第26話 現在編パート5 名前 その1

梔子の自宅。

リビングにて。

「…………」

「…………」

目の前にいるのに、お互いに視線を合わせようとしない。

その理由は簡単だ。

どうすればいいのこの状況!?

って、困っているからだ。

「あの…私…」

気まずさに耐えきれなくなったのか、梔子が口を開く。

まぁ…俺も気まずい。

まさかベッドで一緒に寝て、一夜を過ごすなんて、思いもしなかったからな。

「安心してくれ…お前のはちゃんと守られたままだから」

梔子が聞きたかったであろう案件を先回りして答える。

「っ~~~!」

おそらく、俺の言いたいことはちゃんと伝わっただろう。

「その…さっきから気になってたんだけど…あんた首が真っ赤になってるけど…それどうしたの?」

「あー。これ?」

「うん…」

ジッと俺の首を見てくる梔子。

やばい、なんかちょっと恥ずかしいんだが。

「自分の力を抑制するために、首を絞め落としてた」

「どういうこと!?」

「…………いや、察してくれよ」

「いやいや!? 自分の首を絞め落とすって意味分かんないんだけどっ!?」

こいつは鬼か!?

俺に自ら説明しろ…って言うのか!?

「首を絞め落とすことにより、睡眠したわけだ」

「そういうことじゃないわよ!? それに隣で寝てたんだから、そんなこと言わなくても分かってるわよ!?」

「…………じゃあ、気絶してたわけだ」

「それ冗談っぽく聞こえるけど、冗談じゃないわよね!? 本当に気絶してたのよね!?」

「許せ、気絶する以外に方法が思いつかなかったんだ」

「だから、どういう状況なのよっ!?」

流石の俺も、物分かりが悪い梔子に少しばかりイラっとくる。

「誰のせいだと思ってんだよォォォォォォ!?」

「ええ、逆ギレ!?」

「お前が抱きついてきたんだろうが!? 離れなくて、逃げられなくて、最後、どうにもならなくなって、自分の首を絞め落として、気絶したんだよォォ!?」

「え!? ええ!?」

「お酒も入ってたし、そういう気持ちになるだろ普通! なのに、お前は…寂しくて死んじゃうだの、絶対に離さないだの、そんなこと言いながら、可愛く甘えて抱きついてくるから…まじで死ぬ気で耐えたんだよ!?」

「う、うぇええええ!? ちょ、ちょっと待って! そ、それって…つまり……」

顔を真っ赤にして、梔子は人差し指をくっ付けたり離したり。

口をもごもごしながら、何か言いたげだ。

「つまり……なんだよ?」

「わ、私のこと…その…襲いたくなった……ってことだよね?」

「…………」

「…………」

またもや訪れる、気まずい空気。

しかし、俺は学んだ。

こいつ相手に、馬鹿正直に顔を赤くするのは無意味。

ここはむしろ開き直って、オープンにいった方がいい。

ぷいっと、梔子にそっぽを向きながら、言う。

「お酒のせいです…」

「あんたも酔ってたのは分かるけど、それだけじゃないでしょ!?」

ダメだ、正直に言おうと思ったが、言葉が口から出てこなかった。

「いや…ほぼお前のせいだろ……」

「それは認めるわよ…」

「素直で結構…コケコッコ~♪」

「あんた…ふざけて誤魔化してもダメだから! それとこれとは話が別だから…正直に言いなさい!?」

やべぇ、誤魔化したのが一瞬でバレた。

これは正直に答えないといけないやつ……か。

「…………完全に襲いそうでした」

「っ~~~!?」

ってきり怒られると思っていたが、梔子の反応は以外にも静かだった。

「…………」

「あの…梔子? 黙らないでくれよ…」

「い、いやだって…そんな正直に言われたら…私…反応に困るっていうか…」

お前が言わせたんだよ!?

反応に困るのは俺の方だよ!?

「私…この歳で…男の人と付き合ったこととかないし…こんな風に…その、私のこと女性として見てくれる人なんて…周りにいなかったから…」

待て待て待て!

なんだこの空気は!?

乙女モード全開だぞ、梔子ィィィィ!?

「えっとね…素直に嬉しい…かなっ……えへへっ♪」

照れてますと言わんばかりに、自分の髪の毛をクルクルと弄る梔子。

だから何だその反応はァァァァァァァァ!?

というか…

「いや、お前…それ噓だろ?」

「え? 噓って、何が?」

「お前のこと、女性として見てるやつがいないって話」

「ううん、噓じゃないよ。だって私、魅力ないもん…」

だから、こいつは……。

自分が周りにどう客観視されているのか、理解できてないのか…。

「魅力的だから、そう言ってんだろうが!?」

「えっ……ええっ!?」

「もうこの際だから、正直に全部言ってしまうが、お前は可愛い!」

「か、可愛い!?」

「自分の年齢を少し気にしてる所もいいし、私なんかが女性なんて…笑っちゃうよね…みたいな所もいい! そこら辺にいる、自分の容姿に自信満々な痛い女共に比べるとめちゃくちゃ魅力的だ!」

「ちょ、ちょっと…」

「しかも、スタイルソフトのシナリオライターときた。こんな可愛い人がエロゲのシナリオを書いてる…っていうのがもうやばい! もちろん、作品と私情は別にするべきだから、誰が書いたからどうとか…そういうことはないんだけれども、茜ルート担当っていうのが、余計俺に刺さってるんだよっ!?」

「分かった! もう分かったから!? これ以上はやめてぇぇぇぇぇぇぇ~!?」

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