第27話 現在編パート5 名前 その2
「はぁ…あんたね…」
あれからしばらくして、お互い冷静になり、少し落ち着きを取り戻す。
「まぁ…正直に言っただけだ。お前はもう少し自分のことを客観視した方がいい」
「はいはい…分かったから、もうああいうのはやめてよね?」
「やめない……って、言ったらどうする?」
「セクハラで警察に突き出す」
「お前は鬼か」
「あんたの方が鬼よ」
「俺のどこが鬼なんだよ」
「あんた絶対に、無自覚で女の子落とすタイプでしょ…」
「え? それどちらかというとお前の方じゃね? 絶対、無自覚で男を落とすタイプだって」
「はい? それは絶対にあり得ないわよ」
「じゃあ、俺もあり得ないな。お前が認めないというなら、俺も認めない」
「勝手にすればいいじゃない…」
「そっちこそ…」
なんて、言った後。
二人して、顔を俯かせた。
………もしかして、梔子も同じこと思ってる…のだろうか?
いやいや、そんなことないよな。
気を抜いたら、すぐ好きになっちゃいそう……なんて、キモすぎるぞ、俺。
「お前さ…」
と、俺が話を言いかけた所に梔子が口を割って入る。
「あんた…前から、思ってたんだけどさ…私のこと、お前って言うわよね」
「言われてみれば確かにそうだな…」
「なんか私の扱い雑じゃない?」
「正直に言うと、なんかこう、異性相手なのに、お前はあんまり緊張しないっていうか…まぁ…する時もあるけど…他の異性とは違うっていうか…」
上手く言葉できないな…。
だけど、梔子相手だと、わりと気楽に会話できるのは何故だろうか。
他の異性だと、ど、どどど…みたいに陰キャパワー全開になるのに。
「……試しにさ…私のこと名前で呼んでよ…」
「え?」
「だ、だって…これからも関わることがあるかもしれないじゃない? 例えば、またお母さん同士の繋がりで…とか」
「ま、まぁ…」
「その時にずっとお前って呼ばれるよりかは…名前で呼び捨ての方がいいって言うか……梔子だとお母さんと被るし…」
「じゃあ…姫花」
「うん、しっくりくるわね」
「何だその反応。普通、異性に名前呼び捨てされたら、ちょっとくらい顔を赤くするもんだろ」
「あんたのどこにその要素があるって言うのよ」
「さっき散々、赤くしてたけどな」
「そ、それは! あんたが恥ずかしいことばっかり言うから…」
「あれはダメで、名前を呼び捨てするのはオッケーって…お前の羞恥心は何を基準で動いてるんだよ…」
「別に、呼び方を変えただけなんだから、そんなに恥ずかしがるようなことでもないでしょ?」
「姫花…」
「なに?」
「ただ呼んでみただけだ」
「っ~~~!?」
やっぱり顔を赤くするんじゃんっ!?
「お前…表情偽ってただろ…」
「そ、それは…。だって、異性に名前で呼び捨てされただけで、嬉しくなるとか、キモいじゃん…」
「だから、そういう所なんだよ!?」
「ええ!?」
これ、傍から見たら完全に痴話喧嘩だよなぁ…。
梔子……姫花相手だと、思ってることを正直に言えることが多い気がする。
やっぱり、気楽だな…。
姫花相手なら…何も言えずに逃げ出すことなんて、なかったかもしれないよな…。
忘れもしない。
雪が降った、十二月のあの日。
勝手に自分で壊して、勝手に自分で傷ついたあの日を…。
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