第17話 過去編パート3 お昼 その1

「つ、露草くん!」

昼休み、購買にでも行って、テキトーにパンでも買うか…なんて思ってた時。

「わ、私と…お昼ご飯、一緒に食べませんか!?」

修学旅行から、二ヶ月が経った七月。

みんな受験が大変だと、騒いでいるこの時期。

「も、もちろん大丈夫…」

「よかったぁ…え、えっと…ちょっと移動してもいい?」

「お、おう…」

あの修学旅行以来、俺と撫子の距離は明らかに近くなっていた。

最近では、特に用事がないのに、話していたりなど。

もはや友人の枠を超える勢いなのでは?

なんて、期待してしまう自分がいた。

「えっと…ここだよ」

「家庭科室?」

「うん…今、鍵開けるね」

家庭科室の鍵を開ける撫子。

俺たちは中に入り、向かい合うようにして座る。

「私、家庭科部の部長だからさ…よくここでお昼ご飯食べてるんだ」

「なるほど…」

そう言えば、毎回、昼休みになるとどこかに行っているなぁ…なんて思っていたが、そう言うことだったのか。

「でも、どうしてここで?」

「う~ん、あんまり人がいる所って好きじゃないっていうか…」

撫子の性格から言って、騒がしい場所が好きだとは思えない。

なんかこう、静かな風吹くお花畑とかが似合いそう。

「その気持ち、俺も分かる。あんまり騒がしい所、好きじゃないんだよな。教室とか…。そもそも学校自体、人が多い場所だから、あんま好きじゃない」

「うんうん! そうだよね!」

嬉しそうに相づちしてくる、撫子。

きっと、同じことを思っていたから、共感出来て嬉しいのだろう。

しかし……

「一人がいいなら、俺を誘ってよかったの?」

「…そ、それは…その……」

困ったように、口ごもる撫子。

「露草くんは……特別……だから……」

人差し指をくっ付けたり、離したりしながら、そう言ってくる撫子。

「もう今すぐ結婚したい…」

「「…………」」

ぴたっと、お互いに動きが止まる。

まるで、時が止まったかのように。

そして、数秒後。

撫子が驚きの声をあげる。

「ふえぇぇ!?」

あっ、やばい。

あまりにも可愛すぎて、思ってたことが口から出てしまった。

俺ってば、おっちょこちょいのうっかりさんっ♪

って、違ェェェェェェェェェェ!?

俺、キメェェェェェェェェェェ!?

ちょっと、気になる女子から、昼ご飯誘われただけで、何考えてんだよ!?

「あっ…え、えぇっと…」

あたふたしながら、視線を右往左往させて、困り果てている撫子。

「ご、ごめん! じょ、冗談だから! き、気にしないでくれ!」

「……冗談?」

あれ?なんかおかしいな。

普通、冗談だと分かって、水に流す所だと思うんだが…。

「そっか。私なんて冗談でプロポーズされる女だよね」

やたら早口でそう言う撫子の瞳からは光が消えていた。

「あ、あの…撫子?」

「そうだよね。私なんて冗談でプロポーズされる女だよね」

なんか怒ってないか!?

「露草くんは私のこと好きじゃないのにお昼ご飯なんか誘ってごめんね。だって私冗談でプロポーズされるような女だからね」

やっぱり怒ってるんだが!?

どうすればいいのか、俺が必死で頭をフル回転させていると…。

ピタッと撫子の表情が変わる。

「ふふっ♪」

いきなり笑みを浮かべた、撫子。

今度はなんだろうか。

怒るのも馬鹿らしくなってきたのだろうか。

「あっと…撫子?」

「なぁ~に?」

「怒って…る?」

「ううん、私、ぜ~んぜんっ、起こってないよ?」

あの、目が笑ってないんですけど。

「ど、どうしたら許してくれますかね…。何でもします…」

「じゃ、じゃあ! 私のこと…これから名前で…呼んでほしいかな…」

「えっ……」

名前でってことは…つまり鴇羽って呼んでほしいってこと?

噓だろ…こんなのむしろ俺がお願いしたいぐらいなんだけど。

「で、でもっ…露草くんが無理って言うなら…その……別に…」

いつもの撫子に戻り、謎の圧力がなくなる。

変わりに、撫子の可愛さが全開で俺を襲う。

「あの…撫子?」

「な、なに?」

ちょっと、悲しそうな表情を浮かべる。

「鴇羽…」

「っ~!」

名前で呼んだ途端、顔を真っ赤にして、すごく嬉しそうに笑った。

「撫子…」

「む~。ど、どうしたの?」

拗ねたように、そっぽを向きながら、返事をしてくる。

「…………鴇羽」

「えへへへっ♪」

なんだこの可愛い生き物は!?

そんなに名前で呼ばれるのが嬉しいの!?

「そ、それとね! もしよかったらなんだけど、露草くんの連絡先が欲しいなって…」

「俺のでよければ、百件でも二百件でもどうぞ…」

「いいの! じゃあ、千件ください! 私の連絡先を露草くんで満たしてください!」

だから、なんだこの可愛い生き物は!?

俺と鴇羽は携帯を取り出し、連絡先を交換する。

「えへへっ~♪ 露草くんの連絡先~♪ 露草くんの連絡先っ~♪」

すごく嬉しかったらしく、るんるん鼻歌を歌いながら、スマホを眺める鴇羽。

「今、連絡してもいい?」

「別にいいけど…」

目の前にいるのに、よろしくお願いしますと書かれたウサギがお辞儀しているスタンプが送られてくる。

「ふふっ♪ これでどこにいても、露草くんと話せるよっ♪」

さっき怒っていた鴇羽はどこへいったのやら。

今ではすごく幸せそうな顔を浮かべていた。

そんな鴇羽を見ていたのだが……

ぎゅるるるる~。っと、俺のお腹が鳴る。

「あっ、ごめんね! そ、そうだよね! お昼ご飯を一緒に食べるって話だったのに、脱線しちゃったよね…」

そう言って、鞄からお弁当箱を二つ、取り出す。

「はい…これ、露草くんの分だよ」

「えっ…作ってくれたの?」

「う、うん…私の手作りなんだけど…その、嫌…かな?」

「嫌なわけない! めちゃくちゃ嬉しいよ!」

鴇羽から手作り弁当を受け取り、蓋を開ける。

「おお~」

思わず声が出てしまうほど、綺麗なお弁当だった。

彩りに野菜が添えられており、他にはお弁当の定番である卵焼きや唐揚げなどのおかずが中に入っていた。

ただ一つ気になるのは…

「え、えっと…深い意味はないからね…あんまり気にしないでね?」

「お、おう…」

桜でんぶでハートが描かれたご飯。

これを気にするなって言う方が無理だろおおおおおおおお!?

ええ!?俺のこと好きなの!?

ねぇ、好きなんだよね!?

って、俺、落ち着けェェェェェェェェェェ!?

女子っていうのは、思わせぶりな行動をして、あっさり振る生き物なんだ!

落ち着け、俺…惑わされるな…。

きっと友達として、好きだよってことだろう…。

「い、いただきます…」

「ど、どうぞ…」

箸を取り、お弁当に手を付け始める。

「んん~。すごく美味しいよ!」

「ほ、本当! 嬉しい!」

お世辞抜きに、味付けがしっかりしていて、濃くも無く薄くも無く、程よい味加減がとても良かった。

「ちらっ…………ちらっ…………」

しばらく、黙々と食べ進めていると、異変に気づく。

やたら、俺のことを見てくる鴇羽。

なんか言いたそうだな……。

「どうかした?」

「う、う~ん。べ、別に…何でもないんだけど…本当に何でもないんだけど……」

これは…何でもあるやつだな!?

「さっき悪いことしちゃったからな。今日は鴇羽の言うこと何でも聞くよ…」

「ほ、本当にっ! じゃ、じゃあ、私が……食べさせてもいい?」

食べさせる?

最初、その言葉の意味が分からなかった。

「もちろん」

「じゃ、じゃあ! お口開けて……はい、あ~ん♪」

食べさせるってそういうことですかぁあああああああ!?

断るわけにもいかず、鴇羽の言う通り口を開ける。

「あ、あーん……もぐもぐ…美味しい……」

「ふふっ♪」

すごい満足そうな表情されると、本当にドキッとする。

というか、さっきからドキドキでやばい。

俺、このまま心臓が破裂するんじゃないだろうか……。

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