第32話 現在編パート6 恋愛観 その3

翌日の夜。

「ちょっと緊張してきたな…」

先ほど、マンションの下に着いたという姪っ子を迎えに行った姫花。

しばらくして、玄関の扉が開く。

「ほら、静香。今日は私だけじゃないわよ」

「んぇ? 姫花お姉ちゃん以外に誰かいるの?」

「こんにちは」

俺と目が合うと、すぐに姫花の後ろに隠れてしまう。

「こ、こんにちは…」

姫花の後ろから怯えるように、ちらりと顔を覗かせる。

緑色の瞳が俺の顔を恐る恐る見つめてくる。

「えっと…俺は露草奏人、姫花お姉ちゃんの友達なんだ」

しゃがみ込み、目線を合わせる。

「お姉ちゃんのお友達?」

水色のショートヘアをたなびかせて、首を傾げる。

「そうだよ。今日は一緒に遊ぼうね?」

「うん…白見静香です…よろしいお願いします」

ぺこりとお辞儀をされる。

礼儀正しい子だ…姫花と血が繋がってるなんて、信じられないな。

「ねぇ、今一瞬だけ、私のこと見てたけど、絶対失礼なこと考えてたわよね?」

「静香ちゃん、リビングで一緒に遊ぼう?」

コクリと頷き、ゆっくりと靴を脱いで、家に上がっていく。

「ねぇ、絶対に私に失礼なこと考えてたわよね!?」

騒いでる姫花は無視して、静香ちゃんとリビングのソファに座る。

「静香ちゃんは普段、どんなことして遊んでるの?」

「う~んとね…おままごととか、絵本読んだり…あっ、あとはお母さんのお手伝いしてる!」

可愛い。

お母さんのお手伝いは遊びではない気がするが。

「ねぇ、私のこと無視しないでよ!」

「あれ、なんだいたのか姫花」

「ここ私の家なんだけど!?」

「姫花お姉ちゃん? 怒ってるの?」

声を荒げる姫花に恐怖の眼差しを向ける静香ちゃん。

「ほら姫花? 静香ちゃんが怖がってるから、あっち行けよ」

「なんでよ! というか、答えをまだ聞いてないんだけど」

「何言ってんだよ。そんなの決まってるだろ? こんな静香ちゃんみたいな大人しくて、可愛い子と姫花が、血繋がってるなんて信じられないと思っただけだ」

「……殺す」

そう言って、どっか別の部屋へと消える姫花。

「え? あの…ちょっと、姫花さん…?」

ドストレートな殺害予告に血の気が引いていく。

「か、可愛い……」

姫花は一旦、置いておいて。

なんか静香ちゃんが顔赤くして、もじもじしてるけど、どうしたんだろうか?

「静香ちゃん、大丈夫?」

「あ、あの…奏人お兄ちゃんは…静香のこと好き…なの?」

「えっ…好きだよ?」

こんなに純白で、礼儀正しい子は誰でも一瞬で好きになるだろう。

「じゃあ静香も奏人お兄ちゃんのこと好き~」

そう言って、隣に座っている俺にギュッと抱きついてくる静香ちゃん。

「お兄ちゃん好き~」

「ん~、よしよし」

何となく頭を撫でてあげる。

「奏~人~く~ん。殺しましょ~♪」

なんて言いながら、笑顔でこっちに戻ってくる姫花。

その手には、木刀が。

「姫花、何それ? 修学旅行で調子乗って買ったやつ?」

「えっ、なんで分かったの?」

あっけに取られたように、驚く姫花。

いや当たってんのかよ。

木刀買うタイプの人間だったのか…。

「で、そんな物持って来てどうしたんだ?」

「チャンバラしようと思って。あんたは素手ね」

「姫花、それ本気で俺のこと殺そうとしてるね!?」

そんな姫花は、今の俺の状況を見て、目を丸くさせる。

「ん!? ちょっと、あんた、静香と何してんのよ!?」

「何って…抱きつかれてる」

「…………そこ私に譲りなさい」

怖え、目が怖えよ!

ヤンデレみたいに、真っ黒な瞳してるんだが…。

「おまっ! あっち行け! そんな恐ろしい瞳をした女に静香ちゃんの隣を譲れるか!」

「…………殺す」

あっ、これマジなやつだ。

「姫花お姉ちゃん? 怖いことしちゃ、めっだよ!」

立ち上がって、姫花にそう言う静香ちゃん。

姫花…二十七歳のくせして、七歳の子に正論言われるのか…。

「………可愛い!?」

そう言って、静香ちゃんに抱きつきに行く、姫花。

静香ちゃんは驚き、怖がって俺の元に戻ってくる。

「なんでよ~!?」

「ひ、姫花お姉ちゃん…怖い…」

「ほーら、よしよし。姫花お姉ちゃん怖かったね…」

そう言って、怯えてる静香ちゃんの頭をまた撫でてあげる。

「えへへ~」

「うぅ…どうしてあんたばっかり……変態」

「おい、なんで俺が変態なんだよ」

「ロリ美少女に抱きついて…変態」

「姪っ子のことをロリって言うな。ってかそもそも、姫花みたいにそういう目で見てないし」

「はぁ!? あんたそれでも大人なの!?」

「ロリコンの価値観押し付けんなっ!?」

「信じられない…」

驚愕の視線を向けられるが、向けたいのは俺の方である。

「ほら、姫花は自分の部屋でシナリオでも書いてろ。しっしっ」

そう言いながら、手でしっしっとすると。

それを真似して、静香ちゃんも同じことをしてくる。

「姫花お姉ちゃんはあっち行ってて。しっしっ…だよ」

「静香までぇ…なんでよぉ~!?」

この後、俺は静香ちゃんと二人で仲良くゲームをしていた。

姫花はというと、自室に籠り、ずっとシナリオを書いていた。



しばらくすると静香ちゃんが何も喋らなくなった。

「ん? 静香ちゃん? ………って、寝ちゃったのか」

ちょうど、そのタイミングで姫花が部屋から出てくる。

「あっ、姫花?」

「何? どうせ私はあっち行けですよ」

どうやら、さっきのことをまだ拗ねている様子。

「一々、根に持つなよ。静香ちゃんが寝ちゃったんだけど、ベッドか……」

そこまで言いかけた時に、ふと姫花宅のベッドを思い出す。

あっ、これは教育に悪い奴だわ…。

「ちょっと待ちなさいよ! もう一つ部屋があるから! そこに敷布団敷けば大丈夫でしょ!?」

「すごいな、何も言ってないのに、伝わった」

「あんたの顔見てれば分かるわよ。それに静香みたいな子は純白だからいいのよ。安易に汚したくないわ」

一見まともなこと言ってるように聞こえるが、冷静になると、とんでもねぇ変態だってなるな。

安易に汚したくないってのが、もう色々とやべぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る