容姿端麗なるウォーモンガーvs飢えに突き動かされる星空の巨人

第9話 流浪の歩哨

登場人物

―流浪の歩哨…悪魔同士の戦争に参戦する孤高の傭兵、宇宙を渡り歩く無数の手足の麗人、眼群に覆われたコズミック・エンティティ。



推定数十万年前:不明銀河、不明星系、不明惑星の遥か上空


 邪神の首席補佐官は己が幼い頃に見た光景を思い出していた。今よりも関節が多かった幼いあの日、悪しき龍神に仕えるよりも前のその頃、故郷の空を見上げた時。

 あれがなんであったのかは今でもよく知らなかった。恐らく主君であるクタニドであれば存じてはいようが、尋ねた事は無かった。

 大気が腐敗する匂いを初めて嗅ぎ、その悪臭に驚いた記憶が蘇った。


 流浪の歩哨という呼び名で知られたその実体は惑星の上で停泊した。無数の鉤爪じみた手足が蠢き、乱雑に配置された眼群があちこちを見ていた。

 この時はまだ封印されていなかったそれは、闇を纏った赤い肉体に彼方の太陽光を浴びながら、微弱なガンマ線を放出してしばし休憩しているものと思われた。

 悪魔同士の抗争に介入し、その時々の各々の魔王達の都合によって昨日の敵と同盟を結び、昨日は共に勝利を祝した別の魔王の宮殿を襲撃しに行く、そのような常日頃。

 それら日々の中で流浪の歩哨は久方ぶりにこちら側の宇宙に現れた。彼方にて輝く無数の星々、それが伴う星景、その地表の者ども。あちこちにある目がそれらを同時に観察していた。

 雄大であり、同時に郷愁を想起させるその恐怖を振るう者は己の美貌に似合わぬあくびで全身を蠢かせた。尋常ならざる実体が人間と同じような仕草を取り、周囲の放射線が道を譲る次第となった。

 するうち眼下の大気の層が歪み始めた。球体の果実の表面が徐々に腐るがごとく、その腐敗が広がっていった。

〔お前はなんだ?〕とそのような声が存在する事が信じられないような、幾重にも重複した奇妙だがずっと聴いていたくなる声が響き渡り、太陽の寿命が何万年か縮んだ。

 あらゆる言語をあらゆる種族の声や音、仕草、体表の発光、その他考えられるあらゆる手段で実施した声であった。無数の牙が繁茂する口が全身のあちこちで開き、そこから異界の風が流れ出た。

 するうち美麗なる実体の眼下にて光学迷彩が解除されゆく様のごとく、何かの輪郭が濃くなった。

 正三角形状に三つの点がめらめらと燃え盛り、ここにいるべきではない何かが形成されていった。

 その瞬間巨大な腕が出現し、それは星空そのものによって己を形作った四肢を持つ巨人であった。

 あり得ない速度で迫る腕が流浪の歩哨を鷲掴みし、無音の宇宙空間に空間が身をよじる異音が響き渡り、それこそまさに頂点捕食者同士の闘争の幕開けであった。

 巨大な船舶の数倍程ある流浪の歩哨は、己を鷲掴みにする巨大な星空の上半身を睨め付け、無数の眼群からは対象を石化させる呪いが放たれ続けていた。

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