第21話:「巨大なスライムの正体は…」


「た、助かったっす…」


巨大なスライムから命からがら逃げおおせた後。

側にへたり込むのは、白い髪と同じ色の獣の耳を持った獣人の少女。


なぜか巨大なスライムから追われていたその人だ。


歳はおれと変わらないくらいだが、おれよりも頭二つ分ほど背が高い。


また、その背中には巨大な剣があった。

鞘はなく、包帯のような布で刀身が覆われている。その表面には封印のような札もあった。

すこし気になるが、おそらくおれたちと同じ冒険者だろう。

見れば徽章も着けている。鈍く輝く銅徽章。おれたちと同じ駆け出しだ。


「というか…君、なぜあんなのに追われていたんだ?」


「いや、自分にもよくわかんないっす…。依頼で下水道のスライム退治にきたんですが、ふと気付いたときにはあれが近くにいまして…」


いやはや困りました、と屈託無く笑う獣人の少女。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったっすね。自分はナツハ、冒険者っす!」


「よろしく。おれはリクでこっちの妖精がルチェ、おれたちも冒険者だ」


そういっておれはナツハと握手を交わす。

ザンバとのやりとりが出会っていきなりバトルだったので、ノルンを除けば友好的な冒険者との交流がこれが初めてになる。


「ナツハさんはお一人なのですか? パーティのメンバーさんとかは?」


「ああ、いや、自分は一人っす。えへへ、自分、落ちこぼれでして…」


恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべるナツハ。

ふむ…別に銅徽章だからといって、落ちこぼれというわけでもないと思うが…。

それを言えば自分なんてレベル0なのだ。


「そんなことよりも、さっきのスライムっすよ!」


「ああ、あの巨大なやつな」


「驚きました、あんな大きいのもいるのですね…?」


スライムの粘液が軽くトラウマになっているのか、ぷるぷると震えるルチェ。

帰ったらいい石鹸でも買ってやろう。


「いやー、あれは『軍勢レギオンスライム』っすね」


「「軍勢レギオンスライム??」」


おれとルチェは声をそろえて聞く。


「はい、大量発生したスライムたちが群体になったものっす。危険度も高くなってLv5、ちょっとナツハにはどうにもできない相手でして…自分はLv3なんですが、リクさんたちは──」


聞かれて、鈍く輝く銅の徽章をそろって掲げるおれとルチェ。


「ああ、お二人とも銅徽章…、ってリクさん、Lv0なんすか!?」


「ああ、そうだ。よろしくたのむ」


「な、なにをよろしくなのかちょっと自分にはわからないんすが…ともかく、我々に勝ち目はないってことはわかりましたね。となれば、ここは大人しく退散するに限るっす」


命あっての冒険者っす、と語るナツハ。

そのまま彼女は下水管からの出口を探そうとするが、おれはそれに待ったをかける。

すこし思いついたことがあったのだ。


「ちょっと待ってくれ、ナツハ。その『軍勢レギオンスライム』なんだが、仮に討伐依頼が出たとしたら依頼の難易度はどのくらいになるんだ?」


「難易度っすか…? 依頼の難易度は色々な条件によって変化するので一概には言えないっすが…まあこの場合は『軍勢レギオンスライム』のレベルがそのまま依頼の難易度になると思うっす」


「ということはLv5の依頼、ということだな」


「まあ、そうなるっすが」


「それがどうかしたんですか、リクさん?」


「もちろんだ。ルチェ、ギルド設立の三条件を覚えているか?」


ギルド設立の三条件。


それは三人以上のメンバーがいること、Lv4以上の依頼をこなしていること。

そして、他ギルドからの推薦。


今回話題となるのは「Lv4以上の依頼をこなす」というもの。


「今、おれたちが受けられる依頼はLv2くらいのものが関の山。だが、目の前にLv4以上の依頼になりうるものがあるなら話は別になってくるだろう」


「それってつまり、ルチェたちであのめちゃデカいスライムを倒しちゃうってこと…ですか?」


「そうなる」


もちろん順当に依頼をこなしていけば、いつかはLv4相当の依頼なども受けられるようになるかもしれない。だが、そんなに悠長に進めるよりもおれは一刻でも早く、一日でも早く、師匠のいるあのフロンティアへたどり着きたいというのが本音になる。


てっきり相棒の妖精からツッコミが飛んでくると思ったが、実際に飛んできたツッコミは別の方向からのものだった。


「い、いやいやいや、なに言ってるんすか、リクさん!?」


それは白髪の獣人、ナツハによるものだった。

まあ、当然と言えば当然だろう。Lv0の駆け出し冒険者がLv5、ソード・ベア級の魔物を相手にしようと言っているのだ。


こうなれば実際に見せるのが早いだろう。


「よし。ナツハ、ちょっと見ててくれ」


そして、おれはナツハの前で『強化限界強化魔法リミット・ブレイカー』を使い、下水道の壁面を拳でぶち抜いた。


+ + +


「強化魔法を強化…っすか…?」


「ああ『強化限界強化魔法リミット・ブレイカー』と言ってな。これがあればLv5くらいの魔物ならなんとかなると思う。もちろん、ルチェやナツハの協力があってこそ、だが」


「というかリクさん、壁に穴開けちゃ駄目ですよ」


「む…すまない、手頃なものがなかったのでつい」


ルチェに白い目で見られる。

幸い水路の壁は頑丈に作られているらしく、おれの開けた穴くらいではなんの影響もなさそうだった。とはいえ、いつか埋めておこう。ノルンにバレたら小言では済まないだろう。


「なるほど、っす。たしかにこれならなんとかなるかも…っすね」


顎に手を当て考える様子のナツハ。


「よし、ナツハも冒険者っす! ここは協力して『軍勢レギオンスライム』討伐といきましょう!」


そうして、おれとルチェ、そしてナツハの即席パーティでLv5級の討伐任務がはじまった。

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レベル0はロマンを夢見ちゃダメなのか? ~【強化魔法】を【強化】すればやっていけると思うんだが~ 四辻達海 @ytj-42nowhere

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