第45話 幕間 とある少女の記憶。

きっと、今日この思いを伝えなければ、私は一生、伝えることができないと思う。

これから何年と続いていく人生の中で、このようなタイミングは二度と来ることがないって私自身、分かってる。

でも…ここしばらく、私は露草くんに避けられていた。

だから怖かった…。

最後のチャンスかもしれない。

だけど怖い…。

振られた時のこと…そもそも呼び出して話すことすら断られたら…。

そう思うと私は……

「私、なんかに告白されても…きっと露草くんも困るだけだよね」

そう言い訳をつけて。

自分の思いから逃げてしまった。

「あれ…?」

式が終わり、最後の下校直前。

私は机の中に一つの小さな箱を見つけた。

「なんだろう…これ……」

帰ってから開けようと思い、私は鞄の中にゆっくりとその箱を入れた。



校門で、みんな写真を取ったり、寄せ書きを書きあったり。

最後の思い出を作っていた。

私はと言うと、きょろきょろと辺りを見渡す。

「やっぱり…もう帰っちゃったのかな……」

せめて…告白はできなかったとしても…。

最後のお別れくらいは言いたかったな…。

「あっ……文月くん!」

「あれ? 撫子さんどうしたの?」

「えっと……露草くんってどこにいるかな? や、やっぱり…もう帰っちゃった?」

「あ~。あいつならもう帰ったよ」

「あっ………そ、そうなんだ…」

やっぱりもう遅かったんだ…。

少しでも私と話してくれるかな…なんて…馬鹿だよ…私。

あんだけ避けられてたんだから…きっと私のこと…。

「何か用があるなら、奏人に言っておくけど」

「ううん、そんな大したことじゃないから大丈夫だよ…それじゃ…」

そう言って、私は涙を堪えながら、学校を出たのだった。



「うっ…私の馬鹿っ……ぐすっ…今さらになって…後悔するなんて…」

どこで間違ってしまったのだろう。

明らかに、露草くんが私を避け始めたのは、あのクリスマスの日。

呼び出されて、気がついたら露草くんがいきなり帰って…。

私は何が起こったのか、よく分からなくて…。

「やっぱり…私が……何かしちゃったのかな…」

きっと、知らないうちに露草くんに悪いことをしてしまったのかもしれない。

「あっ…そういえば……」

涙を拭って、私は鞄を開く。

「この小さな箱………あっ…」

開けると、中には綺麗な鴇羽色のヘアピンが……。

そして、その上には一枚のメモ用紙。

『ごめんなさい。撫子は悪くないんだ。避けるようになったのも、全部俺が勝手にやったことだから…。本当にごめんなさい。』

「………それはないよ」

こんなにも、誰かを憎いと思ったことは始めてだった。

それくらい、その時、私は露草くんに対して怒りを覚えていた。

「そんな思い…いらないよ……」

きっと、私に悪いことをしたと思って謝ってくれたのだろう。

だけど、ごめんなさいなんて言葉はいらなかった。

私が欲しかったのは……


「露草くんの………馬鹿……」

こんなにも私の心をかき乱した露草くんのこと。

多分、私は一生忘れることはないと思う。

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