第15話 現在編パート3 勘違い その1

「んん……あれぇ…私…って、えええええええええええ!?」

「ん? よう、おはよう」

久々に、キッチンで朝ご飯を作っていた俺。

起きた、梔子とカウンター越しに視線が合う。

「あっ、うん…おはよう……って、そうじゃないでしょ!?」

「え?」

何か、違うのだろうか?

「じゃあ…こんばんは?」

「時間の話はしてないわよ!?」

「どうしたんだよ。お前、朝からテンション高いな」

「それは…だって……その……うぅ…」

顔を真っ赤にして、困ったように、視線をきょろきょろとあっちへこっちへ。

「あー、そういうことね……いや、しょうがないだろ。だって、あのまま置いてくわけにもいかなかったしな」

「う、うん…そこに関しては感謝してる。私、すごい酔ったのは覚えてるんだけど、その時の記憶が殆どなくて…その……」

頬を赤らめながら、何やらもじもじしている梔子。

なんだ、その可愛いらしい仕草は。

「お前…そんな女の子らしい仕草すると、キャラ崩壊するぞ?」

「私、女の子なんですけどっ!? あと、キャラ崩壊なんてしてないでしょ!? キャラ崩壊ってのはもっと酷いのよ!」

流石、本職。

言葉に重みを感じる。

「はぁ…えっとね……その……私、どんなだった?」

「?」

思わずハテナが浮かぶ。

どんなだったとは、どういうことだろうか?

「ほら……その昨日の……」

あ~。酔った姿ってことか。

ほぼ初対面の相手に、めちゃくちゃ酔ってる自分を見られたら、そりゃどんな感じだったのか不安になって、知りたくなるよな。

「とりあえず、呂律が回ってなかった」

「そんなにっ!? って、ことは気絶するくらいシたってこと……?」

気絶するくらいシた?

いやまぁ……確かに、気絶するくらいショット飲んでたな。

「まぁ、確かにそうだな」

「えぇっ!? そ、そんなに……」

ぷるぷると体が震えている。

そんなに恥ずかしいことなのだろうか?

「じゃ、じゃあその……単刀直入に聞くけど……何か感想を……?」

感想?

何の感想だろうか?

酔っぱらった、梔子を見て、どう思ったのか…ってことだろうか?

「う~ん、そうだなぁ…」

「…………」

不安そうに、ジッと俺のことを見てくる梔子。

「子供みたいだったな」

「子供みたいっ!?」

目を見開いた後、謎の説明をしだす梔子。

「昔から…そ、その成長は遅いタイプだったから…え、えっと…それでも楽しめた…?」

今度は、心配そうに上目づかいで俺のことを見てくる。

「まぁ、そうだな。普通に楽しかったぞ。初めてだったけど…」

「ええっ!? あんたも初めてだったの!? ってことはその…お互いに…」

「え? お前は初めてじゃないだろ?」

昨日、バーにはよく来ると言っていた気がする。

「初めてだったに決まってるでしょっ!? そ、それに…その……うぅ……」

もじもじしながら、恥ずかしそうに両手で顔を隠す梔子。

「ど、どど…童貞を…私が……その……貰ったって…ことでしょ……?」

童貞?

いきなり何を言ってるんだろうか、こいつは。

なんて、思ったが…『バー童貞だ』と、冗談を言ったことを思い出した。

そのくだりを引きずるのか…流石、エロゲのシナリオライター。

テキトーな発言も伏線にしてしまうとは。

「まぁ、そうだな。お前に捧げたわけだ」

「っ……!? 私の馬鹿あああああああああっ!?」

「え!? ちょっ!?」

急に叫んだかと思ったら、床にドンドンと頭を打ち付けている。

「落ち着けって!」

急いで、梔子に駆け寄り、肩を掴んでやめさせる。

「お前…さっきから、どうしたんだよ? 大丈夫か?」

「べ、別に…昨日は大丈夫な日だったしぃ…だ、だから何の問題もないって言うか…その……」

「いや、あれのどこが大丈夫なんだよ…」

歩けなくなるくらい、酔っぱらっておいて、何が大丈夫なんだろうか。

「そ、そそ…そんなに沢山……出して……」

沢山出す?

何を言っているんだ、こいつは。

「あのさ…って、ええ!? い、いきなりどうした…!?」

梔子が突如として、俺のことを抱きしめてくる。

「ちょ、ちょちょっ、く、梔子!?」

全日本童貞選手権、陰キャ部門、最優秀賞の俺には刺激が強すぎる。

「私も…初めてだったの…分かるでしょ?」

「え? いやだから、初めてじゃないだろ…」

「あんたが破ったんだから…シた時…分かってるはずでしょ…?」

破った?

シた時?

「そ、その…私…できてたら、ちゃんと責任取るから…あんたにも取って欲しいというか…」

できてたら?

責任を取る?

なんかさっきから、おかしい気がするんだよな。

「お前…さっきから、何の話してんだ? なんか絶妙に、会話がかみ合ってそうでかみ合ってない気がするんだが…」

「そうやって、私に…言わせるの…? 変態…」

少し涙目になりながら、上目づかいで俺を見上げてくる。

「あの…ちなみになんだけど…どっちから、先に襲ったのかなって…」

「………はい?」

襲った…?

襲ったってなんだっ!?

少し冷静になって、考えてみようか…。

…………。

……………………。

………………………………。

おっとぉおおおおおおおおおおおおおおお!?

これは…非常にまずい勘違いをされてるかもしれないぞおおおおおおおおおおおお!?

「ちょっ、待った! お前、今、絶対に何か勘違いしてるって!?」

「え……」

「俺…ただお前を介抱しただけなんだが!?」

「えっ…えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

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