第9話 現在編パート2 出会い その3
連れて来られたのは、やたらオシャレなバーである。
そこのカウンター席に二人、梔子と俺が並んで座っている。
「うわぁ…何ここ…高そう」
「私はよく来るけど…あんたは、あんまりこういう店来ないの?」
「バー童貞だ」
「はいはい…って、いきなり何言ってんのっ!?」
「お前が奪ったんだぞ、俺の初めてを」
「変な言い方しないでよ!」
「冗談はここまでにしておいて、リアルに何の用だよ?」
こっちはいきなりやべぇ奴に誘われて、困惑中なんですけど。
「その……さっき、あんたが可愛いって…」
カランっと、まるで俺の頭の中を表しているように、目の前のグラスから氷の音が鳴る。
「は? そんなこと言った覚えないんだが…」
現実の女性相手に、面と向って可愛いって言えるほど、俺のメンタルは強くないんだが。
一体、こいつはどこのどいつと勘違いしているのだろうか。
「言った! 絶対に言った!」
「いや、絶対に言ってない。もしそう聞こえたとしたら、お前の聞き間違いか、俺の噓だ」
「えっ……噓だったの……?」
ちょっと、なんだいきなり。
そんな悲しそうな顔されると、悪いことをした気分になってくるんだが。
「そもそも俺、現実の女性相手に可愛いとか簡単に言えるほど、女性慣れしてないし…。
だから、お前に向かって、どっかの誰かさんが言ったらしい、その可愛いという言葉は絶対に俺じゃないと思う」
「は?」
「え?」
「あんた何言ってんの? 私がいつ、自分が褒められて嬉しいって言ったのよ」
「違うの!?」
「私が言ってるのは………出会いの花は何色ですか?の藤崎茜のことよっ!」
「そっち!?」
拝啓、数分前の俺へ。
可愛いって言ってました。
どこのどいつじゃなくて。
今日の俺でした。
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