第37話 現在編パート7 再会 その4
撫子と再会してから、一週間が経ったある日のこと。
「だ、大丈夫? 今日のあんた、顔が死んでるんだけど…」
また例の母親繋がりで、俺と姫花は一緒にディナーを食べていた。
しかし、前回と違うことがある。
それは二人っきりという点だ。
まぁ、今さらそんなことは、どうでもいいんだけど。
「いや、別に…」
「その表情は何かあったって、言ってるようなもんでしょ!」
「…………あったけど」
「やっぱり…」
撫子に断られたこと。
だけど、諦めきれない。
そんな自分自身に嫌気が刺していた。
ここ数日、ろくに眠れていない。
「あの…私でよければ相談のるわよ?」
心底、心配そうに姫花がそう言ってくる。
本当にこいつは、いい奴だな…。
「いやでも…キモイだけだし…」
「キモイって何!?」
「相談事がキモイから…」
ボソボソと呟く俺に、姫花は呆れたような表情を向けてくる。
「はぁ…あんたね。今さらそんなことどうでもいいわよ。いいから言いなさい? 何もできないかもしれないけど、人に言うだけでも、楽になったりするものよ?」
「…………そう…だな」
「はぁ…本当に今日のあんた、生気がないわね…」
そう言われ、せめて姿勢だけは正そうと、少し座り方を変える。
「あのさ…前に言った、告白しようとして撃沈した話…」
「うん…覚えてるわよ。それがどうしたの?」
「あの相手さ…撫子なんだよね…。それで再会しちゃったから、ずっと頭の中から離れなくて…。吹っ切れたと思ってたんだけど…。忘れたくても忘れられなくて…」
「ふ~ん…鴇羽のこと好きだったんだ……………え?」
姫花の表情が、真っ青にぷるぷる震えている。
やっぱり引くほどキモかったんだろうか…。
「あ、ああ、あんた…それ……」
「すまん…キモいよな…。しかも自分の従姉妹だもんな…」
「そ、そういうことじゃなくて…」
やけに余裕がなさそうな反応の姫花。
「え? じゃあどういう…」
「お、驚かないで聞いて欲しいんだけど……」
「おう…」
姫花は本当に困ったというような絶妙な表情で言った。
「あんたそれ…両想いだったわよ…」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れてしまう。
「リョウオモイ? 何それ、新種の生物?」
「んなわけないでしょ!」
「だ、だよな…すまん…」
人間、本当に驚いたときは、大声で叫ぶなんてことはできず、ただただ静かになるしかないというのは、このことか…と今理解した。
「鴇羽が言ってたのよ。学生時代好きだった人って…」
「ま、まじ?」
冷や汗がダラダラと出てくる。
「まじよ…」
「う、噓だろ…」
あまりのショックで俺は、ぽつぽつと涙が出てくる。
「ちょっと、大丈夫!?」
「す、すまん…なんか悔しくて…あの時…俺が…ちゃんと言葉にしてたら…」
「気持ちは分かるけど…」
「だって…両想いだったってことはさ…俺、自分が思っている以上に…自分以上に…撫子のこと…鴇羽のこと傷付けたってこと…だろ……」
俺の瞳から溢れる涙は止まることを知らないように、次々と流れ続ける。
「あの時俺が勝手に…思い込んだせいで…ちゃんと言葉にしてたら…もっと上手くいって…勇気があったら…もっといい未来が待って…」
「…………」
姫花はそっと何も言わずに、ただただ俺のことを見ている。
「心のどこかで自分が不幸だって…実らなかったから不幸だって…そんなこと思ってた……でも全部…全部……」
答えは簡単だった。
最初から、知っていた。
だからこそ、口にした。
「……俺のせいじゃねぇか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます