第7話 消費者が消費される時

登場人物

―ルリム・シャイコース…妖艶なる白蛆の魔王、肥えた大蛇のごとき麗人、己の領界ドメインの支配者。

―レベル5の異常重力体…自我を持つ邪悪なブラックホール、星々を渡り歩くコズミック・エンティティ。



『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


詳細不明(リニア時間線的観点では恐らくコロニー襲撃事件以前):魔王の領界ドメイン


 それは重力波のパターンを操作して、遠方の銀河の羽音による言語を重力波のパターンへと転写あるいは翻訳する形でげらげらと笑い、小馬鹿にした態度で妖艶なる白蛆の魔王の姿を消費者として楽しんでいた。地獄めいた愉悦と共に言語で罵倒し、いかに魔王が下劣であるかを雄弁に語った。

 まるで、ガス惑星の奥深くに潜みながら、超光速で旅する電波生命体が羽を休めて放熱するために惑星上空に近付くのをじっと待っている気色の悪い下等生物のようだと、自我を持つブラックホールは嗤笑気味に語った。相手が決して己とは対等ではない前提に立っており、理解し合うつもりなど無かった。思い上がった虫けらを蹂躙するという娯楽のための侵略であり、それ以上の何かではあり得なかった。魔王の心模様によって形成された直径十万光年程度の銀河の上をある種の闘技場として、それの直径の五分の一程度まで巨大化していた両者は絡み合う蛇か、あるいは炸裂するガンマ線バーストのように死闘を演じていた。金属を腐敗させる七次元の嵐の甲冑を纏う白い大蛇じみた異形の魔王は、その美麗さに似合わぬ形相を浮かべて相手の滅殺に取り組み、しかし相手の方はと言えば、そのような必死さを己の娯楽の物種として消費するのみであった。物理法則をかなり逸脱して発生した銀河規模のブラックホールをある種の『打撃』として放ち、それは物理的な物質の破壊のみならず、魂や精神にも同様の作用を与えるものであるらしかった。

 物質界とそれ以外の側面からの信じられない程に強力な同時攻撃はルリム・シャイコースにとっても痛みを感じるものであり、痛みを快楽として消費する高次の実体にとってさえ不快に感じる程の苦痛が走った。堕天して悪魔となった己にとってほとんどの他者とは消費の対象でしか無かったはずが、かようにして立場が逆転して消費される側となった途端、無限の怒りが燃え盛るものであった。先程からの怒りを源とした攻撃は確かにレベル5の異常重力体にとっても痛手ではあったが、しかし仕留めるには程遠く、無抵抗の想定でさえ全てのブラックホールが蒸発するその時まで殺害するには至らないと思われた。単純に、威力が低過ぎて相手を殺すのに時間が掛かり過ぎるのだ。神や高位の悪魔にとってもそれ程の時間をリニア時間に準拠して過ごすのはかなりの年月に感じられるものであった。

 とは言えリニア時間に合わせてやるつもりの無い魔王にとって過去も現在も未来も全て同列であったが、時間線を俯瞰する立場から見ても相手は予測不能であり、その行動を過去や未来の経過からは推定できなかった。

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