第十七話 贈る枷
沈んでいた底からゆっくりと浮上し、夢と現実の境にある浅瀬へ打ち上げられる。
僕はゆっくりと目を開け、スマートフォンを確認した。いつの間にかタイムリープしてしまっているかもしれないから、日付を確認しないと落ち着かなくなってしまった。
今日は7月14日、土曜日だ。
昨日に巻き戻ったからはまだタイムリープしていない。このまま、「あの日」……夏休み前日までは1日ずつ時間を重ねていくのだろうか。
昨日の帰り道で小学生に会ったからだろうか、夢に小さな子がたくさん出てきた気がする。
久々に、夢だとちゃんとわかる夢を見た。それに、起きて少し経ったら内容がぼやけて思い出せなくなっていってしまう。
今まで寝て起きたらタイムリープというかいつの間にか時間が巻き戻っていたので全く休んだ気がしなかったが、今日はちゃんと眠れた。
それにしても、夢に見るほど小学生のインパクトはすごかったか?
小さな子に怒られるのが、思ったよりショックだったのだろうか……。
…………いや、違うな。
印象に残ったのは子どもじゃなくて、きっと“名賜の儀”や“ミコト様”の方だ。
夢の中でもその話題が出てきていた。
覚えているのはそれだけで、自分の名前の意味や知り合いの誰かの名前について知ることが出来たわけではないけれど。
——名前は親から子どもへ贈る最初のプレゼントである。
こういう言葉を、どこかで聞いたことがある。
確かにそうかもしれない。改名さえしなければそれは一生ものだ。
でもそれがプレゼントになるか、枷になるか。それは人によって違うのではないだろうか。
優しい子になってほしい。
明るい子になってほしい。
面白い子になってほしい。
将来お金持ちになってほしい。
頭の良い子になってほしい。
子どもに望むことは色々あるだろう。それが、“名賜の儀”によって実現するとあらば、尚更欲張りになる。
こういう性格の人間になってほしい、という願いはあまり重くないかもしれない。
しかし、
「あなたは将来お金持ちになるのよ」
「運動が出来るように願ったから、スポーツ選手になりなさい」
「学者になって賞を取って……」
将来像が勝手に決められている願い、名前は?
そうなるように言い聞かされる生活、名前に縛られる人生は幸せなのだろうか。
……まあ、全て僕の勝手な考えではあるけれど。
この巡という名前にどういう意味が込められているのか僕は知らない。だから、名前に対して重みを感じたことも特にはない。知っていたら……、覚えていたら、何か変わっていたかもしれないけれど。
僕は身近な人物を思い浮かべた。
桃花、学、古屋明華、藤島心春。皆は自分の名前をどう思っているのだろう。
皆の名前には、どのような願いが込められているのだろう。
“名賜の儀”は……。親と神様からの輝かしいプレゼントなのか。
それとも、“ミコト様”の特別な力を伴った重たい枷か。
一体どちらなのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます