第18話:「残り一ヵ月」
「あんたねえ、一体なにやってんのよ!」
「し、し、死んじゃったかと思いましたあ!」
ザンバが冒険者組合を出ていったあと、まず飛んできたのはノルンの拳骨。
次に顔面に号泣しているルチェが張り付いた。
「む、ぐ…舐められたままでいられないだろ。しかし、あいつ…強かったな」
強化魔法を使用していなければ地面に叩きつけられて死んでいただろう。
金の徽章。Lv7。
ザンバと呼ばれたあの赤髪の男、ただ者ではない。
「当たり前じゃない。あいつはザンバ・グレン、『
「…なんだその『
「ギルドよ、ギルド。それも三大ギルドって呼ばれるほどの超大手。あんたそこに喧嘩売ったのよ!?」
それも冒険者になってから一時間もしないうちに!と頭を抱えるノルン。
自分のことでもないのに、毎度よくここまで悩めるものだと感心してしまう。
「ふむ。だが、フロンティアに挑むなら、あのくらいの男は乗り越えないといけないだろう。だったら、それが遅いか早いかという話だ」
「どう考えても早すぎでしょ! あんたLv0なのよ!?」
再び飛ぶノルンの拳骨。
そうなんども人の頭を殴らないで欲しい。ザンバに掴まれたダメージも残っているのだ。
「はあ…まったくどうして…。とにかく! 一度家に帰ってまずは作戦会議よ!」
+ + +
一連の騒動のあと。
ノルンの家へと戻り、おれたちは残り一ヶ月でザンバと渡り合えるようになる方法を考えていた。
「で、まず聞くんだけど、リク。あんたの強化魔法、なんか変よね」
それはノルンの質問。
ザンバと戦ったときに使っていた『強化・二式』のことを言っているのだろう。
あれは普通の強化魔法と違い、強化された魔力が赤い光を放つのだ。
「ああ、あれな。強化魔法を強化している」
「…うん?」
聞き取れなかったのか、聞き返してくるノルン。
「だからな? 強化魔法を、強化しているんだ」
「…ごめんなに言ってるのかわかんない」
「まったく。もう一度言うぞ、あれは強化──」
「いやいや、そうじゃなく!」
おれの言葉を遮り、ノルンは混乱した様子でおれとルチェを見る。
すがるような目で周囲を見渡すが、慌てているのはノルンだけだ。
「えっと…ルチェちゃんも落ち着いているのを見るに、それは、マジで言ってるのね…?」
「はい? マジで言っていますよ?」
きょとんとした表情で返すルチェ。
残念だったな、ノルン。この妖精の常識はすでにちょっと破壊されているのだ。
「じゃあ、あんたまさか、そんな頭おかしい魔法一本で迷宮を脱出したの!?」
「一芸は身を助ける、とはよく言ったものだな」
「やっぱ天才馬鹿だこいつ…はやくなんとかしないと…」
ノルンは疲れ果てた表情で机に突っ伏してしまう。
ぶつぶつと聞こえてくるのは嘆きの声なのか、怒りの声なのか。
「でもでも、リクさん。難しいことを考えなくても、いっぱい強化を重ねれば、あの大きい方にも勝てるのではないでしょうか。こう、パンチで、えいやと」
「うーむ。悔しいが、そうもいかないだろうな」
理論上、この『
魔力さえあれば、この星さえ拳一つで破壊する力を得ることができるだろう。
だがそれは「魔力が無尽蔵だったら」という仮定の話である。
これまで何度か使ってみてわかったがこの魔法、強化段階を上げるほど魔力の消費が激しくなっていく。二式から三式に上げただけでも、魔力の消費は二倍近くになるのだ。
今のおれの魔力量で『強化・二式』を維持できるのは5分ほど。
十式にもなれば、魔石の補助なしだと1秒使えるかどうかだ。
十式の力であれば確かにザンバも倒せるかも知れないが、あの男を相手にたった数秒で決着をつけろというのは現実的には不可能だろう。
それに二式程度なら慣れてきたが、強化を重ねれば重ねるほど、肉体への反動も大きくなる。
十式以上の強化段階ともなれば、使った瞬間に肉体が弾け飛びかねない。
「そうなのですね…うーん、どうしたものでしょう」
「なにか根本的な策が必要ね。技とか、武器とか。そういえばなんだけど、リク。あんたって今後武器ってどうするの?」
「武器?」
「ええ。リクってもう魔法が使えないんでしょ? 剣士とかに転向しないとどうしようもないんじゃない?」
そういえば。
迷宮では流れでルチェが封印されていたこの剣、通称ルチェ剣を使っていたがこいつは恐ろしいほどのなまくらだ。ザンバとの勝利条件は「一発殴ること」とはいえ、武器や戦術を練るのは必須だろう。
強化魔法しか使えない都合上、接近戦で戦うために剣術や格闘術を身につけたいところ。
「たしかにな。それで言えば、今後は剣を使うつもりだった」
「あー、そういえば剣術の基礎はイクシス先生に習ったんだっけ」
「ほえ、イクシス? どなたです?」
聞き慣れない名前に首を傾げるルチェ。
「おれを育ててくれた人の友人だな。たまに村に遊びに来てはおれとノルンに剣を教えてくれたんだ」
「あれは訓練というか拷問に近かったけどね…」
凄腕の魔法使いである師匠に肩を並べるだけあって、イクシスの剣の腕は相当なものだった。
たしか彼女も冒険者で、今も師匠のユークと共にフロンティアにいるはずだ。
師匠を追いかける中で、いつか会うこともあるだろう。
「でも、それなら決まりね。まずはまともな剣を手に入れましょう、鍛冶屋ならいいところを知ってるわ」
そうしておれの新しい剣を探すべく、ノルンの案内でおれたちは鍛冶屋へと向かった。
頼るべきは、面倒見のいい幼なじみである。
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