第38話 現在編パート7 再会 その5

あれから二十分ほどが経った。

三月も中旬に差し掛かる。

夜桜舞う、並木道近くの公園。

「少しは落ち着いた?」

「あぁ…悪い……迷惑かけた」

結局、ディナーを食べる所ではなくなった俺。

姫花は俺を気遣って、近くの公園に行くことを提案してくれた。

お店の中で泣きじゃくるのは恥ずかしいよな…。

「姫花…俺、これからどうすればいいと思う?」

「ん~そうね…」

「今さら告白とかさ…撫子に迷惑かけちゃうから……せめて謝りたいって思うんだよ…」

「うん、それでいいんじゃない……って言いたいところなんだけど…」

姫花は気まずそうに、こちらの顔色を伺ってくる。

「ど、どうした? もしかして、まだ何かあるのか…」

俺、これ以上何か言われたら、死んでしまいそうなんだが…。

ただでさえ、大人のくせにレストランで号泣し、過去の自分の行動が過ちだったということを理解した状況なのに…。

「本当にね…最初から言っておけばよかったんだけど…」

すごく嫌な予感がする。

「言ってもいい?」

正直言うと聞きたくない。

しかしながら…

「聞く。聞かなきゃ始まらないし…」

「じゃ、じゃあその…驚かないで聞いて欲しいんだけど…」

本日二回目の、驚かないで聞いて欲しいんだけど、である。

「二年前にね…鴇羽、交通事故に遭って…」

「ええ!? 事故!?」

思っていた以上に、イレギュラーな内容が来て、あっけに取られてしまう。

「それで…頭を強く強打したらしくて…まぁ、でも生きてるから命に別状はなかったんだけど…その……簡単に言うと……」

簡単な話なのに。

受け入れるにはあまりに難しかった。


「記憶喪失らしいんだよね…」


「へ?」

本日二回目の、素っ頓狂な声、である。

「………」

「………」

無言で俺と姫花は顔を見合わせる。

言われてみれば、あの時、やけによそよそしいっていうか…。

まるで初対面みたいな感じだったっていうか……。

「ははっ…あはははははっ!」

突如として、なんだか笑いがこみ上げてくる。

「ちょっ、大丈夫! とうとう頭おかしくなった!?」

「い、いや…違うんだよ…」

微笑みながら、俺は姫花にそう返す。

「もし神様がいるとしたら、とんでもねぇイタズラされてるなって…もうあまりにも、色々と噛み合いすぎてて、笑えてきただけだ…」

「まぁ…私からは気の毒に…としか言えないわよ…」

「いや、ただ気の毒なだけでもないぞ。ここ最近の起きたこと、全ての理由がはっきりと分かった…」

「理由?」

「俺、撫子に会わない?って誘ったら、丁重に断られたんだけど、それってほぼ初対面の俺と気まずいってことだろ?」

「まぁ…そうでしょうね…。多分、記憶がある時だったら、喜んで受けたと思うわよ」

「いや、別に喜びはしないかもしれない…。だって、俺のこともう何とも思ってないかもしれなかったし…」

「ううん、ずっと好きだったらしいわよ? 高校卒業してからも」

「まじ? それは死ぬほど嬉しいわ。まぁ、それを知ったところで、どうにもならないんだけど…」

「そうね…」

「とりあえず、今の俺がやらないといけないことが分かった」

俺は立ち上がり、拳を握る。

「え?」

「撫子はさ…昔から優しいだろ?」

「うん…まぁ…」

「だから、過去の自分のこと…大切にしたいと思ってるんだよ…まぁ、ただの憶測なんだけど…」

「どういうこと?」

「俺…きっと余計なことしたんだと思う。俺の誘い断ったこと…撫子はきっと気にしてる」

「自意識過剰?」

若干や、引き気味で姫花はそう言う。

「違うわ! 撫子はそういう人間だろ? 今の自分からすれば、ただの他人なのに、昔の自分のことを気遣って…絶対、悩んでる」

「まぁそれはあるかもしれないけど…」

「これを見てくれ……」

そう言って俺は、姫花に撫子とのメッセージ画面を見せる。


『本当にごめんなさい』


『私が悪いだけだから…露草くんは気にしないでください』


「何回もこないだのこと、謝られてたんだよ…これの真意も今なら分かる」

「そう…で、あんたはどうするわけ?」

「決まってんだろ?」

すぅ…と息を吸って、深く呼吸をする。

もはや今の俺に、羞恥心などない。

相手に迷惑をかけるかもしれないなどというマイナスな思考もない。

泣いて、喚いて、ヤケクソに笑って…姫花が優しくしてくれたから…。


「家凸だ!」

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