさんて結構周り見てるし、私たち家族が緊張してるのわかってたからああやって場を和ませてくれたんだよ。私はすごい人だと思う」


そう言われて少し嬉しそうな霧坂さんだった。


学園が近づくと、俺は二人より足を遅くする。

少し後ろからついていく事にしたのだ。


「あれ、蔵敷君どうしたの?」

「学園が近づいてきたので、少し距離をとろうと思って」

「そっか、蔵敷君の考えなんとなくわかる気がする。ごめんね」

「いいよ、大丈夫だから」

「駄猫、距離を空けるなら先に行け。後ろだと守りづらい」

「わかった、そうするよ」


理解を得られたようで、二人より先に行く事になった。

それは、校舎内でも同じで俺は先にクラスに入る。


月曜日のせいか、みんな少しお疲れ気味だ。

席に着き、スマホを手に持ち恭司さんから紹介された小説投稿サイトに掲載されているし小説の題名を読み始めた。


多くの作品が投稿されており、どれを読もうか迷っていると本屋で会った飯塚君に声をかけられた。


「蔵敷君、長い間休んでたみたいだけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「良かったよ。このまま学校に来ないんじゃないかって心配してたんだ」


心配してくれたのか?


「それは、すまなかった」

「いいよ、勝手に思ってたことだから。それより本はどうだった?」


「読んだよ。一気に読んでしまったのだけど少しだけ気になることがあった」


「どんな事?」


「チート能力を振り翳して活躍するところかな」


「そっか、それはラノベのお約束みたい話なんだけど、蔵敷君はあまりそういうのが好きじゃないみたいだね。能力はないけど努力して頑張るような作品もあるよ。もしかしたら、そっち系の方が合ってるのかな?」


「そうだな、そうかもしれない」


「じゃあ、こういう本がいいと思う」


その後、玉川君もやってきて話に加わった。

その日の朝は、ホームルームが始まるまで3人で話に花が咲いたのだった。





1時間目の授業が終わり、クラスの男子が騒がしくなった。

どうやら隣のクラスに女子が転校してきたようだ。

欧米人らしく金髪でとても綺麗な人らしい。

男子達は隣のクラスに見に行く人もおり、廊下は混雑してるようだ。


そんな話がいやでも聞こえてきた。

俺はスマホで飯塚君が薦めてくれた小説を読みながら、耳から聞こえてくるクラス男子の喧騒をどうにかならないかと思っていた。


そして、昼休み。

楓さんが作ってくれたお弁当を騒がしい教室で食べるのは気がひけるので別の場所で食べようと席を立った瞬間、廊下から覗いている金髪の少女と目が合った。


すると、その少女は満面な笑顔をむけて俺に抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと、君は誰?」


「同じクラスになれなかったのは残念だけど、こうしてたっくんに会えて良かったあ」


何時もは姿を消していたので、成長した容姿までは分からなかった。

俺の中にいる君はいつも幼かったから。


「アンジェか?」


「うん、正解。どう?美人でナイスバディになったでしょ」


「どうしてここに?アンジェは隠れて生活してたんじゃないのか?」


「ああ、そのことね。話すのはいいんだけど、ここでは……」


確かに今現在、俺とアンジェは注目の的だ。

こんな場所で秘匿性の高い話はできない。


「アンジェ、場所を変えよう」

「うん、一緒にお弁当食べよう、たっくん」


俺とアンジェは逃げるように教室を出て行った。

その後、教室内は大騒ぎになったとも知らずに……


旧校舎の空き教室、そこを選んだのはアンジェだ。


「盗聴器もカメラも外しといたから大丈夫だよ」


スパイ顔負けのことを平気で言えるのはアンジェだけだろう。


「さあ、お弁当食べよう」

「ああ、でもその前に……」


教室のドアを開ける。

そこには霧坂さんと結城さんが気まずそうに立っていた。


「そんなところで話はできないぞ。中に入ってくれ」


「う、うん」

「駄猫、どういう事か説明してもらおう」


机を寄せて、お弁当を広げる。

二人もちゃっかりお弁当を持って来ていた。


「隣のクラスの転校生だよね?」

「そうよ、私は如月アンジェ。たっくんとは幼馴染だよ」


「「お、幼馴染!!!」」


霧坂さんと結城さんが驚いている。

それもそのはずだ。

俺達は普通の子供時代を過ごしてないのだから。


すると、アンジェが


「霧坂柚子さんはたっくんの護衛だよね。それと、結城渚さんはたっくんのお隣さんよね?」


「「何で知ってるの??」


息合いすぎ。


「俺もアンジェがどうしてこの学校に来たのか知りたい?」


「この二人は大丈夫なんだよね?」


「ああ、ある程度の事情は知ってるよ」


「それなら、私はBー69号。それが施設にいた時の私の名前」


「はっ!もしかして能力者」


霧坂さんが立ち上がって俺をアンジェから引き離した。


「霧坂さん、アンジェは大丈夫だから。俺の唯一の友人だから」


その言葉を聞いても霧坂さんは警戒を解かないでいる。


「私が説明するよ。施設が強襲された時逃げ出した能力者は結構いたけど、私はみんなとは別にある人と一緒に逃げたんだ」


「ある人って?」


「如月蘭子さん、たっくんは知らないと思うけど、研究者でもありながら、あの施設で私達の食事を作ってくれてた人だよ」


「蘭子さんは、私達子供達をずっと不憫に思ってたんだって。だから、研究者を辞めて食事係をずっとしてくれてたの。せめて美味しいものを食べてもらいたいからって」


「あの施設にそんな奇特な人がいたんだ。あれ、何だか聞いたことあるような……」


「いつもたっくんは朦朧としてたからね。添い寝してる時に話したよ。覚えてなくても仕方ないけど」


「「添い寝!!」」


この二人、双子かよ。


「そうか、アンジェはその人と逃げたんだね」


「うん、そうだよ。今は蘭子さんは翻訳のお仕事して頑張ってる。今では私のママだよ」


「そうだったんだ。アンジェにそういう人がいてくれて良かったよ」


「何言ってんの?たっくんだって、今では沢山の人から愛されてるじゃない。ほら、ここにも二人いるし」


「わ、私は護衛官としてし、仕事をこなしてるだけだ」

「私だって、まだ、そんなこと……」


当たり前だけど、双子じゃないわ。


「そういうわけで、いつまでもコソコソ生活してるのは大変だから。たっくん、私と蘭子さんを守ってね」


「いいけど、できることしかできないぞ」


「うん、それにもうたっくんのマンションの5階だけど土曜日に引っ越しも済んでるから」


「そうなのか?わかった。楓さんに相談してみるよ」


「多分だけど、蘭子さんの方から陣開さんには連絡を入れてるはずよ。マンションもそのツテで紹介してもらったはず。同じフロアーに住めなかったのは完全に信用されてないからだと思う。それは仕方ないことだし、私は能力者だからね。信用を得るには時間がかかって当然だわ。それと柚子さんと渚さんもよろしくね。私のことはアンジェでいいから」


「「あ、はい」」


やはり、双子か?


それから、慌ててお弁当を食べ始めた俺達だった。


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