第3話:「気軽にドヤるものじゃあない」
とりあえずの前提として、おれはこの剣をルチェと呼ぶことにした。
由来は本人の刀身に刻まれていた古代文字から。
そのルチェ曰く、どうやら彼女はこの剣に封印されているなにからしい。
まあ、ただそれも感覚としてあるだけで、封印される前に自分が人間だったのか、それとも違うなにかだったのかはよく思い出せないとのこと。なんとも胡乱なことだ。
なので、当然自分がなぜこんなところに封じられているかも皆目見当がつかないという。
結果として、よくわからない、ということがよくわかった。
ただ、入り口の魔法陣からもわかるが、おそらくルチェはここに短くても数百年は封印されていたのは確からしい。どんな事情があったにしろ、そんな長い時間を一人で過ごすというのは、おれには想像もできない。久しぶりに話せる人間と会えて泣いてしまうのも頷けるというもの。
はっきりとわかったこともある。
それは彼女が悪い奴ではないということ。
見てて心配になるくらい挙動不審で少々卑屈なところがあるが、話していてルチェとおれは気が合った。
「なるほど、ではリクさんは鍛錬のためこんなところにまでお一人で」
「ああ、自慢じゃないが友達がいなくてな。ぼっち、というやつだ」
「ほええ…そうなのですか? 意外です、お優しい方ですのに」
「ま、自業自得というやつだな」
おれは自虐的に笑う。鍛錬を優先し、人との交流を切り捨てた結果だ。
おれのことについて、そしてルチェの覚えていることについて話しているうちに彼女と打ち解けることができた。そのおかげか、ルチェもかなり落ち着いたようだった。
頃合いだろうと思い、おれは考えていたことを話す。
「ところで、ルチェ。どうだろう、おれでよければ君を地上まで連れて行くが」
「え? わたしを、ですか…?」
剣の一振りくらい、地上まで持って帰るのは容易い。
それに彼女が今後どうするにせよ、こんなところにいるよりは地上へ出たほうがいいだろう。剣に施された封印だって解く方法が見つかるかもしれない。
と思ったのだが、ルチェの答えは予想外だった。
「わ、わたしはこのままで大丈夫です」
「なっ…そんなわけないだろう。ここは迷宮の最下層なんだぞ」
「わかっています。きっとそうそう人がくる場所ではない、ということも」
「だったら──」
「でも、その…わたしを連れていくと、リクさんに迷惑がかかってしまうかもしれないのです…!」
「迷惑?」
さっきも言ったが、剣の一振りくらいならなんとでもなる。
最下層とはいえ、潜り慣れた迷宮だ。そしておれは仮にも『学園最強』の名を頂くもの、実力から言ってもそうそう危険があるとは思えない。
それでどんな迷惑がかかるというのか。
「この剣に施された封印は見た目以上に強力なのです。もしリクさんがわたしを、この剣を握ったらわたしと同じように封印されてしまったり、力を奪われてしまうかもしれません」
もしそんなことになったら…と不安そうなルチェ。
所謂呪いの武器、というものはたしかに所有者、使用者に影響を与えるものが多い。実際に剣に人格を乗っ取られた、というような伝承も聞いたことがある。
だが。
「ルチェ。大丈夫、おれはこう見えて強いんだ。封印なんかに負けはしないさ」
彼女を安心させるように、おれは笑顔でそう語る。
生半な鍛え方はしていない。大体の魔法には抵抗できるし、過去に似たような類いの封印を解呪した経験だってある。
なにより、せっかくこうして出会えたのもなにかの縁なのだ。ひとりぼっちの彼女をこんな場所に捨て置くことなんてできない。
「それに、ひとりぼっちの辛さはおれもすこしはわかっているつもりだ。だから、おれに任せてくれ。きっと君を地上に連れて行く。封印だって解いてみせるさ」
「リクさん…」
それ以上、ルチェから反対の声は上がらなかった。
おれはそれを肯定と受け取って、ルチェの剣に手を伸ばす。
そして、自信満々、意気揚々としてその柄を握った瞬間。
おれの意識はブラックアウトする。
なんのことはない、気絶したのだ。
意気揚々と、「君を助ける」とドヤ顔で宣言したその数秒後のことである。
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