感謝と謝罪と。
「久しぶり、木津くん」
待ち合わせ場所には既に、木津くんがいた。
目が合うと片手を上げてくれる。
「ごめん、お待たせ」
「今来たとこだから大丈夫。久しぶり。柳生は昨日ぶりだな」
「うん、昨日ぶりだね、こんにちは」
「行こう」
私たちは歩き出した。
向かう場所は先日三人で会ったときに行った、喫茶店だった。
静かで、極力誰かに話を聞かれることはないところで話がしたい。
そんな場所があるか問えば、木津くんが提案してくれたのがあの喫茶店だった。
他愛もない会話を交わしていたら、あっという間に喫茶店についた。
お店に入り、角の席に座る。
頼んだ飲み物が一通りそろったところで、木津くんが私を見た。
「田所。話ってなんだ」
まっすぐな視線に、どう切り出そうか、と悩む。
ちらりと隣に座る柳生くんを盗み見た。
そういえば、柳生くんは、いついなくなってしまうのだろうか。
時間は特に言っていなかった気がする。
それなら、早めに本題に入ったほうがいいだろう。
深呼吸を一つ。
そして私は柳生くんを見た。
茶色い瞳と目が合う。
「柳生くんって、もう、大学生のときに亡くなってるんだよね」
空気が固まるのがわかった。
柳生くんだけじゃない、木津くんも知っていたんだ。
知っていて、私には黙っていた。
柳生くんの事故のあと、私はベランダから転落した。
手すりの腐食による事故ということになっている。
だけど状況とタイミングから、きっと自殺だと思われていたのだろう。
まだ、柳生くんの目が覚めたとも、亡くなったとも知らされていないときにそれが起きた。
亡くなったと知った私が、自殺しないとは、誰も言えなかったに違いない。
私だって、きっとそう思う。
でも、それでも。
自業自得なのかもしれないけれど、すごく、悲しかった。
大切な人の死を、ずっと隠され続けていたことが、本当に、ただひたすらに悲しかった。
「田所……」
きっと、フォローを入れようとしたのだろう木津くんは、けれど言葉が浮かばなかったようで、開いた口をすぐに閉じてうつむいてしまう。
「私には、どうして今、柳生くんのことが見えているのかも、こうしてお話ができているのかもわからない。木津くんだってそう。どうして木津くんに柳生くんが見えていて、柳生くんとお話できているのかもわからない」
でもそういうことは置いておいて、と私は二人を見る。
「まずは、たくさん気にかけてくれてありがとう。そして、たくさん気をつかわせてしまってごめんなさい」
言って、頭を下げる。
二人が動く気配があったけれど、それを手で制して、私は顔を上げて柳生くんのほうを向く。
「柳生くん、もう一度会ってくれて、ありがとう」
息を吸う。
昨日からずっと考えていた。
柳生くんが来てくれた意味を。
きっと、すごく心配をしてくれていたのだと思う。
やっと、思い出したことがある。
あの夜、私がなにをしたのか。
そして、柳生くんとの約束を。
だからこそ、言うんだ。
ちゃんと、柳生くんを安心させてあげないといけない。
柳生くんは、私のためだけにいていい人じゃない。
「お別れ、言えるね」
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