第29話 過去編パートラスト 最後のチャンス その2
そして、気が付けば卒業式を迎えていた。
俺は誰とも関わることなく、いち早く家に帰る。
卒業式から、数時間後、亮が家に遊びに来る。
「なぁ、お前なんですぐ帰ったんだよ」
「あー。いや、卒業式ってさ、終わった後、みんな最後の想い出作りをするだろ?」
「まぁな、最後だからな」
「でもさ、俺、一緒に写真撮ったり、告白したり…そんな相手とかいなかったから」
「ん~。一人お前のことを探してる人がいたけどな」
「なんだそのジョーク。エイプリルフールはまだちょっと先だぞ」
「いや、撫子さんがお前のこと探してたんだよ」
「……撫子が?」
「そう。んで、何か用があるなら、俺から伝えとくけどって言ったんだけど、そんなに大切なことじゃないから大丈夫って断られてな」
「そうか…」
「お前さ…もしかすると…撫子さんのこと好きだっただろ」
「…………」
「黙るってことは…そういうことなんだよな?」
「……亮の言う通りだ」
「だったらさ…その…今からでも伝えて来いよ…」
「えっ……?」
「一時期、お前と撫子さん、ずっといちゃついてただろ? クラス内でも、噂になってたぞ、付き合ってるんじゃないか…って」
「そう…か……」
「今からでも遅くないぞ?」
亮のその言葉を聞き…思考を巡らせて、自分が今、どうするべきなのかを考える。
なんて…考えたところで、答えは出ているのに。
「ん?どうしたんだよ?」
「いや、いいんだ」
「いいって何が?」
「撫子に告白しなくて…いいんだよ」
「はぁ!? い、いやだって、このチャンス逃したら、もう一生、伝えることができないかもしれないんだぞ!?」
「分かってる……」
きっと、この今のタイミングでなければ、撫子に思いを伝えることができない。
これから何年と続いていく人生の中で、このようなタイミングは二度と来ることがないだろう。
俺が撫子に連絡をすれば、きっと彼女は優しいからいつでも、誘いに乗ってくれるだろう。
しかし、今日という日でなければ、告白することはないと思う。
卒業したクラスメイトは、気がつくと赤の他人だ。
今後、関わることはない。
だから、最後のチャンスなのは間違いなかった。
でも……
「撫子だって、俺に告白されても困るだけだろうし…それにいきなり呼び出されても迷惑なだけだろ?」
「いやでも…」
「いいんだ。俺が決めたことだから」
この思いは、言葉にせず墓まで持っていく。
俺の出した答えは変わらない。
まぁ、既に撫子には迷惑をかけてしまったが。
これ以上、関わらなければ。
これ以上、迷惑をかけることもない。
「……分かった。お前がそう言うなら、俺はもうこれ以上は言わない」
「……悪いな」
こうして、俺の初恋は幕を閉じた。
思いを伝えることのないまま。
あの時、思いを伝えていたら、もしかすると、未来が変わったかもしれない。
なんて…そんなことを思ったりしないこともないが。
きっとそれは…ただの俺の妄想でしかないから。
告白が成功していたら…という、未来を夢見る。
ただの俺の妄想だから。
本当はお別れの挨拶くらい…ちゃんと言うべきだったかもしれない。
でも……
「受け取ってくれたかな…」
ボソッと、俺はそう独り言を呟いた。
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