第22話 現在編パート4 お見合い その4

その日の夜。

俺は、着慣れないスーツ姿で、母さんと妹とやたらシャレオツなレストランへ。

「それで聞いてくださいよ…うちの息子ってば…」

「あら、本当? それだったら、うちの娘と絶対、相性がいいですよ…」

隣の四人がけテーブルには、お見合い相手の母親とうちの母親、そして未来が座っていた。

うちの母と相手の母親はどうやら、普段から仲がいいらしい。

さっきから、隣のテーブルの本人達は気まずそうに、黙っているのに、そんなこと気にも留めないといった感じで、ずっと母親同士が話していた。

もはやお見合いというのは建前で、本当は自分達が駄弁りたかっただけなのでは?と思うほどだった。

ちなみに、未来はというと…

「う~ん…このオムライス、美味しい~♪」

幸せそうな表情で、オムライスを頬張っていた。

そして……

「…………」

「…………」

向かいに座っている、お見合い相手と、先ほどから気まずい空気が続く。

お互いに、視線を右往左往させていた。

やっぱりここは俺から話しかけた方がいいだろう。

とりあえず…

「お前なんでここにいんの?」

「それは私が聞きたいわよ!?」




「まさか亜紀子さんの息子さんとうちの姫花が顔見知りだったとはねぇ…」

「私も、典子さんと一緒で今さっき知りましたよ…これはもう…」

「「運命ですね!」」

あれからしばらくして、俺と梔子が知り合いだったことを知ったダブル母親。

ちなみに、どこで出会ったのかと聞かれ、正直に合コンと答えることが出来なかったので、とりあえず友達の知り合いで…みたいなよくある返しをした。

これには梔子も、噓をついて乗ってくれた。

「で……ちょっと……」

「何?」

俺は、隣のテーブルの母親達に聞こえないように、梔子に耳打ちする。

「お前この状況どうすんの?」

「しょうがないでしょ、親同士が勝手に決めてきたんだから」

「だよなぁ…。しかも、めちゃくちゃ乗り気で楽しんでるし…」

「とりあえず、それとなく…仲良くなれそうですよアピールしましょう?」

「わ、分かった…」

すると…何を思ったのか、梔子は大根役者顔負けの茶番をしだす。

「ふ、ふふっ、も、もうっ、奏人くんとなら…な、ナカヨクナレソウダナ~♪」

すげぇ不自然!?

ちらりと横のテーブルに目をやる。

ふぅ…どうやら、こっちに見向きもせず、楽しく談笑しているようだ。

「お、おい…」

また隣のテーブルには聞こえないように、梔子に耳打ちする。

「な、なに?」

「いや、もっと自然な感じで頼む」

「だ、だよねぇ…私、やりながら、これは大根役者顔負けの茶番だなって思ってた…」

俺と意見が被るのやめてくれよ…。

「というかさ…そもそも、母親達、こっちのことなんてどうでもよさそうじゃないか?」

「言われてみれば…そんな気がするわね…さっきから、まるでいないみたいな扱いよね…」

「だからさ…お見合いとか、そういうこと深く考えずにさ…もっと気楽にディナーに来ただけ…みたいな気分にしないか?」

「う、うん…そうね。お互い、変に意識して気を張るのも、馬鹿らしいしね…」

「「はぁ……」」

ため息をするタイミングが被る。

すると、お互いに視線が合う。

お前も同じタイミングでため息するのかよ…と言わんばかりに。

「……よく見ると、その服、めちゃくちゃ似合ってるな…」

「えっ?」

この間は、子供っぽいというか…可愛い感じだった。

それに対して、今日は赤いワンピースで、大人っぽさを醸し出しており、この間とは全く反対の大人っぽい…綺麗さを感じた。

ん?そういや、俺、こいつの年齢知らないな。

「あのさ…」

「なに?」

「失礼承知で、聞くんだけどさ…お前、今何歳なの?」

「私? 二十七だけど…」

特に恥ずかしがる様子もなく、普通にパッと言われた。

って、え?

二十七歳…?

「ええええええええ!? お前、年上だったのっ!?」

驚く俺の表情をしばらく見つめる、梔子。

その後…

「ええええええええ!? あんた、年下だったのっ!?」

全く、俺と同じような返事をしてくる。

「えっ! な、何歳なの?」

「二十三だけど…」

「四歳も離れてたのっ!?」

そりゃそうだ。

どうりで……四歳も離れていたら、大人の女性に見えるわけだ。

「ってきり…同い年くらいだと思ってたんだが…まさか四歳も離れてるなんてな…」

そう言うと、どんどんと梔子の顔が赤くなっていく。

「私も同い年だと思ってたんだけど…。というか、私、あんたみたいなクソガキに、この間介抱されたわけ?」

「おい、クソガキとはなんだ、クソガキとは。四つしか違わないくせに、随分ないいようだな」

「あんたはまだ分かんないのよ…二十代後半の苦味を…」

「偉そうに言ってるとこ悪いが…。お前の方がクソガキだぞ?」

「なにそれ?」

「私~♪ 自分お家分かんなくなっちゃたぁ~♪ 本当に思い出せないのぉ…」

と、この間の梔子の真似をしてみる。

「ちょっ!? 覚えてないけど、それ絶対、私の真似でしょっ!?」

「正解」

「いやぁぁぁ、私が悪かったからぁ~! や、やめてぇ~!」

机に突っ伏して、どうやらノックアウトした様子の梔子。

「悪い、ちょっとやりすぎた」

「ほんとよ…どうせ、年増のババアとか思ってるんでしょ……?」

不安そうにそう尋ねてくる、梔子。

しかし、残念だったな、お前のその考えは俺には当てはまらない。

「むしろそそるな…」

「それ、どういう返しなの!?」

「いやだって、この前、自己紹介の時、言っただろ? 最近の趣味は年上お姉さんキャラを落とすことですって…それにお前もご存知の通り、茜が好きなら、二十七歳なんて、もろストライクゾーンだろ…」

なんてフォローを入れたつもりだったのだが…。

梔子の顔は真っ赤。

なぜだ!?俺はフォローしたはずなんだが!?

「そ、それって…私のこと……好みのタイプって……こと……?」

そっぽを向きながら、そう尋ねてくる。

「…………」

やばい、今、絶対、顔が梔子と一緒で真っ赤になってるって!?

言われてみれば確かに……ってか、今さらだけど…。

梔子って、茜っぽくないかっ!?

や、やべぇ…そう思うと、急にすげぇ魅力的に思えてきたんだが…。

「え、えっと…正直言うと、好みのタイプ…ではあると思う…」

ぼふっ。と、まるで梔子の頭から蒸気が出ているような感じで、梔子は目を丸くしながら、あたふたしていた。

「あわ、あわわ! 私は! え、ええっと、そそそそ、そのっ!?」

なにそれ可愛い。

「お、落ち着けって! 別に口説いてるわけじゃないからさ!」

多分、下心丸出しにされて、焦っているのだろう。

ここは下心ありませんよってフォローを入れて、落ち着いて貰おう…。

なんて…意図のもと、発言したのだが…。

「なんで口説いてないのよっ!?」

「逆ギレするのっ!?」

普段、あまり来ないような高級なレストランだったにも関わらず。

緊張と気まずさで、味が全く分からなかった。

まぁ、ほんの数時間、耐えればこのお見合い(?)も終わり、平穏が訪れるだろう。

なんて…軽い気持ちでそう思っていた俺がいた……。

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