第12話 過去編パート2 修学旅行 その1

「あの…露草くん…」

見知らぬ旅行先のバス停。

「………これは…」

「そうだよね…やっぱりそうだよね…」

瞳をうるうるさせながら、助けを求めるようにこちらを見てくる撫子。

くそっ、無自覚に可愛い表情するのはやめてくれ。

でも、助けを求められたところで、俺にはどうにもできないぞ。

だって…二人して…

「完全にみんなとはぐれたな…」

「やっぱりそうだよね!?」

修学旅行、初日。

基本的にグループ行動だという、今回の修学旅行。

俺と撫子は、初っ端、グループメンバーとはぐれたのだった。

「みんなどこ行ったのかな?」

「う~ん…分からないな…」

ちなみに、何故こんなにも困っているのかと言うと。

俺と撫子は予定通りに行動していたからである。

「そうだよね…。えっと…どこからみんなの姿見てない?」

「言われてみれば…最初の新幹線で見かけて以来、見てないかもな」

「うん…私も…」

俺たちが今いるバス停は、新幹線を降りた駅のすぐ目の前である。

だから、普通に合流できると思ったのだが、今いるのは俺と撫子だけだった。

「というか…新幹線の座席もグループにすればよかったのにな」

「う、うん…そうだよね…」

新幹線の座席は、グループ関係なく、ランダムくじ引きだった。

気になる人と隣になれた人もいれば、仲の良い友達と隣になれた人、はたまたまったく話したことない人と隣になった人。

ちなみに、俺は…

「そういえば、露草くんの隣、誰もいなかったね」

クラスの人数が奇数であるため、どうしても一人だけ、隣が空きになるのだが、まさか自分になるとは思わなかった。

他の一般客が座ることもあったのかもしれないが、最初から最後まで誰もいなかった。

「見てたの?」

「う、うん…みんな喋ってるのに、一人だけ、ずっと窓の外見てたから…」

「まぁ、それくらいしかやることなかったし」

「途中でレモンティーこぼしてたのも?」

イタズラに笑うような口調でそう言ってくる。

「そこも見てたのかよ!?」

「うん!」

恥ずい。

まさか、行動を逐一、見られていたなんて…。

「わりと席離れてたのにな…。撫子って視力いいの?」

「別にそんなにいいわけじゃないけど…。なんて言うか、露草くんのことは勝手に目に入ってくるというか…」

「っ!」

これを無意識に言ってくるから余計たちが悪い。

俺が惚れちまったら、どうするんだよ、まったく。

「って…っ~~! ご、ごめん! 今のは忘れて!」

自分の発言に恥ずかしさを覚えたのか、撫子は急に顔を真っ赤にさせる。

「い、いや…別に悪い気はしないから大丈夫だよ」

むしろ嬉しいなんて、口が裂けても言えない。

「「……………」」

しばらくの間、俺たちに沈黙が訪れる。

図書室での一件以来、俺と撫子は何かと関わるようになった。

一緒に遊びに行くとか、そこまでのことはしないが、学校で何気ない日常会話をするくらいには、仲良くなった。

がしかし、この状況はまたそれとは別。

少し仲良くなった気がしていたが、どうやら気のせいだったらしい。

非常に気まずい。

俺が内心、そんなことを思っていると、前方からグループメンバーの男子、鈴木くんがやってくる。

「あっ、撫子さんに露草くん」

今回のグループは男三女三という構成になっていた。

「いきなりで悪いんだけどさ、亮と陽葵と心春がさ、三人で勝手にどこかに行っちゃってさ」

頭にハテナを浮かべながら、顔を見合わせる、俺と撫子。

「あいつ…何してんだよ…」

そう言うと、困ったような苦笑いで鈴木くんが言う。

「なんでも、二股がバレて、取り合いになったらしくてさ…それで、どっちが本当の彼女か、勝負よって…」

「なんだそりゃ…」

あっ、でもそういえば…

図書室で、亮の後輩がそんなようなこと言ってたな。

あいつ、取り合いされるとかラブコメの主人公かよ。

とりあえずあとで会ったら、呪っておこう。

「今回の修学旅行で、亮のことをより楽しませた方が本当の彼女よ…みたいなことを言ってたらしくてさ…」

「そ、そうなんだ」

これには、撫子も苦笑い。

「だからさ、やばいじゃないかと思って、先生に言いに行ったんだよ。そしたら、もうしょうがないから別にグループ行動じゃなくてもいい…とか言われてさ」

「本当にそいつ先生かよっ!?」

「同じこと思ったんだけど、サッカー部顧問でさ。亮のこと気に入ってるから、特例で認められたのかなって…」

「つまり俺たちのグループはみんな自由でいいと?」

「ちゃんと宿舎に行く時間さえ守れば自由って言ってた」

いや、本当に無茶苦茶な教師だなっ!?

「ってなわけで…僕は光たんの緊急開催握手会に行ってくるから! それじゃあ、撫子さんと露草くんも自由に楽しんでね!」

「え? いや、ちょっ…鈴木くんっ!?」

光のような速さで去っていく鈴木くん。

君もかなり無茶苦茶なことをするんだね…。

「「……………」」

残された、俺と撫子は当然、困惑している。

予定というものが消滅したわけだが。

さて、どうしようか。

ここで俺の選択肢は二つ。

一、撫子と別れ、一人で観光。

二、撫子と共に、二人で観光。

とりあえず、撫子の様子を…

「!?」

めちゃくちゃ、顔を真っ赤にしながら、ぷるぷる震えて、何か言いたそうにしてるんだがっ!?

こ、これは俺から聞いた方がいいやつなのだろうか?

「え、えっと…どうした?」

「あ、あのね…その…」

どうやら言いにくいことのようだ。

やたら歯切れが悪い。

「俺は大丈夫だから、言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってくれ」

「う、うん…分かった。私ね…実は行きたい所があって…予定には入ってなかったんだけど、もし行ってもいいんだったら、今日はずっとそこに居たいというか…」

え?何この流れ。

ひょっとして、俺と一緒に行く感じ?

いやいや、そんなことないだろ。

俺なんかと一緒に行っても、撫子は楽しくないだろ。

ここは空気を読んで、去った方がいいな。

きっと、俺がいたら、行きにくくさせちゃうよな。

なんて、思った時だった。

「わ、私と…一緒に遊園地行ってくれませんか!」

「へ?」

思わず、素っ頓狂な声が出た。

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