第47話 これからの未来編パート0 結末の先へ

日付が変わって翌日。

俺は居酒屋、除菌王にいた。

いや、除菌王ってなんだ。

相変わらず思うが、居酒屋につける名前ではないと思う。

まぁ、そんなどうでもいいことはさておき……


「ぶはははっ! フラれてやんの~」

姫花が俺の前で盛大に笑いこける。

「もっと笑ってくれ。もう俺は笑い話のネタとして、常備しておこうと思う」

昨日の撫子との話を姫花にしたところ、めちゃくちゃ笑われている。

性格悪いなこいつ…なんて思わなくもないが、正直なところ、すげぇ真剣に心配されるよりも笑い話にして消化してくれた方が嬉しい…みたいな所があるので、これはこれでオッケーだ。

なんて…思っていたからだろうか…

「……本当に大丈夫?」

さっきまでの笑いは噓だったのかと言いたくなるほど、真剣な眼差しを俺に向けてくる姫花。

「……まぁ、正直言うと、ショックは大きい。だけど、その内立ち直るさ。いつまでも被害者ヅラしてらんないしな」

「まぁね…。そういう潔い感じ、かっこいいわよ」

何気なくそう言われ、胸の鼓動がドキリと跳ねる。

「………そういう新手の煽りか?」

「なんでそうなるのよ! 今、素直に褒めてるんだけど!」

「いや、姫花に素直に褒められると何だか変な感じがしてな…」

普通にドキッとしたなんて、口が裂けても言えない。

だから、いつものように笑ってネタとして扱う。

「もう…私、本気で褒めてるのよ?」

「え?」

「だって…私があんたの立場だったら、すっごく辛いだろうし…ずっと自分を責め続けると思う…終わりを迎えることが、怖くて、また逃げると思う。それでも、ちゃんと結末を迎えた…正面から向き合った、そんなあんたがすごいって思うわ…」

「…………その……なんだ…えっと……ありがとう…」

やけに真面目に褒められた。

褒められることに慣れていない、俺からすれば、なんて言葉を返したらいいのか、よく分からなかった。

なんとか絞り出して出てきた言葉がありがとうだった。

そういえば…姫花がいなかったら…俺は…。

そう思い口を開こうとした瞬間だった。

ぶるぶると俺の携帯が鳴る。

「……ん?」

「遠慮しないで出たら?」

「悪い…ちょっと失礼する」

俺はそのまま電話を取った。

『もしもし奏人?』

電話の相手はよく聞きなれた声の人物だった。

「なんだ亮か…どうした?」

『なんだってなんだよ…』

「いや、亮以上にくだらない内容で電話してくる奴が知り合いにいてな…」

あれが自分の妹だという事実を、未だに理解することが難しい。

「って、そんな話はどうでもいいよな。とりあえずどうした?」

『あっ…いやその…』

やたらと歯切れの悪い言葉を続ける。

まるで本題を言いたいけど、言いにくい…みたいな。

「……さてはまた合コンか?」

『おっ、なんだよ。分かってるなら、話が早い』

「断る」

『おい! まだ俺、具体的な内容を言ってないよな!』

「じゃあ俺が変わりに言おう。クソビッチしかいない合コンを開催するから、お前もこい」

『…………とりあえず来る気がないことは分かったよ』

明らかにしょんぼりとしたような声色でそう言う亮。

「あぁ、悪い…」

『俺としては、前も言った通り、そろそろ奏人にも、本格的に恋愛をして欲しいんだけどな…』

恋愛ね…いやぁ…うん…。

「ごめん…しばらくは絶対にしないと思うわ」

『な、なんだそりゃ。またいきなりとんでもねぇこと言い出したな。何かあったか?』

「いや特に…あったけど」

『あったのかよ…。教えてくれよ』

「教えるわけないだろ」

『なんでだよ…。俺は悲しいぜ、親友だと思ってたのは、俺だけだったのか…』

「まぁ、その話は一旦置いておいて……亮のおかげだ、ありがとう…」

よくよく考えると、あの亮が誘ってくれた合コンで姫花に出会わなければ、今の俺はないわけであって…。

そこに関しては、素直に感謝しかない。

ずっとくすぶってた物を、表に出す機会をくれたんだから。

『ちょっ…なんだよ、お前にいきなりお礼言われるとか怖すぎるんだが…』

気持ち悪いと言わんばかりの口調でそう言う亮。

『ってか、話し逸らすなよ。俺は何があったか聞きたいんだが…』

「とんでもねぇ面白い話だからなぁ…」

『そう言われると余計気になるだろ!?』

「ははっ、そうだよな。いずれちゃんと話すよ。今度、飲む時にでも……な」

『そ、そうか? 約束だぞ? ちゃんと話してくれよ?』

「おう、もちろんだ。あっ、この間の合コン、奢ってもらったから、今度飲む時は俺が奢る」

『まじで? え? 今日のお前、本当にどうしたんだ?』

「なんでもねーよ」

『なんでもあるだろ! ってか俺、今日暇だから、今からでもいけるけど…』

「あぁ…悪いな。今ちょっと大切な人と飲んでるから、今日は無理だ」

『え………?』

しばらく電話越しの亮が沈黙する。

『ああ! なるほど! ったく、奏人も隅におけないな! 女が出来たんだったら、最初からそう言えよ!』

全てを察したと言わんばかりに、そう言う亮。

あの…全然、違うんだが…。

『んじゃ、邪魔して悪かったな、切るな』

「お、おう…またな…」

『うい~』

チャラい返事が聞こえた後、通話が切れる。

携帯をポケットにしまい、目の前を見ると…

「た、大切な人って…そ、そんな…」

顔を真っ赤にしている姫花。

「いや…姫花に出会わなかったら、ずっと伝えられないまま終わってたと思うからさ…」

直後、先ほどまで真っ赤だった姫花は、急激に冷めたような雰囲気になる。

「あっ…そっち方面の話か…」

「え?」

「いやぁ~別に~」

少し拗ねたように、口を尖らせている姫花。

「まぁ、鴇羽がいなかったら、間違いなく好きになってたわ」

「ちょ、あんた何言ってんのよ!」

再び、真っ赤になる姫花。

「姫花…本当に魅力的だぞ? これ本気だからな、冗談じゃなくて」

「それ…さっきの仕返しでしょ?」

瞳を真っ黒にして、そう突っ込んでくる姫花。

「正解…と見せかけて、ただの本心」

「なっ! もうっ、そういうのやめなさいよ! ドキってするでしょ!?」

「ははっ、悪い悪い…」

茶化すようにそう笑う俺を、睨んでくる姫花。

「はぁ…あんたってばね…」

そんな姫花の言葉を遮り、俺は言葉を重ねる。

「それとありがとう。おかげでやっと、一歩前に進めた」

瞳を見開いて、あっけに取られている姫花。

「…………私は…何もしてないわよ」

「いや、姫花がいたからだ。本当に感謝してる…」

「う、うん…」

髪の毛をクルクルしながら、照れくさそうにしている姫花。

おい、さっきの俺と同じような反応するなよ…。

二人して、褒められるのに慣れてないのが、丸わかりじゃないか。

「そ、そうね…なんかこう…私もパズルピースの一部だった…って感じ?」

「そうだな。全部、パズルのピースみたいに繋がったから…きっと、ちゃんと結末を迎えられたんだ…」

なんてかっこいい締めみたいなことを言ってみるが…。

その後にこんなことを言ってしまう。

「まぁ、最も本当にピースだったとするならば、完成した盤面はあまりにぐちゃぐちゃで歪んでるけどな…」

「うわぁ…あんた、その一言でさっきの台詞、全部台無しになったわね」

「それは俺も思った。言わない方がよかったな」

「いや、歪んでる方があんたらしいけどね」

「おい、それどういう意味だ?」

「そのまんまの意味よ」

絶対に煽られていることだけは、はっきりと分かった。


「え、えっと…こんばんは…露草くん、姫花ちゃん」


…………え?

唐突に声がしたので、その方向を向く。

「あっ、鴇羽。お疲れ~。先に飲んでたわよ」

「う、うん…それじゃ、姫花ちゃんの隣、失礼しようかな…」

「おいで。鴇羽みたいな美少女なら、大歓迎だわ!」

「も、もう少女って年齢じゃないと思うんだけど…」

「細かいことは、気にしなくていいのよ」

そんなやり取りを見ていた。

「…………」

姫花ァァァァァァァァァァァァァァァァ!?

なぜ撫子を呼んだァァァァァァァァァァァァァ!?

昨日の今日で気まずすぎるわ!?

撫子だって、さっきから気まずそうに、俺のことチラチラ見てるじゃねぇか!?

「何? あんたら、もしかして気まずいの?」

やけにニヤニヤしながら、そう言う姫花。

その様はまるで、たちの悪い絡み酒の酔っ払い。

いや、まるでじゃなくて…こいつ普通に酔ってるわ。

「「っ!?」」

こいつ…分かってて、わざとやってるな…。

「べ、別に…そ、そんなことない…よね?」

そう俺に、問いかけてくる撫子。

「あ、あぁ…」

やばいィィィィィィィィィィィィ!?

めちゃくちゃ気まずいィィィィィィィィィィィィ!?

「んふふっ、あんたらってば、初々しいわね」

楽観してこちらを見てくる姫花に俺は内心、イラっとする。

よし、分かった。

そっちがその気なら、俺は俺で助っ人を呼ばせてもらう。

最強のキチガイを。


「あっ、もしもし? そうそう、今地図送ったから…すぐ来てくれ。え? 地図読めない?お前…何歳だよ…。位置情報で場所確認しながらだったら来れるだろ? …………なんで、驚いてるんだよ。現代人なんだから、位置情報を使うっていう発想くらい思いつくだろ…。とりあえず待ってるからな……おう、んじゃまた…」


十分後…。


「ヘイ! マイブラザー! 会いに来たよっ♪」

「お前は海外映画の登場人物かよ…」

「私のことは、マイケル未来って呼んで!」

「どう考えても、語呂が悪すぎるだろ!」

究極のキチガイこと…俺の妹、露草未来である。

(妹として、認めたくはないが)

未来がいれば、さっきから姫花の一人駄弁り劇場と化しているこの状況も何とかな—


「はぁ…はぁ…未来ちゃんかわゆす…」

「お、お兄ちゃん~…こ、この人怖いよぉ~!?」

俺の隣に座っていた未来に、姫花はやたらと密着していったため、俺は座る場所がなくなり、仕方なく撫子の隣へと移動する。

やべぇ!?

逆効果だ!?

姫花が余計、面倒くさい奴になった!?

い、いやまぁ…姫花のヘイトが俺と撫子をおちょくることじゃなくて、未来に触れることに向いたので、そこは良しとしよう。

しかしなぁ……………………すげぇ気まずい!?

「あ、あの…露草くん? やっぱり…気まずい…よね…」

「そ、そうだな…なんていうか、昨日の今日だから…」

「う、うん…」

これが今の撫子と俺の距離である。

でも…そんなものは……


これから縮めていけばいい。


「……昨日は言えなかったけどさ…その……ね…」

何故かは分からなかった。

だけど、彼女が言いたいことを俺は何となく分かっていた。

きっと、俺も同じことを思っていたから…なのだろうか?

「友達として…一人の知り合いとして…まずは今の撫子のこともっと知りたい」

「あっ……」

撫子は驚いたような表情をしつつも、嬉しそうな口調で言った。

「うんっ! 私も同じこと考えてた! 露草くんのこと、もっと知りたい……その……不束者ですが…これからよろしくね!」

「お、おう…」

「…………?」

やけに歯切れの悪い、俺の返事を聞いて、撫子は首を傾げていた。

「あの…撫子? それは…結婚する時に言うような言葉では……」

「えっ……ええ!? ご、ごめん! そ、そうだよね!」

ぼふっと、沸騰して湯気を出すヤカンのように、真っ赤になる撫子。

「ま、まぁ…ビジネスでも使うことはあるし…。でも、正直に言う…俺、下心丸出しだから…そういう風に聞こえた…ごめん…」

「ううん。露草くんの気持ち…知ってるから。謝らないで?」

その発言、俺の精神に大ダメージなんですが…。

私を好きなことは知ってるから。

要約するとつまりこういうことだ。

うん…死にたい。

「分かった。そう言ってくれると、俺も助かる」

「うんっ! 改めて、これからよろしくね!」

「こちらこそ」

あぁ…これからまた…新たな物語が…。

なんて考えに浸っていると…。

「ぎゃぁぁぁぁ!? お兄ちゃん!?」

未来が怯えながら、抱きついてくる。

「お、おい! ど、どうした!?」

「え、えっと…あれ…」

そう言って、目の前にいる姫花の方を指さす。

よく見ると、姫花は顔を真っ青にして、口を抑えながら、ぷるぷる震えている。

「…………おい、まさかな」

「うっ……」

気がつくと、時すでに遅し。


「おい姫花!?」

「姫花ちゃん!?」

「うわぁ!? き、キラキラだぁ!?」


何が起きたのかは言うまでもないだろう。

いや姫花…お前は最後の最後で…


ゲロイン属性を追加するんだな!?

さっきから上がりまくってた、お前の株、だだ下がりだぞ!?


結局、その後、俺は泥酔した姫花を、いつものように介抱したのだった。

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