第33話 現在編パート6 恋愛観 その4

静香ちゃんを別室で寝かせた後。

再び、俺と姫花二人になる。

「で、進んだのか?」

ダイニングの椅子に向かい合うようにして、座る俺と姫花。

「う~ん、まぁ、そこそこ」

「そうか。それは良かった」

「あんたの方は?」

「いや、別に…普通に楽しく遊んでたけど…」

「そう…」

「なんか、普通に子供が欲しくなった」

「可愛いから?」

「もちろん。他人の子供でもあんなに可愛いのに、自分に娘とかがいたら、可愛すぎて死ぬだろうなって」

「ふ~ん…じゃあ、あんた結婚願望とかあるの?」

「結婚願望か…あんまり考えたこともなかったな」

「じゃあ、今考えてみて」

「唐突だな…」

結婚かぁ…。

そろそろ早い同級生とかはしているものなんだろうか?

ってか、そもそも結婚以前に、恋人すら出来た事ないから。

そりゃ、結婚について考えたことないのも当然だよな。

「恋人すら出来たことないのに、結婚なんて考えにまずならない」

「うん、その気持ち、すごく分かるわ」

「「…………」」

口には出さなかったが、今、姫花も同じことを思っているだろう。

自分で言ってて、虚しくなってきた…と。

「そ、その…なんかないの?」

お葬式ムードを振り払うように、姫花が口を開く。

「なんかって?」

「ほら、た、例えば…学生の時に告白された…とか」

「あると思うか?」

「ごめん、聞いた私が馬鹿だった…」

「まぁ…告白しようとしたことならあるけど」

「え? まじ?」

「…………」

やべぇ、ついついノリで言ってしまったが、いざ箱開けると勝手に自滅した痛い男の話なんだよな…。

「それ…詳しく」

「い、いや…そんな話すようなことじゃない…」

「いいから、言いなさい」

「嫌だ」

あんまり思い出したくもないしな。

俺は何があっても、話さないぞ。

「じゃあ、話してくれたら、茜たんの抱き枕カバーあげる」

「よし分かった、話そう」

俺の馬鹿。物で簡単に釣られんなよ…。

「高校三年生の時なんだけどさ。修学旅行の班が一緒になって仲良くなった女子がいたんだ。その子にクリスマスの日、告白しようと思って…でも、告白する前に好きな人がいるって知って、こっちから呼んだのに、何も言わずに帰ったっていう…くそダサい思い出だ」

「確かにそれはダサいわね」

「だろ? 今でも、当時の自分を殴りたい」

「勝ち筋はどれくらいあったの?」

「え? いやゼロだろ」

「ゼロ? 例えば、その好きな相手の好きな人が自分である可能性って考えた?」

「いや、まったく…」

「あんたがそう思うってことは、勝ち筋はほぼなかったのね」

「まぁな。でも、大人になってから思うのはさ、ちゃんと思いを伝えとくべきだったのかなって…」

「そう思う理由は?」

「その日を境にさ、俺、彼女のことを明らかに避けるようになっちゃって。向こうからすれば、一緒に帰ったり、勉強したりする仲のクラスメイトがいきなり自分のことを避け始めて…すごく感じ悪かったと思う。まだ告白して撃沈してた方がいい関係を築けてたかなって…」

「へぇ……って、え? 一緒に帰ったり、勉強したり?」

「いや、言いたいことは分かる。だけど、なんかこう、クラスメイトとして、仲が良かっただけなんだよ…だから友情というか…愛情にはならない感じの…」

「それ本当?」

「え?」

「それって、いつも二人っきりだった?」

「まぁ、二人っきりだったな」

「…………勝ち筋ありまくりじゃない」

「へ?」

思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

「いい? 男女の友情は小学生まで。中学上がってから、男子と二人きりでそんなことするなんて、あんたに気があるか、ビッチかのどっちかよ? ちなみに、あんた以外とは、そういうことしてたの?」

「う~ん。でも、よくよく考えれば、俺以外と二人っきりでいるのって見たことないかも…」

「そう…まぁ、真実は闇の中だけどね」

「そうだな、今となっては確認のしようもないしな」

「「…………」」

少しの間、沈黙が走る。

きっと、俺が暗い表情で話していたからだろう。

無意識のうちに、この話をする時はなぜか重くなってしまう。

被害者ヅラすんなよ俺…気持ち悪い…。

「あのさ…やっぱり心残りなの?」

「まぁな。さっき言った通りだよ……。本当、もう少し勇気があればな、間違えなかったかもしれないのに…」

「ふ~ん…そう思うんだ」

「え?」

「別に間違えじゃなかったんじゃない? どう選んでも、人の人生なんて、やり直せないんだし。今選んだ選択肢がきっと、あんたの人生の正解なのよ…だから間違えも何もないと思うんだけど…」

「…………」

いつになく、真剣なことを言うな…。

ちょっと、胸に刺さったじゃん…。

「まぁ、それにあんたのメンタルが死んでたかもしれないしね」

「確かにそうだな。振られてたら、立ち直れなかったかもしれないし」

「うん…。過去のことは忘れて、これからの出会いに期待したら?」

「ああ」

きっと姫花なりに、気を遣って言ってくれたんだろう。

「姫花?」

「何?」

「ありがとう」

「何よ、いきなり気持ち悪い」

「いや、最近さ、やけに昔のことを思い出して縛られてたっていうか…過去を思い返しすぎてた気がしたから…おかげで吹っ切れた気がするんだよ」

「あんた…未だに学生時代好きだった子を追いかけてたなんて、最高に気持ち悪いわね」

「自覚はしている」

本当に姫花の言う通りだ。

思いすら、言葉にしなかったくせして、何を今さら……って俺も思う。

だけど……

「それも今日で終わりだ。もう俺は綺麗さっぱり忘れる」

「はいはい、じゃあ彼女でも作ってきたら?」

「茜たんがいるんで、今は彼女なんていらないな」

普通なら、ここで気持ち悪いと罵られそうだが…。

梔子姫花という人間は違った。

姫花は笑顔で、心底嬉しそうに言う。

「うん、あんた最高ね!」

本当に、その言葉をそっくりそのまま、返してやりたいよ…。

キモイだろうからしないけど。

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