第42話 現在編パート8 言葉にできなかった思い その1

共感性羞恥たっぷりの告白を終えた翌日。

思いもよらないことが起きた。


「噓…だろ……」

携帯の画面を見ながら、俺は驚愕する。

その理由はいたってシンプル。

『いきなり連絡しちゃったけど、大丈夫かな? ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…』

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

何故に!?

どうして撫子から連絡がくるんだよォォォォォォ!?

嬉しいけど、そっとしておいて欲しい感がある、この微妙な感じはなんだろうか?

「お、落ち着け…お、俺よ…落ち着くんだ…」

もしかしたら、未来みたいに、『トマトって、反対から読んでもトマトなんだよっ!?』なんて言う、くだらない内容かもしれない。

そう思った直後……


『今日の夜…少しだけ会えないかな?』


「…………」

うん…まぁ、トマトなわけないよね。

分かってたけどさ…。

いや、今、触れないといけないのは、そこじゃない…。

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

どうしてだ!?

何故俺は呼び出されている!?

何か言い忘れたことがあるのだろうか?

『ぜ、是非とも…お願いします……』


この時の俺は気がついていなかった。

全てが解決したような気持ちになっていたのは、自分が言いたいことを言ったから。

そう…つまり…


俺だけ勝手に満足していたのだ。



「まさかこの年になってここに来ることになるなんてな…」

午後十時。

俺の目の前には、懐かしの母校が。

「あっ…露草くん! ごめんね、待たせちゃったみたいで…」

学校に視線を取られていると、背後から声がする。

振り向くとそこには、昔と雰囲気が全く変わらない撫子がいた。

「いや別に…と、というかその…喋り方…」

メッセージも敬語じゃなくなってたし、何か心境の変化でもあったんだろうか?

「えーとその…なんか敬語で話すのも、ぎこちないかなって思って…」

少し気まずそうに、撫子は言う。

「嫌…だった?」

「そ、そんなことない! う、嬉しいよ…」

「そ、そっかぁ…よかった」

ホッとしたように、微笑む撫子。

その後、くるりと一回転して、また微笑む。

「今日で…ちょうど五年経つんだよ?」

「え?」

学校を見ながら、そう言う撫子を見て、俺はすぐに理解した。

「卒業してから…」

「うん…。今の私には全く記憶にないことだけど…卒業式から五年が経ったんだって…」

「もう…そんなに経つのか…」

卒業式から五年後の今日。

今の撫子が俺を呼び出したのは、おそらく伝えたいことがあったからだろう。

「あのね…中に入らない?」

撫子から、そんな提案をされる。

「え?」

この時間帯に学校に入るのは大丈夫なのだろうか?

いや、大丈夫なわけないな。

警備員とかに見つかったら、即通報もんだと思う。

しかし、俺には何となく分かっていた。

彼女が何故、そんなことを言ったのか。

そして、断った所で、絶対に強行するということも。

昔も今も…頑固なはずだから…。

「やめといた方が…」

「ううん。私、知りたいの…自分が露草くんと思い出を作った場所を…」

やっぱりだった。

想像通りの返答を聞き、俺は何も言わずに校門をよじ登る。

「んしょっと…」

「あっ…露草くん…」

「ほら、撫子も早く…」

「う、うん…」

そのまま俺達は、夜の学校へと侵入した。

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