第15話 決勝戦

『遂に! 今大会もいよいよ決勝戦!』


 神官長の悪事を暴いたのち、あとの事は偉い人たちに任せた。

 俺はその後控え室に残り、集中していた。


 そしていよいよ決勝戦だ。


 審判兼実況が、魔法で拡声された声で観客を煽る。


『まずは東の代表! 一回戦では昨年決勝で敗れたアルトに雪辱を果たし、その勢いのまま決勝戦まで駆け上がってきた! 今年こそ優勝なるか! ジェダ!』


 観客席から「うおおおおっ」と、地鳴りを伴った歓声が上がる。

 だがジェダはそれに応える事もなく、俯いていた。


『そして西の代表! 昨年は一回戦棄権負けながら、通の間では「最強」と噂されていた男! その実力は本当だった! ここまで全て上段一発で決めてきた、伝説のチャンピオンヴァベルザイツの一番弟子、フェス!』


 先ほど、ジェダが紹介された時以上の歓声が上がる。


 俺が手を上に突き出すと、観客はさらに盛り上がりを見せた。


『では、両者構えて下さい!』


 俺とジェダが構える。

 暗く、思い詰めたような表情を浮かべながらも、ジェダの構えは見事だった。

 その姿を見て、俺は憤りを感じた。


 ジェダは強い。

 少なくとも、今日対戦した中では一番だ。

 昨年、西のアルト対デルモンが事実上の決勝戦などと揶揄されても、彼なりに今日に向けて修練を重ねて来たのだろう。


 だからこそ、彼の父に憤りを感じる。

 ジェダの努力を、克己心を信じてやれない事を。


「ジェダ⋯⋯余計な事をごちゃごちゃ考えず、かかって来い。どうせ俺が勝つ」


 だから敢えて挑発した。

 ジェダは一瞬驚いたようだが、表情を引き締めながら言った。


「ぬかせ、勝つのは俺だ⋯⋯フェス!」


『おおーっと、二人で挑発合戦だぁ! だが両選手、試合前の会話はお控え下さい!」


 審判から注意が飛び、それ以上の会話は止める。

 ジェダの表情は先ほどまでとは違い、吹っ切れたように見える。


『ではいよいよ決勝戦! ⋯⋯試合開始!』


「うおおおおっ!」


 ジェダが気合いとともに上段を繰り出して来た。

 鋭い一撃だ、だがしっかりと見えている。

 俺は間合いギリギリに下がり、彼の剣に空を斬らせる。


 そしてそのまま、がら空きになった頭部に剣を振り下ろした。


 ガッという重い手応え。

 直後、ジェダが膝をつき、上体が倒れ、地面に臥した。


『フェ⋯⋯フェス選手、決勝も一撃で決めたぁっ! 圧倒的な実力ッ! ここに伝説は誕生した! 一回戦棄権負けの男が、翌年全て一発で決めるなど誰が想像したでしょうか! 優勝は──フェス選手!』


 観客席から、今日一番の歓声が上がる。

 会場全体が震えているようだ。


 だが、俺は優勝の喜びよりも、倒れたジェダを見ながら複雑な気持ちだった。


 去年、コイツの父親に薬を盛られていなかったとしたら──俺はここまで強くなれただろうか?


 周囲が俺を『真の優勝者』などと噂をした。

 それに負けまいと、この一年は自分でも頑張ったと思う。

 父が剣を諦めた経緯を聞き、それまで以上に修行に身が入った。

 剣を練習できること、上を目指せる事、それ自体がありがたい事なんだ、俺は恵まれているんだと、心から思えた。


 ジェダが目覚め、立ち上がり、会場を去ろうとしている。


 本来なら、勝者が敗者に掛ける言葉などないだろう。


 だが、俺は我慢できなかった。


「ジェダ!」


 俺が声を掛けでも、彼は振り向かなかった。

 ただ、歩みを止めた。


「来年も、待ってるからなッ!」


 このあと、どういう形で彼の父親の所行が取り沙汰されるかわからない。

 彼に対して、世間が何を言うのかもわからない。


 それでも──彼に剣の道を諦めて欲しくない。


「当たり前だ! 何があっても⋯⋯お前を倒すのは俺だッ!」


 ジェダは振り返らずに叫び、また歩き出す。

 その背に、俺は声を掛けた。


「来るって信じてるからな!」


 ジェダは相変わらず振り返らなかったが、頷き、肩を少し震わせながら去っていった。









──────────────





 その後、表彰式が執り行われ、ジェダとは普通に対面した。


 なんかちょっと恥ずかしかったし、ジェダもちょっと気まずそうにしてた。






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