第8話 納得できない結末

登場人物

―ルリム・シャイコース…妖艶なる白蛆の魔王、肥えた大蛇のごとき麗人、己の領界ドメインの支配者。

―レベル5の異常重力体…自我を持つ邪悪なブラックホール、星々を渡り歩くコズミック・エンティティ。



『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


詳細不明(リニア時間線的観点では恐らくコロニー襲撃事件以前):魔王の領界ドメイン


 己の領界ドメインが腐敗し、衰退し、ずたずたにされている事には気が付いていた。悠久の時を閲してなお健在なる魔王は劫初の惑星の煮え立つ海のように怒りを滾らせていたが、しかしそれで己の思い通りにならないという著しい侮辱的状況を変革させられるでもなかった。そのようにして怒りに浸りながら思案していると、己があたかも下劣なアドゥムブラリのごとき虫けらに思えて、余計に怒りが燃え盛った。何カ月も止まる事の無い山火事のごとく身を焼き尽くさんとする概念上の高温が全身を冷え切らせた。それと同時に、生物を模して作り出している己の模造血液が沸騰しているのを感じて余計に激昂した。よもや魔王である己が、アドゥムブラリのような弱い者虐めしかできない虫けらと同じ高さにいるとでもいうのか。それ故に眼前の忌々しいブラックホールを相手にして有効打を打てず、『望めば全てがそれに従う』はずのこの地で苦戦しているとでもいうのか。時間を遡らせて抹殺する事には何ら効果が無かった。あべこべの方向へと動く擬似的リニア時間に投獄しようとしたが、相手はまるで川下りでも楽しむかのように嘲笑っていた。様々な手段や方向性で現実を改竄し続けたが、相手には影響が及んでいないように思われた。相手の存在そのものへの干渉というものに対してある種の鉄壁性を持っているのではないかとさえ思われた。確かに己は字義通りの全知全能者とは言えないにしても、しかしこの有り様と仕打ちはあまりに残酷ではないかと諸宇宙を呪った。

 そもそも何故、『向こうからは一切の干渉ができない』という無敵性のルールを莫大な文量の契約書よりも更に細かく規定しているにも関わらず、相手は『どのような攻撃であれ妖艶なる白蛆の魔王には通用しない』というこの地の原則に違反し続けて、こちらを不快にさせ、忌むべき重力作用でこちらを損傷させる事ができるのか? たかだか驕った自然現象ごときが、何故ルールの制定者を殴打できるのか?

 ルリム・シャイコースは普段なら絶対に見せる事がないような激怒の形相でその美を損なってすらいた。目から零れ落ちる赤い未知の物質が相手を呪った。万物を無限大にして無限小にする矛盾による崩壊が襲い掛かっていた。無論その程度は頂点捕食者同士の牽制にすらならなかった。ルリム・シャイコースは戦闘に慣れているかと言うとそこまででも無かった。より戦闘的な魔王種族であるリヴァイアサンと比べれば己を脅かす程の強敵との闘争についての経験では圧倒的に劣っていた。

 不意に魔王は、己の全ての怒りが霧散した事に気が付いた。なんとしてでも掻き消さねば決して消えないであろう無限の残響が聞こえた。光言語に翻訳されたレベル5の異常重力体がこの地を去る際に残したもの。

 不快極まりなく、魔王は呪詛と共に怒りを再び巻き散らした。いつの間にか逃げられ、好き放題されたという屈辱が残った。

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