第18話 夢見る世界の夜

人物表

 佐野由依(28) 会社員

 三井千夏(28) 会社員

 大空星矢(32) ホスト

 近藤誠(30) ホスト


 男性店員



○メジロエージェンシー本社ビル・休憩所


 佐野由依(28)がテーブルに座って、スマホの画面を見つめている。

 由依の隣に、三井千夏(28)が座っている。


千夏「それで、先週末のデート以来、彼氏くんから返事が返ってこないと」


 由依、うなずく。


由依「既読すらつかない」


 と、LINEの画面を千夏に見せる。「連絡ちょうだい」のメッセージ。既読マークはない。


千夏「原因は?」


 由依、首を振る。


千夏「……そりゃもう、ダメだわ」

由依「なんでそんなこと言うの」

千夏「事実を言ったまでよ」

由依「悠太に聞いたわけでもないくせに」

千夏「あんた、この状態からヨリ戻せるなんて本気で思ってるの」


 由依、涙目でスマホを握りしめる。


千夏「元気出しな、男なんて他にいくらでもいるから」

由依「悠太……」

千夏「(ため息)。しようがないなあ」


 千夏、財布を取り出し、名刺を一枚抜くと、由依の前に置く。

 名刺には「バルバロッサ」と書かれている。


由依「何これ?」

千夏「ホストクラブに決まってるでしょ」

由依「えっ!」

千夏「気晴らしにちょうどいいわよ」

由依「でも……テレビで危ないところだって」

千夏「(笑う)。あんた、案外堅物ね」


 由依、むすっとした表情で千夏を見る。


千夏「ちょっとしたお姫様気分が味わえるわよ」

由依「そうなの?」

千夏「いい男たちに慰めてもらえば、元気出るわよ」


 由依、名刺を見つめる。



○ホストクラブ「バルバロッサ」・店前(夜)


 地下へ続く階段の前に立っている由依。階段を睨みつけるように見ている。

 会社員が不審そうな目で由依を見ながら通り過ぎていく。

 由依、視線に気付き階段から距離を取り、辺りを見渡す。


由依「(ため息)」


 由依、スマホのLINEの画面を見る。メッセージに既読マークはない。

 由依、階段へ向かって歩き出す。



○同・店内(夜)


 豪華な装飾が施された店内。半分以上の席が埋まっている。

 由依、店内に入ってくる。

 男性店員が近づいてくる。


男性店員「いらっしゃいませ」

由依「えっと、あの……」


 男性店員、微笑む。


男性店員「初めてのお客様ですね」

由依「あっ、はい」

男性店員「でしたら、こちらから男性を何人かお選びください」


 男性店員がメニュー表を渡す。

 由依、恐る恐るメニュー表を開く。男性の写真がたくさん並んでいる。


由依「ここから選ぶんですか?」

男性店員「はい、誰でも大丈夫です。初回のお客様は指名料もいただきませんので」

由依「えっと……」


 由依、焦った表情でメニュー表をめくる。


由依「じゃあ、この人を」


 と、大空星矢(32)の写真を指差す。


男性店員「承知しました。ではこちらへ」


 由依、男性社員にエスコートされて店の奥へ行く。



○同・客席(夜)


 店内は、ホストと楽しそうに話す女性たちの姿がある。

 席に座っている由依が、あたりを見渡している。

 大空と、カクテルグラスを持った近藤誠(30)がやってきて、由依の隣に座る。


大空「どうも、星矢です」


 由依、戸惑った表情で大空と近藤を見る。


大空「指名ありがとう、なんて呼べば良いかな?」

由依「え、えっと……佐野です」

大空「良ければ、下の名前で呼ばせて欲しいな」

由依「えっ」


 大空、微笑む。

 由依、呼吸が荒くなる。


大空「緊張しなくても大丈夫」


 由依、もじもじしてうつむく。


由依「えっと、その……、由依です」

大空「由依ちゃんで良いかな?」

由依「あっ、はい……」

近藤「どうぞ」


 と、カクテルグラスを由依と大空の前に置く。

 大空、グラスを持ち上げる。


大空「由依ちゃんとの出会いを祝して、乾杯」


 由依、惚け顔で大空を見る。



○同・同(夜)


 テーブルに空いたボトルが置いてある。

 赤ら顔の由依と、大空と近藤が並んで座っている。

 近藤はカクテルを作っている。


大空「そうか、それで、彼氏から連絡来なくなっちゃったの?」


 と、悲しい表情を浮かべる。


由依「そうなんですよ」

大空「ひどい奴だね」

由依「本当、頭きちゃう」

大空「まったくだね。誠くんもそう思うでしょ?」


 近藤、カクテルを作りながら、


近藤「そうっすね……」


 大空、苦笑いする。


大空「ごめんね、彼、まだ入ったばかりで、よくわかってないんだ」

由依「い、いえ……」

大空「とにかく、由依ちゃんは彼氏のことを信じていたのに……かわいそうに」


 と、由依の頭を優しくなでる。

 由依、頬が緩む。


大空「今日は飲んで、嫌なこと忘れよう」


 席に男性店員がやってくる。


男性店員「星矢さん、指名です」


 大空、店の奥を一瞥する。


大空「わかった」


 と、由依を見て、


大空「ごめんね、ちょっと席外すから」

由依「そんな……」


 と、悲しそうな目で大空を見る。

 大空、近藤を見て、


大空「俺がいない間、ちゃんと由依ちゃんの話を聞いてあげるんだぞ」

近藤「はい」


 大空、男性店員と一緒に席を離れる。

 由依、大空の背中を目で追う。


近藤「どうも」


 と、由依のそばに寄ってくる。

 由依、会釈する。


近藤「すいません、星矢さんこの店のナンバーでして、大人気なんですよ」


 と、カクテルを由依の前に置く。

 由依、大空が去って行った方向をじっと見ている。


近藤「嫉妬しない方がいいですよ」

由依「えっ?」


 と、驚いた表情で近藤を見る。


近藤「競争率高いですから」

由依「私は別に……」

近藤「そうですか……。それで、先ほどの話についてですけど」

由依「先ほどの話?」

近藤「彼氏から連絡来ないって話です」

由依「ああ」

近藤「もちろん彼氏に非はあると思うんですけど……、個人的には由依さんにも反省すべき点はないのかな、と」


 由依、表情を歪ませる。


由依「どういうこと?」

近藤「由依さん、彼氏がどうして連絡しないのか考えてみましたか?」

由依「なによ、突然」

近藤「恋愛問題で、どちらかが一方的に悪いって、そうそうないと思うんですよ」

由依「何、私が悪いって言うの」

近藤「まあ、そういう面もあるかもしれないと……」

由依「どうしてあなたにそんなこと言われなきゃならないのよ」

近藤「だって、由依さん、彼氏とよりを戻したいんでしょ。なら、どうすれば良いのか考えないと」

由依「うるさい! 私のこと気安く下の名前で呼ばないで」


 由依、席を立ち上がる。


近藤「由依さん」

由依「あんたなんか嫌。早く星矢さんを呼んできて」


 と、店の奥を見る。

 大空が女性と楽しそうに話している。

 由依、唇をきつく結ぶ。


由依「もういい」


 と言って、席を出ていく。

 近藤、苦い表情で頭を掻く。


近藤「あーあ、また、やっちまった」

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