第10話 メッセージ
とある警察本部の一室で、男が大きなデスクの席に着いて言葉を発した。
「それで、奴等は情報を吐いたか?」
それを聞いたスーツ姿の30才代の男が答える。
「後で報告書にまとめますけど、第三者の情報で治癒能力者の住所や氏名。それと関係者達の情報を譲ってもらって早急に行動を起こしたようです」
「となると、彼の国の党首が重病だと言う話が真実味を帯びてくるな」
「それが目的だと思いますが、現時点では推測の域を超えません」
「わかった、それとその場から逃げ出した者は羽田で捕まえたのだな?」
「はい、今朝方、彼の地に向かう飛行機の受付で捕獲しました。おそらく情報は、本国に流れていると思われます」
「そうだろうな。警護を増やしますか?」
「今の段階では予算が降りない。あとは政治家に期待するしかないが奴さん達上手く仕事をしてくれるのか?」
「上手く行けば、停戦。それか不可侵条約ってとこですか」
「上手く行けばな。強引な方法に動かれてもおかしくはない」
「破損した窓を含め、対象が住む住宅の窓は全て防弾ガラスに変えました。あと、竜宮寺家の関係者である同年代の警護人が一緒に住むようです」
「霧坂家だったか、警護人の祖父にあたる霧坂修造氏には大変お世話になった。現当主の道隆氏は腕の方はダメだが、政治の方に優れていると聞く。その娘が護衛人なら何とかなるだろう」
「ええ、今回も侵入者を倒していますし、そこら辺の警察官よりは十分な働きをしてくれるでしょう」
「それに陣開楓殿もおるしな。予算が降りづらい現状では最善だと思う事にしよう」
「では、後ほど報告書を上げておきます」
「うむ、頼む」
男が出て行ったドアの前には、小さな文字でSP対策本部と書かれていた。
☆
部屋にある小さなCDデッキから流れるソフトジャズのピアノを聴きながらブラックコーヒーを飲む。
心地良いサウンドが心に溜まった汚れを洗い流してくれている。
だけど、目の前にある数枚のA4の紙を読むたび、心が澱んでいくのは何故だろう?
「何だよ、これ!洗濯は別とか入浴も別とか当たり前と思える項目はいいよ。でも、私のいる前で息を吐かないで、とか10秒以上見たら目を潰すって何だよ!こんなのサインできるわけないだろう!」
他にも理不尽な項目が所狭しと書かれており、湧き立つ怒りが心を洗い流してくれているはずのサウンドに追いついていかない。
「これ、楓さんに丸投げしよう」
ドヤ顔でこれを渡した時の霧坂さんの顔が浮かぶ。
そんな時、充電中だったスマホがブルっと震えた。
スマホに目を向けると結城さんからメッセージが届いたみたいだ。
【お母さんが来週火曜日に退院する事になりました。本当にありがとう。陽菜も喜んでいます。それと、お礼の件ですが、中間テストが終わってからでもいいですか?】
そうだった、恭司さんに連絡入れるの忘れてた。
【拓海です。陽菜ちゃんのお姉さんがお礼をしたいと言ってます。来週後半、時間がありますか?】
先に恭司さんに連絡を入れておく。
その間に結城さんに返信する。
【こんばんは。お礼の件ですが、恭司さんに連絡を入れてます。返事がまだきてないので今は返答ができません】
『ブルッ』
はやっ!
【できれば陽菜もいるので私の家で何か作ろうと思ってます。日にちが決まったら連絡して下さい】
【わかりました。恭司さんから連絡が来たら伝えておきます】
『ブルッ』
だから、返信早いって。
【よろしくね】
うさぎがニコニコしてる絵文字の下に言葉が書かれていた。
こう言う場合、こちらからも何か送った方が良いのか?
ウサギといえば亀だよね。
亀の絵文字をダウンロードして、送る。
【またね】と書かれていた絵文字を送った。
あれ、恭司さんから連絡ないな?
すると、通じたのか恭司さんから連絡が入った。
【拓海は何の音楽が好きなんだ?】
何故に音楽?
【特に決まったのはありませんよ。騒がしいものよりは静かな方が好きです】
てか、お礼の件はどうなった?
【アニソンいける?】
【静かめのなら大丈夫。それより、陽菜ちゃんのお姉さんがお礼をしたいと言っています。来週後半の予定はどうですか?】
【陽菜って誰だよ。拓海の彼女か?】
はあ、そういえば恭司さんは忘れっぽいんだった。
【公園で助けて病院に連れて行った娘ですよ】
【ああ、あのガキンチョか。お礼はいらないって言っとけ】
【わかりました。そう伝えます】
結城さんに連絡しなくちゃ。
【再度、こんばんは。恭司さんに連絡取れたのですが、お礼はいらないと言ってます】
『ブルっ』
だから、早いって!
【困ります。陽菜も楽しみにしています。是非ともお願いします】
そんな事俺に言われても……
【日を置いてまた連絡してみます。恭司さん、言い出したら聞かない人なので】
『ブルっ』
何なの、この早さ。今時のJKってみんなそうなの?
【できるだけ説得をお願いします】
説得って、恭司さんって話通じないし……
一応、連絡してみるか。
【先方がどうしてもお礼がしたいそうです。来週後半、時間を空けといて下さい】
少しキツめに書いておけば、きっと大丈夫……のはず。
【海に合うサウンドって、フュージョン系かな?】
だから、何の話してんだよ。
お礼の話だよ。
音楽の話じゃねえ!
【サウンドは恭司さんのお好きなように、それより、来週後半の予定は?】
それから、しばらく待っても返事が来ない。
ああ〜〜中間テストの勉強できないじゃん。
もう、どうにでもして。
俺はこの年齢で中間管理職が上司と部下の間に挟まれる気持ちを体感したのだった。
☆☆☆
誰もが寝静まった夜中に、とある施設に近づく数人の人達がいた。
闇夜に紛れて、その姿を特定することはできないが施設の様子を伺っているのは間違いない。
「結構、防犯に力を入れてるじゃねえか」
「正面突破するのはわけないけど、出来るだけ目立たずにってBOSSが言ってたよ」
「チッ、暴れられると思ったのに」
「A22号、やる気があるのはいいけどヘマするなよ」
「おい、俺がヘマするって?冗談じゃねえ。そんな間抜けなことはしねえよ。俺よりA55号の方はまずいんじゃねえか。あそこでビビってるぜ」
「ぼ、僕は、ビビってなんかない」
「へえ〜〜そうかよ。今にもしょんべんちびりそうな顔してんじゃねえか」
「ぼ、僕をバカにするな」
すると、その瞬間闇が濃くなった。
「お前達、いい加減にしろ。これはBOSSから直々に与えられた任務だ。仲間割れしてる場合ではない」
「そうだよ。A8号の言う通りだよ。それより、早く侵入して仲間を解放しなくっちゃ。いつまでもこんなところに匿われてたら可哀想だろう」
「そういうことだ。じゃあ、手はず通り行くぞ」
その晩、とある施設に匿われていた能力者の1人が死亡。能力者2人を含む15人が連れ拐われた。
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