第39話 現在編パート7 再会 その6

互いに顔色を伺って、相手のことばっかり考えて。

行動もしないのに、マイナスなことばっかり考えて。

奥手同士の恋愛は結局、どっちかが一歩踏み出すしかないのだろう。

今となっては遅いが、謝ることはしなくてはいけない。

それが俺の過去のケジメであり、彼女の思いに対する敬意である。


ピンポーンと、インターホンを鳴らす。

ピンポーン。

ピンポ、ピンポ、ピンポ、ピンポーン!

「ちょっ、あんた、連打しすぎでしょ!」

「いや、だって…もう俺は迷惑だろうが、なんだろうが、撫子に思いを伝えるから」

「はぁ…一応、成長したってことにしておいてあげるわ…」

しばらくすると、撫子が顔を出す。

ちなみにだが、当然のようにアポは取っていない。

「え、ええっと…そ、そそそ…その……」

明らかに動揺していた。

そりゃそうだ。

ほとんど知らない人が夜、いきなり家にやって来たのだ。

誰だって、困惑するだろう。

「ど、どうかしましたか?」

「はっきりと言います…撫子鴇羽さん…」

「は、はい!」


「好きでした」


「え、えぇ…ええええええええええええ!?」

あたふたしながら、視線を右往左往。

どうすればいいのか、分からないで困惑している様子。

「あと、あの時はごめんなさい。これを言いたかっただけです」

「い、いや…その……私…え、えと…え~と……」

何をどうすればいいのか、困っている撫子。

正直言うと、俺も勢いでここまで来たから、どうすればいいのか分からない。

「あ、あの…立ち話もなんですから…ど、どうぞ…」

とりあえず、言われるまま、俺と姫花は撫子宅にお邪魔した。




撫子宅はいかにも一人暮らしのアパートで、六畳のワンルームだった。

「お、おお…お茶です…」

「ど、どうも…」

気まずい空気が流れている。

でも、そんなことは百も承知。

この程度で、負けていたら、いつまで経っても思いは伝わらない。

「撫子…さん…え、えと…」

「は、はい! なんでしょうか?」

「その…そこにいる姫花から聞いたんですが…記憶をその…」

「あっ…はい…ごめんなさい…」

明らかに、撫子の表情が暗くなる。

「あ、謝らないでください…その……俺が言いたいのはそういうことじゃなくて…」

見逃さなかった。

撫子の手が震えていたことを。


「今の撫子さんと…昔の鴇羽は別人だから…その、昔の自分に縛られないで欲しいっていうか…」


「えっ…?」

撫子は驚いたように目を見開く。

「もう昔の鴇羽はいないわけですし…撫子さんは、今の撫子さんとして、自分が好きなように生きていいんだよって言いたくて…えっと…」

言葉が上手くまとまらない。

とりあえず、言いたいと思ったことを、次々と吐き出していく。

「…そうですよね…」

「あの…俺のこと、まったく知らないだろうし、正直、あんまり関わりたくないのは知ってます…でも…過去の自分のことを思って、色々悩んだり…してますよね?」

「…………はい…」

なんか誘導尋問みたいになっているが、まぁいいだろう。

ここで大切なのは、今の撫子に噓偽りない気持ちを言わせることだ。

「こないだ、俺が変に誘っちゃってごめんなさい…」

「い、いえ…私が悪いんです…」

「そんなことないです!」

「え、えぇ…そ、そうですか?」

「俺が全部悪いんです! だから、言わせてください。本当にごめんなさい!」

俺はその場で土下座した。

「そ、そんな何回も謝らないでください…」

困ったように、あたふたしている撫子。

「いえ、今のは、今の撫子さんに対する謝罪です。さっきのは、過去の鴇羽への謝罪であって、別物です」

そう言うとさっきまで、気まずそうにしていた撫子に、笑みが零れる。

「ふふっ…なんですかそれ…」

「それでいいんです! そうやって笑ってさえいてくれれば…」

「えっ……?」

「撫子さんは自分を大切にしてください! 偉そうに俺が言えることじゃないですけど、今生きてるのはあなた自身なんだから!」

「…………は、はいっ!」

少し間があった後、撫子は強い返事をする。

「では…そ、そんな感じで…」

もう言いたいことがなくなったので、俺はその場を後にしようと玄関へ向かう。

「あっ…は、はい!」

靴を履き、撫子宅を出る。

しかし、ふと頭の中に言葉が浮かんだので、撫子に言う。

「あっ……その……最後になんですけど…」

「は、はい…なんでしょうか…」

「もし、夢の中で、鴇羽に会ったら、言ってください。露草奏人は生涯、ずっと鴇羽のことが…異性として好きだって…」

「はい!」

「そ、それじゃ…また……」

そう言って、そそくさと玄関の扉を閉める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る