第31話 現在編パート6 恋愛観 その2
あれから数分後、喋り疲れた姫花が少し大人しくなる。
「はぁ…疲れたぁ~」
「そりゃ、あんだけ語れば疲れるだろ。というか、意外だったんだが。茜たんみたいなのがタイプだと勝手に思ってた…」
「私、美少女でも美女でも、可愛ければ何でもいけるから」
「うわぁ…」
こいつは、自分もその類に入るということを理解しているのだろうか。
まぁ、それを言ったら、話がややこしくなるので、特に言わないが。
「はぁ…未来ちゃんが私のお世話に来てくれないかな~」
「お世話?」
「あ~。その…恥ずかしい話なんだけど、私、家事とか全くできなくて」
「そうか?」
姫花の家は家事ができないと言うわりには、綺麗に整頓されていて、片付いている気がする。
「うん。従姉妹が、わりと近くに住んでるんだけどね…。一週間に一回くらいの頻度で家の片付けしてくれるんだよね」
「……」
あまりの大人とは思えない発言に黙ってしまう。
「言いたいことは分かるけどさ!?」
「まぁ、未来も家事できないから…。多分、姫花の方がマシだぞ?」
「え? 例えば、どんな感じなの?」
「米を洗剤でとぐ」
「何そのくそ可愛いテンプレ」
「掃除機とバトルを繰り広げる」
「どういうこと!?」
「なんか掃除機かけようとしたら、思いっきり掃除機に指をぶつけたらしくて、永遠と掃除せずに掃除機に向かって、馬鹿だの、おたんこなすだの、私より身長低いだの、口論してた」
「何それ可愛すぎて私、死ぬんだけど」
いや待て…掃除機と口論する高校三年生だぞ?
リアルにキチガイだろ……。
「もうただいてくれるだけでもいいわよ……。というわけで、未来ちゃんの連絡先教えなさい?」
「いや、教えるわけないだろ」
「何でよ~!」
唇を尖らせて、不服と言ったご様子。
「というか、私、あんたの連絡先知らない」
「俺の連絡先なんて、自分で言うのも何だが、夏場の暖房くらい役に立たないぞ」
「それはやばいわね。死ぬほど役立たずじゃない」
何故だろうか。自分で自虐しておいてあれだが……
こいつにこう言われると、イラッとするな。
「とりあえず教えなさい? 連絡を取ることなんて、あんまりないと思うけど、一応ね」
「まぁ、そうだな。もう赤の他人って感じでもないしな」
そのままお互いにスマホを取り出して、連絡先を交換する。
「………」
「何よ…その顔は…」
表示された、姫花のプロフィールに俺は思わず黙ってしまう。
「いや……これは流石に…」
名前 茜たんマジ天使
ステータスメッセージ エロゲは人生。最近の推しはもちろん、であいろの茜! 可愛い所をあげると…まず自分の年齢を気にしてる所が可愛い。たまに見せる子供っぽい一面もヤバい―
などと、永遠に茜の可愛さについて記載されていた。
「長すぎるし…痛いな…」
「それ…合コンでいきなりエロゲについて語りだすあんたに、言われたくないんだけど…」
「……」
どうしよう、何も反論できない!?
「すまん…お相子ってことで許してくれ」
「よろしい。私の心は寛大だから許してあげるわ」
どうやら、許してもらえたようだ。
痛いなんて言って、マジすいません。
「って、やばっ、もう十一時じゃん!」
時計をチラッと確認した、姫花が焦りだす。
何か予定でもあるのだろうか。
そろそろ帰った方がよさそうだ。
「えっと…あんまり長居してもあれだし、そろそろ帰るな」
このまま居続けても、特に用事はないしな。
「はぁ…明日はあれだしなぁ…」
どうやら、何か考え事をしていて、俺の声は聞こえていない様子。
「姫花~、そろそろ帰るな」
「あっ、うん…って、ああ! そうだ!」
何かを思いついたように、俺の顔を見てくる。
「ど、どうした?」
「あんた……明日って空いてる?」
「明日? まぁ、別に暇だけど」
「そ、そう……」
うん、これは面倒事を押し付けられそうな予感。
「それじゃ、また……」
「ストップ」
「おい、何すんだ離せ」
立ち去ろうとする俺の腕を姫花が掴んで離さない。
「あんた明日空いてるのよね?」
「急用を思い出した」
「絶対に噓よね!?」
もちろん、噓である。
明日はバイトもないので、溜まっている積みゲーを消化するか、家の掃除をするかで迷っていた。
「あのさ…私、新作のシナリオ、没くらったから書き直さないといけないんだけどさ…」
「それで?」
「たまに、姪っ子が遊びに来るんだけどさ」
姪っ子…あぁ、おそらく掃除しに来てくれるっていう、従姉妹の娘だろう。
「明日、従姉妹夫妻が仕事の会食があるらしくて、その間、私が面倒見ることになっててさ……夜、姪っ子がうちに来るのよ」
「……うん、それで?」
「あんた面倒見てくれない?」
「…………うん、それ―姫花何言ってんの?」
「だって、しょうがないでしょ! あんたが面倒見ててくれれば、その間、私、シナリオ書けるし」
「いやいや…それは俺がどうとかじゃなくて…色々とダメだろ」
「大丈夫。あんた面倒見がよさそうだし」
「そこじゃないよね!?」
「何? ロリコンなの?」
「んなわけねぇだろ!?」
「じゃあ、何がダメなのよ?」
「従姉妹夫妻は姫花に頼んだんだろ? だから、俺みたいな知らない男が面倒見るってのはちょっと違う気がする」
その俺の言葉で、姫花は少し考えるような仕草を見せる。
「あんた…もしかして、真面目?」
「ああ、N〇Kの受信料、ちゃんと払うくらいには」
「その何とも言えない例えをしてくる辺り、不真面目よね」
「姫花が真面目って聞いてきたんだろ」
「さっきは、正論を言われた気がして」
「いやだってそうだろ? 親心を考えると……ねぇ?」
「確かに、あんたの言ってることが正しいわ…。でも別にあんた一人に任せるわけじゃないし…隙間を見て、シナリオ書くだけで…」
なんかやたら食い下がってくるな…。
「ちなみにどんな子なの?」
すごく面倒を見るのが難しい、元気の良い子なんだろうか?
それなら、やたら押し付けようとしていることにも納得がいく。
「大人しくて、可愛い子」
「何でだ!? それなら、別に問題ないだろ…」
「いやでも…シナリオが……」
ずっと見ていないといけないくらい、小さい子なんだろうか?
「何歳なんだ?」
「七歳」
「それ別に一人でお留守番出来るだろ…」
「だよね…私もそう思う。でも私の従姉妹、過保護だからさ…」
「だったら余計に俺はダメだろ…」
「でも…………」
なんかさっきからおかしい気がするんだよな。
夜だけ来るって言うんだったら、シナリオは姪っ子が帰ってから書けばいいだろう。
何も一日中、面倒を見るわけじゃないのに…。
これは……絶対に何か裏があるな。
「分かった、分かった。俺も明日来るから。でもちゃんと従姉妹夫妻の許可貰っておけよ?」
「う、うん…多分、大丈夫だと思う。今聞いてみるね?」
そう言って、スマホで連絡を取る姫花。
数秒後。
「あっ、すぐ連絡返ってきた…うん、オッケーだって」
「随分あっさりだな。なんて言ったんだ?」
「………別に普通だけど」
「なんだその間は」
気になったので、姫花のスマホを覗き見る。
私の彼氏も一緒だけど大丈夫?という一文が…。
「ちょっと! 私のスマホ、覗き見したでしょ!?」
「随分と巧妙な手口を使うんだな」
数日前知り合ったばかりの知人…というのが本当の所なのだが…。
「しょうがないでしょ! あんたがいないと私が大変なんだから!」
「あのな…さっきから思ってたけど、シナリオが理由じゃないだろ?」
「ギクッ」
「図星か…。ほら、正直に言え、なんでそこまで俺に来て欲しいんだ?」
まさか俺と一緒にいたいから?
なんて、一瞬でも考えてしまった自分を殴りたい。
「…………姪っ子が可愛すぎて…」
姫花は申し訳なさそうに、顔を下に俯かせた。
「だから? どうしたんだよ?」
「二人っきりだと…その……」
やたら歯切れの悪い返事を繰り返す姫花。
「もうはっきりと言えよ。何言われても別に俺は何とも思わないから」
「う、うん…」
そう言って、俺の顔を真っ直ぐな瞳で見てくる。
「襲っちゃいそうだから!!」
「…………」
「毎回、毎回、来るたびに可愛いすぎて、私何とかして平常心を保ってるんだけど、本当にやばいの!?」
「そういうことかよ!?」
姫花の従姉妹さん……。
多分、彼女より自分の方が安全だと思います。
もっと言うと、一人でお家にお留守番させてる方が安全だと思います。
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