第2話 出会いと別れ
次の日…
俺は1人で山を降り、村に向かった。
「お願いします!空威を…反乱を起こした村の人を救うために力を貸してください!!」
空威は村の名医でもあり、配給などの活動も日頃から行なっており、村人からの信頼は厚い。俺たちもよく配給の手伝いをさせられたことだ。
3人では勝てなくても、そんな空威のためになら、村人たちも少なからず手を貸してくれる者もいるかもしれない。
さらに言えば、政府に不満を持つ者は多い。空威関係なしに反乱を起こす手伝いをしてくれる者もいるかもしれない。
だが…
誰も聞く耳を持ってくれない…
喉が潰れるほど大声をだしても、全員俺に目を向けることなく無視している。
空威の事をよく思う者がおおくても、政府を恨む者はおおくても、誰一人として俺の言葉に耳を貸さないのはきっと、政府の人間が怖いのだろう…自らの命が奪われるだけならまだしも、政府の連中は楯突いた者の家族や友人に至るまで殺し尽くすだろう。
一日中村の真ん中で村人たちに訴えかけたが、結局誰ひとり力を貸してくれる者は現れなかった。
「ごめん…」
山に戻り、自身が考えていた計画を2人に話した上で、人手が集まらずそれがダメになったことも伝えた。
「なら…もう3人で心中するか」
ずっと反対していたライトがボソッと言った。
やはりライトも空威を助けたい気持ちに変わりはないみたいだ。
「よっしゃ!俺はお前ら2人となら死んでもいいぜ!」
ライトは不器用な笑顔を振り撒きつつ、言葉を続けた。
「え〜?俺は可愛い女の子と心中するならまだいいけど、翔介と一緒は嫌かなぁ?」
死ぬのは良い。だが絶望しながら死ぬのは嫌だ。だから俺はライトに続き、いつも見たいなバカを言う。
「なんだと??」
「はっ…はははっ!」
「ちっ…ふふっ」
俺たちは自然と笑顔になった。
ライトと翔介がとってきてくれた魚と山菜を刀で不格好に切り、その食材を鍋に張った水に浮かべただけの味気のないスープを頬張りながら、3人で笑い合った。
2人とも…もちろん俺も内心は暗い。しかし無理にでも笑っていた。恐怖を吹き度ばすように。
そして俺たちは寝ることなく朝を迎た。
鍋に残った冷え切ったスープの余りを無理矢理胃の中に詰め込み、俺たちは処刑が行われる場所へと向かった。
処刑場となっている場所は、村のど真ん中にある、ボロボロながらも周りの建築物と比較すると立派な石造りの役所の正面。
普段はない竹の柵に囲われており、容易に近づくことはできない。
空威たちの処刑を見ようと集まっていた野次馬たちに紛れて、俺たちは助ける機会を窺っている。
しかしタイミングが掴めず、ついに罪状を役人の1人が読み上げ始めてしまった。
これ以上様子を窺ったままだと、飛び出すまでに処刑されてしまう。俺はライトと翔介にそれぞれ目配せをし、飛び出そうとしたその時…
フードを被った1人の大柄な男が、柵を蹴り倒し、罪状を呼んでいた男の首を太刀を駆使して、一瞬で断頭した。
あまりにも突然の出来事に役人だけでなく野次馬たちも声一つ出すことなく口を開けて阿呆面をしていた。男はその間にも次々と役人たちを斬り倒していった。
だがこれ以上の好機を逃すわけにもいかない。
俺は2人に合図を出し、一斉に処刑場へと乗り込み、一昨日奪った刀を握り役人を斬った。
現場はパニックになり、その隙に処刑されるはずだった人たちの縄をほどいた。
縄を解かれた人たちは落ちている刀を拾いあげ、俺たちに加勢した。
そしてあっという間に、その場を制圧してしまったのだ。
皆勝利の雄叫びをあげている。
雄叫びに合わせて、俺たちも勝利を喜び合った。
だがここに留まるわけにもいかない。
なぜなら政府の援軍が来るかもしれない。
俺たちは捕まっていた者たちを先導してここから離れた山に一時的に身を潜めることにした。
それぞれ家族や友人たちと別れを済ませ、出発しようとした。
しかし1人の男が突然、血を吐きその場に倒れた。
また1人、また1人とどんどん捕まっていた者たちが倒れていく。
突然のことでライトも翔介も唖然としていた。
そして空威も血を吐き倒れ込んでしまった…
俺は急いで空威の側へ走った。
「おいっ!!空威!大丈夫か!!」
「遅効性の毒を飲まされていたようだ。仮に彼らが逃げても確実に殺せるように」
先ほど俺たちと共に戦ったフードを被った男は、倒れた者の口の中を調べながらそう答えた。
「なんとか…助けられないのか!?」
「無理だ。何の毒かもわからない。今から調べていてはとてもじゃないが間に合わないだろう」
「くっ…」
俺は倒れている空威をそっと抱き抱えた。
涙が止まらなかった。
「空威先生っ!」
「空威!!!」
駆け寄ってきた翔介もライトも泣いている。
「がはっ…!奏、ライト、翔介…喧嘩もたまにはいいですが…仲良くするんですよ…」
「私のために…復讐などは考えなくていいです…私を思うのなら生きてください」
「私はもうダメです…すいません。ふふっ…しかし…私は死に際に…可愛くて大切な私の生徒3人に看取られるなんて…幸せですよ」
笑顔でそう言い残し、空威は動かなくなってしまった。
あまりにも呆気ない。俺や道場のみんながどれだけ力を合わせても勝てないような.....最強で最高の先生が、たかが毒程度で死んでしまった。
涙が止まらない。悲しくて仕方なかったか、しかし.....ここでいつまでも泣いているわけにはいかない。
いつ政府の援軍がここにくるとも限らない。
この場から離れなくては。
「ついてこい」
フードを被った男は、淡々と俺たちに言った。
3人とも泣きながら、空威や他の罪人たちを綺麗に並べ近くにあった花を添え、簡易的な別れをし、その場を後にした。
移動中俺たちは黙ったままだった。それもそのはず。決死の覚悟で戦ったことが全て徒労に終わったのだ。
何時間歩いただろうか…真っ暗な中歩いていると思ったら、もう日が上っている。
「ついたぞ…入れ」
山の奥深くに、少しボロではあるものの立派な木の家が建っていた。
どうやらこのフードの男の家らしい。
家に入れてもらい、ちゃぶ台を囲うように胡座をかきながら座っていると、フードの男はお茶を出してくれた。
黙ってお茶を飲んでいると、
「お前ら黙ってないで名前くらい教えろ」
とフードの男が俺たちに尋ねてきた。
「ごめん…俺は奏…工藤奏だ」
「俺は中野翔介…」
「お茶ありがとうございます…僕は神矢雷斗って言います」
「そうか…奏、翔介、ライト悔しいか?」
「「「当たり前だ」」」
「俺の名前は塚原墨沺だ。どうせ、復讐をするつもりだろ?」
空威には復讐はいい、と言われたかそんなわけにはいかない。
もう我慢できない。
家族を奪われただけでなく、大切な先生と大切な場所を奪われたのだ。
ライトも翔介も同じ気持ちだろう。
「お前らの目を見ればわかる。だが今のお前らははっきり言って弱い」
「なんだと?」
翔介が椅子から立ち上がった瞬間、墨沺は翔介の背後に回って、首に刀を向けた。
「別に敬語を使えとは言わない。だが最低限口の利き方には気をつけろ」
驚いているのか翔介は、黙って座り直した。
空威といい、墨沺といいその速さは人間の域を超えている。
「話は最後まで聞け。お前らは弱い。だから俺が鍛えてやる」
「やるか?やらないか?」
答えは決まっていた
「「「やるっ!!」」」
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【公開情報】
名前 工藤 奏(くどう かなで)
身長 138cm
体重 34.7kg
年齢 8歳
性別 男
血液型 B型
好物 おにぎり
使用武器 なし
出身地 東京帝都
母 不明
父 不明
詳細
襟足が長く茶色が目立つ髪に、美少年と呼べるほど整った顔立ち。将来有望なイケメンではあるが、周りに顔が整った者たちが多く、群を抜いたイケメンというわけでもないので、あまり目立たない。感覚だけで大抵のことは熟せる天才肌である。言動に無知や幼さを感じる場面も多々あるが、まだ8歳なのでご愛嬌。
仲間のためなら簡単に死地に飛び込んでしまうほど仲間思いで、それ故に自然と人を惹きつける魅力も持ち合わせているが、その想いの強さは、弱点にもなりうるほど。
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