第33話 百合鬼の空の理想郷
海上での出来事が終わり、泣きじゃくる令嬢があまりにも可愛そうに思ってしまったリア。
自身では使わない他者用の《最上級HPポーション》を船医に放り投げると、正体不明な存在から渡された正体不明な何かを使うかどうかは、任せてティーの元へと返ってきたのだった。
どれほどの時間、船に居たかはわからないが太陽の位置があまり変わっていないことからそう時間は経っていないのかもしれない。
そう考えたリアは振り返りながら【万能変化】を解除し、空中を蹴りながらターンを決めるとティーの頭部へと足を付ける。
「っふぅ……ティー待たせたわ。 ごめんなさい、またお願いね」
蝙蝠の小さな姿でありながら、空中を飛ぶリアへと気づき視線を向け続けてくれていたティー。
目の前で変化を解き、再び人型のリアに戻ったことでティーはその鋭い瞳孔を小さくして唸るような鳴き声をあげた。
「ギュロロロロッ!」
「ありがとう、今度遊んであげるから、よろしくね」
硬く黒い鱗を数度撫で、後方の背中へと移動していくリア。
リアの帰還に遠目に見ていたアイリスとレーテは不安定な竜の背でありながら、覚束ない様子も見せずに平然と歩み寄ってくる。
「おかえりなさいですわ、お姉さま!」
「リア様、おかえりなさいませ」
純粋な笑顔100%で迎え入れてくれるアイリスと、無表情でありながらもどこか歓迎してくれているような雰囲気を出すレーテ。
そんな二人を見るとリアは心の奥底から温まるのを感じ表情を緩める。
「ええ、ただいま二人とも」
リアの変らない様子に安堵の表情を見せるアイリスだったが、次第にその表情を変えていき、やがて怪訝な表情を浮かべながら口を開いたのだった。
「お姉さま……どうして、あの船の人間たちを助けに行かれたのですか?」
その表情には理解ができないという感情がありありと見える。
そしてそれは後方でその言葉を聞きながらも頷いているレーテから見ても、不思議な行動だったというのが改めて理解できる。
二人はあのお嬢さんを見ていなかったのか、もしくは見ていても人間である以上その他大勢の一人に見えていたのかもしれない。
リア個人としても吸血鬼族以外、というより大事な人以外はどれも似たようなものであるのは変わりはない。
だが、あのお嬢さんを見た時、言い様のない
それに言葉を付けるなら『欲しい』という言葉だろう。
あのままで居ればまず間違いなく、あの大船と乗員は海の藻屑と化していた。
どうせ壊される命、リアが貰ってしまおうと考えていたわけだが・・・・・どうしてか、今のリアの手元には何もなかった。
この先会うこともないだろうし、完全な徒労で終えたわけではあるのだが、あのお嬢さんが救われたのであればヨシという妙な満足感に包まれリアは答えるのだった。
「ただの、……気まぐれよ。 意味はないわ」
欲しい物は奪えば良いという吸血鬼らしい思想。
リアも本来であればそのつもりだったが、あの顔を見てしまいどうしてか放してしまったのだ。
一度狙った存在を吸血鬼の始祖である自分が逃す。
それはリアにとってなんとなく恥ずかしい物になり、ごまかすように興味なさげに答えるのが精一杯だった。
ただ、思い出してしまったからか、その浮かない気分が表情にも表れてしまったのかもしれない。
「お姉さま……?」
心配そうに眉間に皺を寄せながらその可愛らしい顔を覗かせにくるアイリス。
その赤く暗い瞳からは心配と不安、自身に大しての気遣いの気持ちが溢れんばかりに感じ、感極まってしまったリアは溜まらずその愛らしい小さな体を抱きしめる。
「うん、じゃあ……私を癒してアイリス」
(飲めると思ったのにー、そんなことされたら余計に欲求が溢れちゃうわ!)
腕の中に納まったアイリスの耳元で囁くと「ひゃっ」と小さな悲鳴を上げ肩を震わせ、腕をパタパタっと仰ぐ彼女に癒しを感じ瞳を閉じるリア。
あぁ、癒される~! 一仕事終えたあとはとりあえずこれよ。
暖か~い、良い匂い~、気持ち良い~。
瞳を閉じたことで、触覚と嗅覚が過敏に反応し、【戦域の掌握】の効果も相まって過剰なほどにアイリスという存在を感じるリア。
再び瞳を開くとレーテが少し下がり、ティーの突き出たちょうどいい低さの甲殻へと腰を降ろすとポンポンッと膝を叩き始める。
「リア様、快適ではありませんが……使われますか?」
(なんですって……っ? え、いいのかしら!? もっもちろん使いますとも! わぁぁ、レーテの優しさが心を潤していくぅぅ)
「ええ、使うわせてもらうわ」
二つ返事で返すリアに若干、口元が緩んだように見えなくもないがその雰囲気が一段と気遣いに溢れているのはリアの気のせいではないはず。
表情には出なくても態度に表してくれるレーテ。
そんな彼女の気遣いに太陽の光も相まって、まるで聖母のような幻想を見てしまい光を追い求める信者のように歩み寄りそうになるのを何とか抑え込む。
リアは一度、胸に抱きしめていたアイリスを名残惜しくも放し、レーテの元へ癒しを求め歩みよっていった。
硬く冷たいティーの背中を装備越しに感じながらも横になり、内心ほくほく顔でレーテのメイド服の上から頭を置き、膝枕を堪能することにするリア。
後頭部から感じられるのは滑らかな上質な素材で作られたメイド服に、布越しで感じられるレーテの太ももの感触。
ふかふかとした弾力に心地よさを感じ上を見上げれば、非常に整った顔立ちのクールな美人メイドさんがその暖かくも無表情な視線でリアを見下ろしいる。
視界に移るのはそれだけではない。
少し頭を上げようとすれば突き出した凹凸へと弾力を持って、元の位置へと返されることは必須だろう。
そんな絶景に満足していたリアは腕を伸ばしレーテの頬へと手を添える。
感じられるすべすべとした感触に堪らなくなり、後頭部へと手を回し優しく引き寄せた。
「んっ、……はぁ、はむっ」
「っ……」
上下逆さまな姿勢で首元に歯を立て、僅かな抵抗も空しくそれは突き刺さる。
「……はぁ、んっ……ちゅぅ、はぁ……」
「んむっ……ふぁっ、リア、様……んっ」
柔らかなねっとりとした感触を味わいながら、舌に伝わってくる濃厚な爽やかな味に喉を都度揺らす。
一飲みする毎に濃厚なコクと甘味が口いっぱいに広がり、時間の経過とともに周囲へは甘い匂いがまき散らされていく。
(甘ーい! でも以前と少し違う味? なんていうのかな、雑味が消えた? さっぱりしていながらしつこくない味、それでいて病みつきになりそうなしっとりとした甘味。 これはっ・・・・イケル!)
「はむっ、んっ……れろぉ、……んっ、っはぁ」
「……ちゅっ、……んっ、れろぉ……はぁ、……はぁ」
首元で舌を這いずらせる毎にビクンッと体を跳ねさせ、恍惚とした表情を浮かべながら荒い息を洩らすレーテを見てリアは一度付けた牙を離し、彼女を引き寄せていた手の力を緩める。
「はぁ……はぁ……、んっ、……いきなり過ぎます」
「……はぁ、……でも、……気持ちよかったでしょう?」
頭上で抗議の声を上げるレーテを見てリアは唇で舌をチロリと舐め、妖艶な微笑みを浮かべる。
お互いに視線をずらさず、まっすぐに見つめ合い、自然と引き寄せられると――
「んんっ! レーテ? 貴方、いつまで私を差しおいてお姉さまと楽しんでいるのかしら?」
見れば隣にはアイリスが座っており、気づけば向かい風となっている方角に氷の壁が風向きと陽光に配慮した置き方で半ドーム型で張られていた。
ああ、少し暗くなったと思ったけどアイリスがやってくれたのね。
拗ねたような表情でレーテを睨むアイリス。
そんな目にどこか居心地の悪そうな雰囲気を洩らし、未だ火照らせた表情で視線を逸らすレーテ。
(拗ねてるアイリス可愛いい!! えぇ、そんなに私とイチャイチャしたかったの? えへへ、でも私の体は一つしかないからなぁ。 どうしたら・・・・ああ、でもまずは1回ずつ、よね?)
「じゃあ、アイリス ――」
膝枕は継続しながら隣に座るアイリスの首に両手を引っかけ、胸元へ引き寄せる。
ぼふっと乾いた音が漏れ、若干目線の上がった姿勢でリアがアイリスに抱きつく形となり、その灰色の髪に顔を埋めながら囁く。
「――寒いから、暖めて?」
氷の壁で寒い、貴方がやったんだから責任を取りなさい。
そういう意味で呟いたリアだったが実際は大して寒くはない、アイリスとイチャイチャする為に言っただけの誘い文句である。
でも、その効果は抜群だったみたいだ。
アイリスの小ぶりな胸元に頬を押し当て、微かに鳴り響く鼓動と一緒に感触を楽しんでいると少し上から可愛らしい声が僅かに聴こえてきた。
「で、ではっ、……その、僭越ながら私が、暖めて……差し上げますわっ。 はむっ」
見上げた瞬間に塞がれる唇。
「んっ、……ふぁ、……はぁ」
柔らかな感触と濃厚な甘い味が口いっぱいに広がり、あっという間にチロチロとした小さな舌の侵入を許し、口内を蹂躙されはじめる。
(え、ちょっ!? いきなりキス!? 確かに私の血は濃すぎるから吸血はできないけど、アイリスって意外と大胆だよね)
「どう……んっ、はぁ、……れふか? んっ、はぅっ……」
「はぁ、 れろっ……、貴方の舌、とっても甘くて、素敵……んちゅっ……」
忙しなく動き小さな舌に、負けじと舌を絡ませ、徐々に息を荒くさせていく。
アイリスは恍惚とした表情を浮かべながらも舌の動きを止める気はないようで、既にリアの体は暖めるどころか胸の内から溢れだす火照りが納まらずにいた。
既に下腹部から止めどないじわじわとした何かがせり上がり、それは舌を絡め唇を合わせながら抱きしめ合ってる今尚くすぶっている。
貪るように口内を虐められ、押し付けるような胸元ではむぎゅむぎゅと互いの凹凸としたものが押し揉み合っている。
「んっ、あはっ……、れろぉっ、はぁ……お姉さま、んっ……お姉さまぁ」
「ちゅ、んんんっ! ま、待って、アイリス……んふっ、はぁ、あなた……んっ」
酔ってしまいそうな甘い空気にやられたのか、暴走したアイリスを制止しようとするも無理やりに口を押し付けられ、空気が漏れる。
気づけばアイリスは頬を赤く染め上げ、恍惚とした表情で啄みながら甘声をあげる。
口元にはどちらのものかわからない涎が垂れ、それでもやむことのない濃厚なキスの嵐。
「ちゅぅっ、……あはぁ、……お姉さまぁ」
そう言って更に続けようとするアイリスにリアは唇を離し、とりあえずは終わりという合図で額をコツンと優しく響き合わせた。
「ぅっ、……お姉さま?」
困惑したような表情で額に手をやり、視線を向けてくるアイリス。
(この子、暴走させると危険だわ。 数百年も無縁だったみたいだし、その反動とでもいうの? とりあえず、私はこれだけで十分に満たされたわけだけど。 どうせやるなら、続きは屋内でやりたいわ)
リアは乱れた息を整えさせながら視線を向けてくるアイリスを抱き寄せ、レーテの膝枕から頭を放す。
「膝枕もいいけど、今は抱き枕な気分なの。 いいかしら?」
少し高い位置で座っているレーテに向け、見上げながらお願いを口にするリア。
レーテはそんなリアの言葉に思案するように視線を彷徨わせ立ち上がると、隣に来て腰を降ろす。
「休まれるのですか?」
そう問いかけてくるレーテにリアは抱き寄せながら答える。
「そうねー、もう少ししたらそうしようかしら?」
若干、ごつごつとした背中に違和感を感じなくもないリア。
しかし、両隣で隙間なく抱きしめ合ってる二人から感じられる暖かさと満足感に、今は他のことはどうでもよくなってしまっていたのだった。
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