第14話 信じる女
人物表
星ひかる(33) 会社員
飯沢知樹(35) 無職
古川裕子(33) 会社員
山田久美(33) 会社員
山田圭介(33) 久美の夫
◯結婚式場・チャペル
ウェディング姿の山田久美(33)と山田圭介(33)が、バージンロードを歩いている。
大勢の出席者が拍手している。
出席者の中に、ドレス姿の星ひかる(33)と古川裕子(33)。笑顔で拍手している。
◯カフェ
ドレス姿のひかると裕子が座っている。テーブルにはコーヒー。足元には引き出物用の紙袋がある。
裕子「久美、綺麗だったね」
ひかる「圭介さんも格好良かったし」
裕子「お似合いの美男美女って感じ」
ひかる「ほんと、うらやましい」
裕子「うらやましいって、あんた……」
と、身を乗り出してくる。
裕子「今の彼氏とはどうなの。順調?」
ひかる「まあね」
裕子、拗ねたふうに、
裕子「そりゃ、うらやましい」
ひかる「実はね、昨年末から同棲をしてて」
裕子「ええっ!」
と、仰け反る。
裕子「なにそれ、聞いてないんだけど」
ひかる「ベラベラと喋ることでもないかなって思って」
裕子「水臭い。私とひかるの仲でしょ」
ひかる「ごめん」
裕子「じゃあ、ひかるももうすぐゴールインってわけね。おめでとう」
と、ひかるの手を握る。
ひかる「だと良いんだけど……」
と、裕子から視線を外す。
裕子「彼氏、乗り気じゃないの?」
ひかる「そういうわけじゃないと思うんだけど……」
裕子「どうしたの?」
ひかる「知樹くんも、いつか結婚はしたいと言ってはくれてるの」
裕子「だったらいいじゃない」
ひかる「でも、今はまだその時じゃないって」
裕子「なにそれ? 二人、付き合って何年だっけ?」
ひかる、小首を傾げて、
ひかる「二年……くらいかな」
裕子「長いとは言わないけど、短くもないよね。言いたくはないけど、私たちの年齢も考えると……」
ひかる「そうなんだけど、知樹くんの言い分もわかるの。忙しそうだし」
裕子「何やってるの?」
ひかる「その、なんていうか……、ミュージシャン的な……」
裕子「的な?」
ひかる「えっとその、まだ売り出し中みたいで」
裕子「はあ……」
裕子、コーヒーを一口飲んで、
裕子「大丈夫?」
ひかる「何が?」
裕子「何がって、その彼氏?」
ひかる「知樹くんは元気だけど」
裕子「いや、そうじゃなくて。どうやって生活してるの?」
ひかる「しかたないから私が面倒見てあげて……」
裕子「マジか……」
と、頭を抱える。
ひかる「どうしたの、裕子? 大丈夫?」
裕子、顔をあげて、
裕子「それはこっちのセリフ。私はひかるを心配してるの」
ひかる「私? どうして?」
裕子「ひかる、その彼氏に騙されてない?」
ひかる「知樹くんが私を騙す? まさか、ありえない」
裕子「本当に?」
ひかる「私の彼氏なのよ、当たり前でしょ」
裕子、眉間に皺がよる。
裕子「これからもずっと彼氏の生活費、ひかるが面倒見ていくの?」
ひかる「売れるまでの辛抱だって言ってる。それに、今だって家事は手伝ってくれるし」
裕子「それ、ああゆう男の常套手段よ」
ひかる「えっ?」
裕子「彼氏、ひかるを利用しているだけ」
ひかる、むっとする。
ひかる「そんなわけないでしょ! 裕子に知樹くんの何がわかるの」
と、席から立ち上がる。
ひかる「帰る、知樹くんが待ってるから」
裕子「ひかる!」
ひかる、席から去っていく。
裕子、ひかるの背中を目で追いかける。
◯ひかるのマンション・居間(夕方)
部屋の隅に埃のかぶったギターカバーが置いてある。
飯沢知樹(35)が横になってテレビを見ている。
飯沢、にやにや笑っている。
玄関の開く音が聞こえる。
飯沢、さっと立ち上がり、玄関に向かう。
◯同・玄関(夕方)
ひかる、玄関扉を開ける。
飯沢が微笑んで立っている。
飯沢「おかえり、友達の結婚式はどうだった?」
ひかる、視線を下に向けて、
ひかる「うん……」
飯沢「元気ないね。料理が不味かったとか」
ひかる「……」
飯沢、ひかるの腰に手を添える。
飯沢「とりあえず、中に入って」
と、ひかるを連れて中に入っていく。
◯同・居間(夕方)
テーブルにひかるが座っている。
飯沢が、ひかるの前に湯呑みを置いて、その隣に座る。
ひかる「ありがとう」
と、茶を一口飲む。
ひかる「それでに、裕子が、知樹くんが私を騙してるって言うのよ」
飯沢、表情をひきつらせる。
飯沢「俺が、ひかるを騙す? まさか」
ひかる「でしょ。そんな酷いこと言うなんて、ずっと友達だと思ってたのに」
飯沢「友達のことを悪く言っちゃダメだ」
ひかる「優しいね。知樹くんは、そんなこと言われて腹が立たないの?」
飯沢「その友達の心配もわからなくもないかなって」
ひかる「えっ?」
飯沢「現に俺、ひかるにすがって生活してるわけだし」
ひかる「気にしないで、私が好きでやってることなんだから」
飯沢「でも、本当に申し訳なくて……」
ひかる「いいの。それよりも、知樹くんは自分の夢を叶えて」
飯沢「ありがとう、ひかる」
と、ひかるの両肩を掴んで、ゆっくりと倒す。
仰向けになったひかり、飯沢を見つめる。
◯同・寝室(夜)
布団でひかるが目をつむっている。
その隣に飯沢。スマホを見ている。
ひかる「ねえ、知樹くん」
飯沢「なんだ、起きたのか?」
と、ひかるを見る。
ひかる「うん」
と、知樹の方に手を添える。
ひかる「今日、久美が来ていたウェディングドレス、すごく綺麗だった」
飯沢「そうか」
と、スマホへ視線を戻す。
飯沢「メシは美味かったのか?」
ひかる「うん」
飯沢「今度、俺も食べたいな」
ひかる「うん、一緒に行こう」
飯沢「楽しみだな」
飯沢、ひかるを見て、頭を優しく撫で始める。
ひかり、微笑む。
ひかる「披露宴もすごく良くて、久美の両親が泣いてるところ見て、私ももらい泣きしちゃった」
飯沢「そうか」
ひかる「私も、やっぱり結婚したいな」
飯沢、撫でる手が止まる。
ひかる「いい歳だし……、ちゃんと籍を入れたい」
飯沢、ひかるから手を離し、スマホを見る。
飯沢「俺だってそうしたい。でも、いま結婚しても、ひかるに苦労をかけるだけだ」
ひかる「いいの、今まで通りで。知樹くんのことが好きだから」
飯沢「ありがとう。今度ゆっくり相談しよう」
と、布団から出る。
ひかる「どこ行くの?」
飯沢「お腹すいただろ、夜食買ってくる。何食べたい?」
ひかる「じゃあ、おにぎり」
飯沢「わかった、財布借りるね」
と、ひかるに笑顔を向けて、出ていく。
◯道路(夜)
飯沢が歩いている。
飯沢「そろそろ潮時かな」
と、スマホを取り出す。
画面に「美佳」という名前。
飯沢、通話ボタンを押す。
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